解説者のプロフィール

小林敬和(こばやし・のりかず)
タンタン整骨院院長。1979年長野県生まれ。メディカルKグループ代表。柔道整復師。頸椎セラピスト。長野県生まれ。日本柔道整復専門学校柔道整復科卒業。2007年タンタン整骨院を開院。『「おでこを冷やす」だけで心と体が元気になる!』(三笠書房)など著書多数。
▼タンタン整骨院(公式サイト)
収縮した血管が一気に広がり血流が増加
一般に、「健康のためには血流をよくすることが大切」とよくいわれます。
血液は、酸素と栄養という、細胞のエネルギーの素を運んでいて、体の不調の多くは、血流不足で神経や内臓の機能が低下したり、筋肉や関節の修復が間に合わなくなったりすることで起こっているからです。
そのため、皆さんの中には、日ごろから腹巻きをしたり、半身浴をしたりといった、さまざまな温熱刺激で体を温めようと気を配っている方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、温めるよりも、はるかに高い血流改善効果が得られる方法があります。それが、「あえていったん冷やす」ことです。
意外に思われるかもしれませんが、体は、冷やすとかえって温まる性質を持っています。
たとえば、手を氷水に入れて思い切り冷やし、氷水から手を出すと、冷たくなった手が一気に温まってポカポカしてくるのを感じるでしょう。これは、人間の体に、常に一定の状態を保とうとする性質「ホメオスタシス」があるからです。
急激に体の一部分だけを冷やすと、その部分の血管が縮んで血流が低下します。すると、その変化を阻止するための反応が起こり、今度はその部分の血管が急激に拡張し、たくさんの血液が集まってくるのです。
これは、人体の自然な反応を利用した方法なので、短時間で劇的に血行を改善でき、その部分を温めるだけよりも効果が長時間継続します。

縮んだ血管が反動で広がり血流がよくなる
氷のうを肌に密着させて一気に温度を下げる
では、どの部分を冷やすとよいのでしょうか。お勧めは、おでこと後頭部の頭蓋骨の際、耳の後ろの3ヵ所です。
おでこは、全身の司令塔であり、最も血液を必要とする脳に一番近く、また筋肉や髪などの「断熱材」の少ない部分です。
後頭部の際は、そうした脳からの指令を全身の内臓や筋肉に伝える神経が集まるターミナルであり、耳の後ろは、頭蓋骨から胸郭までをつなぐ首の筋肉が集まる場所なのです。
脳は、血流や内臓の働き、ホルモン分泌、免疫反応などを支配する自律神経の本体です。
自律神経は、活動をつかさどる交感神経と休息をつかさどる副交感神経の2系統がバランスよく働いているのが正常な状態ですが、生活の乱れやストレスなどでバランスがくずれることがあります。
脳に十分な血流が行かず自律神経のバランスがくずれると、
●血行不良→頭痛、めまい、耳鳴り、神経痛、腰痛、肩こり
●内臓機能低下→肥満、生活習慣病、慢性疲労、便秘
●ホルモン分泌の異常→うつ、不眠、婦人科疾患、気力の低下
●免疫力の低下→感染症やがん、アレルギーなどのリスク増
といった全身の不調につながります。
また、脳は、痛みや視覚・聴覚などを全ての情報を処理しています。興奮状態のときにはケガに気付かなかったり、逆に何も異常がないのに痛みを感じたりすることがあるのは、脳の機能が低下して、痛みの判断の誤作動を起こしているからです。
そのため、私の治療院では、特に慢性的な痛みについては、おでこや首すじを冷やすことを治療にも取り入れ、非常に高い効果を上げています。
頭蓋骨と首の境目は、脳神経の一つである迷走神経の出入口。
迷走神経は、頸部から胸部内臓、腹部内臓まで支配している、体の中で最長の神経です。迷走神経とそれに伴う血管の血流を改善することで、広く内臓の機能向上につながります。
耳の後ろの乳様突起には、首を斜めに走る胸鎖乳突筋がつながっています。
この胸鎖乳突筋がこり固まると、首や肩はもちろんのこと、鎖骨や胸骨も引っ張られて、肋骨に負担がかかり、胸郭がゆがんで、背中の筋肉や胸周りの筋肉もこわばるという、上半身全体の「こりの連鎖」を起こすのです。
胸郭がゆがめば、肺の機能も自然と弱まり、呼吸は浅くなりがちです。すると、血液が運ぶ酸素が不足し、細胞のエネルギー不足が起こります。
とはいえ、首周りは非常にデリケートで、専門家でもその部分をマッサージするのは非常に難しい部分ですし、脳そのものを刺激することもできません。
その点、おでこや首すじを冷やす刺激は、力を加えないので一般の方でも簡単に安全に行うことができます。
ポイントは、氷のうを肌に密着させ、1分以内という短時間で一気に肌の表面温度を下げること。ビニール袋に氷水を詰めた簡易氷のうが、一番柔軟に形が変わって、肌に密着しやすくお勧めです。
カチカチにならずにおでこや首にフィットするならゲル状の保冷剤でもOKですが、冷シップや冷感シートは冷感があるだけで、実際に熱を奪う効果はないので、NGです。
どうしても冷た過ぎてつらい場合は、ティッシュやハンカチなどを挟んでも構いませんし、室温を上げたり布団を被るなど、体の他の部分を温かくして行うとよいでしょう。1日に1、2回程度行ってください。
首・おでこ冷やし のやり方
氷のうを作る

ビニール袋に氷、少量の水、塩少々を入れ、口をしばる。ビニール袋を二重にしておくと安心。
※塩を加えることで、氷点下1~2℃に下がる。
おでこを冷やす
※必ず1分でやめること!

リラックスしてあおむけに寝て、おでこ(まゆから髪の生え際まで広い範囲が冷える位置)に氷のうを直接のせる。目を閉じ、体の力を抜く。1分たったら氷のうを外す。

通常36℃前後の皮膚温度を、一気に5~10℃に下げる温度差が一番のポイントなので、直接氷のうを当てるのが最も効果的。どうしても冷た過ぎると感じる場合は、ティッシュかハンカチを挟む。タオルは厚過ぎるのでNG。室温を高くしたり、布団を被ったりするのもよい。
首を冷やす
※必ず1分でやめること!
頭蓋骨の際
自律神経失調、不眠、便秘、片頭痛などにお勧め

耳の後ろ
めまい、肩こり、頭痛などにお勧め


リラックスしてあおむけに寝て、氷のうを上記の位置に当てて目を閉じ、体の力を抜く。耳の後ろは左右30秒ずつ、頭蓋骨の際は1分たったら氷のうを外す。

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。
www.makino-g.jp