解説者のプロフィール

清水逸平(しみず・いっぺい)
順天堂大学医学部内科学教室循環器内科学講座准教授。千葉大学医学部卒業。千葉大学大学院医学研究科修了。千葉大学病院循環器内科、国立国際医療研究センター、ボストン大学医学部などを経て、新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学先進老化制御学講座特任准教授。2021年4月より現職。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
糖尿病やメタボの改善につながる
脂肪といえば、「ダイエットの大敵」「肥満の元凶」といったイメージを持っているかもしれません。しかし、脂肪の中には体の代謝を高めて、やせるのに役立つ脂肪もあるのです。
それが、褐色脂肪です。
脂肪を大別すると、「白色脂肪」と「褐色脂肪」に分けられます。
白色脂肪は、血液中で余剰となった中性脂肪を貯蔵し、皮下脂肪や内臓脂肪として、まさに体重増加や肥満の原因となる脂肪です。中性脂肪を取り込むと肥大し、大きな粒々のような見た目になります。
一方、褐色脂肪は、首や鎖骨の周り、肩甲骨付近などに存在し、中性脂肪を分解して熱を産生して、エネルギーとして消費していく脂肪です。
褐色脂肪の粒は白色脂肪に比べて小さく、名前のとおり、褐色をしています。その色は、脂肪細胞内に多く抱え込んでいるミトコンドリアのものです。
ミトコンドリアは、細胞内にある小器官で、酸素と栄養を元にエネルギーを生み出す、いわば「細胞内の発電所」です。
体温を作り出すエネルギーも、細胞そのものの活動や内臓・器官の活動、運動のためのエネルギーも、このミトコンドリアが作り出しています。
では、褐色脂肪細胞の数が増えれば、やせやすい体質になれるのでしょうか。ところが、そう簡単にはいきません。
乳幼児のときには、褐色脂肪細胞の割合が多くなっていますが、加齢とともにどんどん減ってきてしまうものだからです。
ちなみに、大人になると、脂肪細胞のほとんどが、白色脂肪細胞で構成されるようになります。その傾向は、肥満している人ほど顕著です。
そしてここに来て、「ベージュ細胞」という新たな脂肪細胞が発見されて、注目を集めています。
このベージュ細胞は、なんらかの刺激を受けて白色脂肪組織から分化・転換し、褐色脂肪細胞に近い機能を持つようになった細胞です。
白色と褐色の中間色である「ベージュ色」の脂肪細胞で、刺激を受けたときに熱産生を行うという、中間的な特性を持つ脂肪細胞なのです。
寒冷刺激、運動、食事が褐色脂肪を活性化
先ほど、褐色脂肪は年齢とともに減少すると述べましたが、大人の褐色脂肪は、ほとんどがこのベージュ細胞で構成されていると考えられています。
脂肪蓄積型の白色脂肪を、脂肪燃焼型のベージュ細胞に変えることができれば、体の代謝が向上します。
そこから、肥満や糖尿病の改善やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などのリスク低下につながるのではないかと注目され、現在、さかんに研究が進められているのです。
ベージュ細胞を増やしたり熱産生を行うように活性化したりするきっかけは、交感神経(*)への刺激です。(*内臓や血管の働きを調節する神経)

第一の刺激は、5℃以下の寒冷刺激です。
褐色脂肪細胞やベージュ細胞の一番の役割は、体温維持です。そのため、寒さや冷たさを感じると、活性化して脂肪を燃やして熱を生み出そうとするのです。夏の暑いときには褐色脂肪の活性が低下し、冬には活性が上昇するといった、季節変動も起こっています。
私もあるテレビ番組で、熱中症予防用のアイスベルト(凍らせた保冷ジェルを首に巻けるようにした器具)を1週間、毎日2時間ずつ、首に装着してもらう取り組みを行ったところ、全員の褐色脂肪が活性化したことが確認できました。
首に巻いておくだけなのでそのまま家事や仕事ができますし、褐色脂肪が多い首周辺に、直接的に寒冷刺激を与えられるのがメリットです。
第二の刺激は運動です。
肥満マウスを2群に分け、一方に食物繊維の多い低カロリーの食事を食べさせ、ゲージ内で運動させたところ、そうでないマウスに比べて、褐色脂肪が明らかに増えたことが判明しています。
第三に、食事に含まれる成分にも、褐色脂肪細胞やベージュ細胞の活性に働きかけるものが確認されています。
トウガラシに含まれるカプサイシン(辛味成分)、赤ワインなどに含まれるレスベラトール(ポリフェノールの一種)、魚油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)、緑茶、ウコン(ターメリック)に含まれるクルクミン(ポリフェノールの一種)などです。
「脂肪を燃やす脂肪」が、これからの肥満改善のカギとなっていくかもしれません。

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。
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