解説者のプロフィール

日比野佐和子(ひびの・さわこ)
兵庫県生まれ。医療法人社団康梓会Y'sサイエンスクリニック広尾統括院長。医学博士。同志社大学アンチエイジングリサーチセンター講師、森ノ宮医療大学保健医療学部准教授、(財)ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部アンチエイジング医科学研究室室長などを歴任し、現職。大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学特任准教授を兼任。『39種類のダイエットに失敗した46歳のデブな女医はなぜ1年間で15㎏痩せられたのか?』(マガジンハウス)など著書多数。「眼トレ」シリーズは累計30万部を超えるベストセラー。
▼Y'sサイエンスクリニック広尾(公式サイト)
ダイエットとリバウンドをくり返してきた
私は、出生時体重が4000gというビッグベビーで、小学4年生で摂食障害(拒食症)になり、その後も10kg以上の極端なダイエットとリバウンドを何度もくり返してきた、筋金入りのダイエッターでした。
8年前、念願だったアンチエイジング(抗加齢)専門クリニックを開業した当時は、身長162cmで71kgと、私の人生で最高に太っていた時期でした。
まだアンチエイジング医療を専門に行うクリニックが珍しかったこともあり、雑誌やテレビの取材をいくつも受けたのですが、自分の写真が掲載された誌面を見て、愕然としました。
開業のストレスとプレッシャー、忙しさから自分に手をかけることができず、シミやくすみ、くまが目立つ顔はむくんでパンパン、二重あごもくっきり。13号、Lサイズの白衣もピッチピチ。アンチエイジング医療の説得力ゼロの自分の姿を、突きつけられたのです。
そこから一念発起し、食べ方などを変え、半年で約15kgの減量に成功したのが、42歳のとき。その結果、高かった中性脂肪値や悪玉コレステロール値も正常範囲に収まるようになりました。
シミやくすみも解消し、ある番組で肌年齢を測ったところ、当時の実年齢より20歳以上若い、22歳と判定されるようにもなったのです。
その後、リバウンドすることもなく、50代の今も52kg前後、服も7号サイズのベスト体形を維持できています。
ダイエットには、①栄養の吸収→②消化→③エネルギーの利用→④老廃物の排出という「代謝」の一連の流れをスムーズに効率よく行うことが必要です。ちまたにあふれる多くのダイエットは、この流れのどこかに働きかけるものが多いのですね。
これまでの数々のダイエット失敗から私が学んだのは、「無理な我慢の反動」を起こさないことの重要性です。特に、食べるものを我慢したり、我慢してお金と手間をかけたりする方法は必ず反動がきます。
「我慢せずにできるちょっとした変化」をいつの間にか「習慣」にする。
それがダイエット成功の極意だと思います。
お風呂上りに凍らせたペットボトルを当てる
そこでお勧めなのが、首、鎖骨、肩甲骨の周りを冷やすこと(やり方の詳細は下項参照)。この部分には、褐色脂肪細胞と呼ばれる特別な脂肪細胞があり、寒冷刺激で活性化することが確認されています。
脂肪細胞を活性化したら、かえって太りそうに感じるかもしれません。実は脂肪細胞には、大きく分けて白色脂肪細胞と、褐色脂肪細胞とベージュ細胞があります。
白色脂肪細胞は血液中の余分な中性脂肪や糖を取り込んで、ため込んでおく働きがあり、一般によくイメージされる脂肪は、この白色脂肪細胞です。
一方、ベージュ細胞と褐色脂肪細胞は、脂肪を燃焼させて体温を作りだす「石油ストーブ」のような働きをする脂肪です。
ヒトは恒温動物(外気温に関わらずほぼ一定の体温を保つ動物)ですから、「寒い! 冷たい!」と感じると、交感神経(血管や内臓の働きを調節する自律神経の一つ)を通して、褐色脂肪細胞に熱を作りだす指令が伝わります。
その指令を受けた褐色脂肪細胞が、体内に蓄積された脂肪をガンガン燃やして熱エネルギーとして消費していくので、代謝が上がり「やせスイッチ」が入るのです。

首・鎖骨・肩甲骨を冷やす。
私は日頃から、お風呂上がりに、冷凍庫で凍らせた500mlのペットボトルで首すじや肩甲骨周辺をマッサージしています。コツは、ペットボトルの水を2割ほど抜いて、立てて凍らせること。こうすると、口のところを握った手が冷え過ぎないので、マッサージがやりやすいのです。
マッサージのやり方に決まりはありませんが、いきなり心臓に近いところを冷やすのは、血管や心臓に負担がかかるので、NGです。手のひらなど、心臓から遠い部位から刺激を与えていくといいですね。
手のひらには褐色脂肪細胞はないのですが、温度を感じる「冷点」が密集しているため、手のひらを冷やすことでも交感神経が刺激され、褐色脂肪細胞の活性化につながります。
一方で、おなか周りを冷やすと代謝が下がるので、おなかには当てないようにしましょう。
首すじや鎖骨を冷やすときには、上から下、内から外にリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の流れに沿ってマッサージすると、むくみの解消にもつながります。肌の代謝もよくなるので、シミやくすみの改善にも有効です。
同じ場所にペットボトルを当て続けると凍傷になる恐れがあるので、ゆっくり動かしながら一つの部位は5分以内、全体で20分以内が目安。ひんやり気持ちよく、後から体全体がポカポカしてくる程度がベストです。
冷やして褐色脂肪細胞のやせスイッチが入った状態で、肩甲骨周りを動かすエクササイズを行うと、さらに効果的です。
ペットボトルマッサージのやり方
【ポイント】
◆1ヵ所につき、5分以内を目安に冷やす。
◆冷やした後で、肩回しなど、肩甲骨を動かすようなエクササイズを行うとさらに効果的。
◆冷た過ぎる場合は、服の上から行ってもよい。
◆いきなり心臓に近い場所を冷やさないこと。
◆血圧に不安がある人は、主治医と相談してから行う。
【やり方】
❶500mlのペットボトルに8割程度の水を入れ、冷凍庫で凍らせる。最初に包み込むように持ち、手のひらを冷やす。

【首〜鎖骨】
❷耳の後ろから鎖骨にかけて走る胸鎖乳突筋に沿って、ペットボトルでゆっくりなでおろす。
※顔のむくみ取りに効果的


❸鎖骨に沿って肩先まで、ペットボトルをゆっくり動かす。

【肩甲骨〜背骨の周囲】
❹後頭部の髪の生え際から首の付け根まで、後ろの首すじを上から下にゆっくりとなでおろす。

❺背骨の左右に当てる。肩甲骨の間でペットボトルを転がす。



この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。
www.makino-g.jp