解説者のプロフィール

工藤孝文(くどう・たかふみ)
みやま市工藤内科糖尿病内科医・漢方医・統合医療医。福岡大学医学部を卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。現在は、福岡県みやま市の工藤内科にて、糖尿病内科・ダイエット外来・漢方治療を専門に、地域診療を行っている。NHK「ガッテン!」「あさイチ」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビ出演多数。著書は50冊以上に及び、Amazonベストセラー多数。YouTube「工藤孝文のかかりつけ医チャンネル」が現在人気を集めている。
▼みやま市工藤内科(公式サイト)
1ヵ月ほどで数値に変化が出る
私の専門は、糖尿病の治療やダイエット指導ですが、糖尿病の患者さんには、必ずこうアドバイスをしています。
「食前に、キャベツをたっぷり食べてください」
これを実践すると、1ヵ月ほどで血糖値やヘモグロビンA1cの改善傾向がみられるからです。では、なぜキャベツなのでしょうか。理由は3つあります。
①糖質が少なめ
近年は、食事の最初に野菜を食べる「べジファースト」を実践している方も多いでしょう。野菜に豊富な食物繊維は、腸内での糖質の吸収をゆるやかにしてくれます。
ただ、野菜の中には、ニンジンやレンコンなどのように、糖質が多いものもあります。
その点、キャベツの糖質は、それほど多くはありません。可食部100g当たりの糖質量(利用可能炭水化物・単糖当量)は3.5gです(キャベツの葉は1枚100~120g)。
②かみ応えがある
生のキャベツは「かみ応え」があります。食べ物をかみ始めると、脳の咀嚼中枢が刺激されて「神経ヒスタミン」という脳内物質の分泌が促されます。
神経ヒスタミンは、満腹中枢を刺激して、食欲を抑えます。つまり、食事の最初にキャベツをよくかんで食べれば、食後の血糖値の急上昇を抑えつつ、食べ過ぎも防げるのです。
ちなみに神経ヒスタミンは、満腹中枢を介して交感神経(心拍数や血圧を上げるなど全身の活動力を高める神経)を刺激し、内臓脂肪の燃焼も促します。ですから、メタボが気になる人にもお勧めです。
③食物繊維のバランスがよい
生キャベツの食物繊維の量は、100g当たり1.8g。不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の割合は3対1です。
不溶性食物繊維は、便のかさを増やして便通をよくします。水溶性食物繊維は、腸内で善玉菌のエサになります。
近年の研究では、善玉菌が増えて腸内環境がよくなると、血糖値をコントロールしやすくなることがわかっています。
また、十分な食物繊維をとると、小腸ではGLP-1というホルモンの分泌が促されます。
GLP-1には食欲を抑えて食べ過ぎを防ぐ働きがあります。さらに、膵臓の細胞に作用して、インスリンの分泌を促進します。そのため、GLP-1は軽度の糖尿病の治療に用いられています。
「糖質制限ができない」という人も続けやすい
このように、キャベツは糖尿病の改善に非常に役立つ野菜です。
血糖値やヘモグロビンA1cの改善を目指すのであれば、1食につき、両手の手のひら1杯分の生のキャベツ(100g程度)を、食事の最初に食べるとよいでしょう。1ヵ月ほどで何らかの変化を実感できるはずです。
一口大にカットすると、かみ応えがあるのでお勧めですが、スーパーやコンビニなどで売っているキャベツの千切りを利用してもいいでしょう。
「生だと食べにくい」という人は、一口大に切ったキャベツに、熱湯をさっとかけて水気を絞った「湯通しキャベツ」もお勧めです。
加熱調理をしても構いませんが、かみ応えを残すために、火は通し過ぎない方がいいでしょう。炒め物やスープなどで食べる場合は、キノコやコンニャクなど、かみ応えのある食材とあわせるのもお勧めです。
ではここで、食前キャベツで糖尿病の数値が下がった症例をご紹介しましょう。
初診で来院した45歳の男性Aさんは「血糖値は下げたいけれど、薬は飲みたくない」「糖質制限も難しくてできない」とおっしゃいました。
Aさんは大食漢でしたが、食事で野菜はほとんど食べていませんでした。そこで糖質は制限せず、食前キャベツを勧めたのです。
すると3ヵ月で、AさんのヘモグロビンA1cは、8.5%から6.8%に低下しました。この結果は、糖質を意識して控えなくても、食前キャベツでおなかが満たされたことで、自然とご飯などの主食の量が減ったためだと思われます。
キャベツは、ビタミン・ミネラル類も豊富で、1年中比較的安価で手に入るのも魅力です。糖尿病の改善を目指す方は、ぜひ今日から食前キャベツを始めましょう。
食前キャベツのやり方
◎食事の最初に、両手の手のひら1杯分の生のキャベツ(100g程度)を食べる。

[POINT]
■キャベツはよくかんで食べる。一口大にカットすると、かみ応えがあるのでお勧め。マヨネーズやドレッシングなどをかけてもよい。
■加熱調理をしてもよいが、かみ応えを残すため、火は通し過ぎないようにする。キノコやコンニャクなど、かみ応えのある食材とあわせるのもよい。

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。
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