解説者のプロフィール
三田村理恵子(みたむら・りえこ)
藤女子大学人間生活学部食物栄養学科教授。
アルギン酸などの水溶性食物繊維の働き
私は食生活と健康との関連を研究していますが、理研ビタミン株式会社と共同で「ワカメ」の研究を始めたのは、5年ほど前です。
ワカメは、日本人になじみのある食材です。「ヘルシーで健康によい」というイメージをお持ちの方も多いでしょう。しかし、その効果については、解明されていない点が少なくありません。
そこで私たちは、食事と一緒にワカメを食べたときの、食後血糖値の変化について調べました。
健康な男女26名に、血糖値を2回測定してもらいました。1回は、ご飯(200g)と乾燥ワカメ(4g)を水で戻したものを食べてもらったときで、もう1回は、ご飯のみを食べてもらったときです。
4gの乾燥ワカメは、戻すと40gほどになります。これは、小鉢に山盛りくらいの、ややたっぷりとした量ですが、これを、ご飯を食べる5分前に食べてもらいました。
その結果、食前にワカメを食べた場合は、そうでない場合と比べると、食後30分で血糖値の上昇が明らかに抑えられました。

"Effects of Undaria pinnatifida (Wakame) on postprandial glycemia and insulin levels in humans:a randomized crossover trial" Plant Foods for Human Nutrition,74(4),461-467,2019より改変
その後も、ワカメを食べた場合の血糖値は、60分後をピークに低位で変化し、約120分後には、ワカメを食べなかった場合とほぼ同じ値になりました。
この実験では、食後のインスリンの分泌量も調べています。ワカメを食べた場合は、そうでなかった場合と比べて、インスリンの分泌量も抑えられていました。
私たちはこの実験の後も、ワカメを食前ではなく食事と一緒に食べたり、ご飯をカレーライスに代えたりして実験を重ねました。
いずれの実験でも、ワカメを食べた場合は、食後30~60分の比較的早い段階で、血糖値の上昇がゆるやかになりました。
さらに、消化管の状態を再現した試験管での実験で、ワカメのこの働きには、アルギン酸を含む水溶性の何らかの成分が関わっていることもつきとめています。
アルギン酸とは、食物繊維の一種で、褐藻類に多く含まれる多糖類です。ワカメやコンブ、モズクなどにみられるネバネバのぬめりは、このアルギン酸によるものです。
ワカメを食事と一緒に食べると、ワカメに含まれる何らかの水溶性の成分の働きによって、食べた物が胃から小腸へ送られるスピードがゆるやかになります。
つまり、小腸での消化のスピードが遅くなるため、血糖値の上昇が抑えられるようです。
膵臓の負担を減らす効果も期待できる
私自身は、ワカメを食べたときにインスリンの分泌量が抑えられる点に注目しています。
食後の血糖値の上昇をゆるやかにするといわれる食材の中には、インスリンの分泌量を増やすものもあります。
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンです。食後、血液中に増えた糖は、インスリンの働きによって筋肉などの組織へ送られて、エネルギーとして消費されます。
インスリンの分泌量が増えれば、確かに食後の血糖値は上がりづらくなるでしょう。ただ、分泌量が増えれば、その分、膵臓の負担は大きくなります。長期的に見れば、かえって糖尿病のリスクが上がるかもしれません。
一方、ワカメはインスリンの分泌量を必要以上に増加させないようです。ですから、糖尿病のリスクを下げるために、毎日の食事に取り入れやすい食材といえるのです。

酢の物にして食べるとより効果的
健康な人が糖尿病のリスクを避けたい場合、ワカメは1日に4g(乾燥)を目安に食べてください。乾燥ワカメ4gで、レタス約1/2個分の食物繊維が摂取できます。
食べ方は、汁物やサラダなどお好みで。お勧めは酢の物です。酢も、胃の中の食べ物を小腸へ送るスピードをゆるやかにするとされているからです。
食べるタイミングは、ご飯と一緒で構いません。カツ丼やカレーライスなどの糖質の多い食事のときに一緒に食べるなど、ご自分の食習慣に合わせて食べてください。
ワカメに豊富な水溶性食物繊維は、腸内で善玉菌を増やし、腸内環境を整えます。また、ワカメには消化管での脂肪の吸収を抑える働きもあります。
ですから、糖尿病の予防だけでなく、便通の改善や免疫力(病気に対する抵抗力)の向上、メタボ対策にも、ワカメはお勧めです。毎日の健康維持に、ぜひワカメをお役立てください。

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。
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