洗濯ばさみ療法で刺激するのは、爪の生え際の「井穴」や指の股の「八邪」といった、昔から「救急救命のツボ」として重用されてきた手のツボです。洗濯ばさみ療法を行えば、その場で手指の血流が、少しおいて全身の血流がよくなり、血糖値も下がります。【解説】松岡佳余子(アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師)

解説者のプロフィール

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松岡佳余子(まつおか・かよこ)

アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師。医師の中谷義雄博士の住み込み内弟子として鍼灸修行を始め、中国各地の中医薬大学、中医学院にて研修を行う。高麗手指鍼と出合って以来は、手に特化した鍼灸で効果を上げている。著書『輪ゴム健康法』(マキノ出版)など多数。

簡単にできて早く効果が出るのが特徴

私は10年以上前から毎月、セミナーで「手」を刺激する健康法を紹介しています。今回ご紹介する「洗濯ばさみ療法」も、そんな健康法の一つです。

洗濯ばさみ療法は、手に洗濯ばさみを挟むだけで、さまざまな不調を改善するものです。

血糖値も下がります。これまでにセミナーでは、血糖値が高い十数人にその場で血糖値を測ってもらい、洗濯ばさみ療法の効果を検証しています。その結果、1人を除いた全員が、わずか2~3分の洗濯ばさみ療法で10~30mg/dlほど血糖値が下がりました。

こう言うと「洗濯ばさみで、そんなに早く体が変わるわけがない」と不審に思われる方もいるでしょう。

しかし、洗濯ばさみ療法で刺激するのは、昔から「救急救命のツボ」として重用されてきた手のツボです。

例えば、爪の生え際の「井穴(せいけつ)」は、呼吸困難や心不全などの際に鍼を刺す「刺絡療法」で用いられます。指の股にある「八邪(はちじゃ)」には、毒ヘビにかまれたときに針を刺して、血と毒を抜きます。どちらも、救急時に迅速に生命活動の再開を目指すために用いるツボなのです。

手に救急救命のツボが多いのは、体調が悪化したときに、手の血流が真っ先に滞ることと関係があるのでしょう。

繊細な動作が求められる手には、小さな筋肉が集中しています。これらを自在に動かすためには、十分な酸素と栄養素が必要です。

そのため、手には指先を中心に毛細血管が密集しています。手の血管をつなげると、400kmになるという説もあるくらいです。

細い血管がたくさん集中しているため、手は体調悪化による血流の変化に敏感に反応します。そのため、健康状態を知る目安となる「血管年齢」は、手の指先で測るのです。

東洋医学で救急時に手のツボに鍼を刺して血を抜くのは、手指で滞った血を抜くことで、全身の血流に変化を与えて、生命活動の再開を促すのでしょう。

手の救急救命のツボを刺激する洗濯ばさみ療法は、早い効果が期待できます。高齢者や子どもを含め、誰でも簡単にできる点も魅力です。

画像: 手の毛細血管の図。つなげると400㎞になるという説もある

手の毛細血管の図。つなげると400㎞になるという説もある

そもそも洗濯ばさみ療法を考案したきっかけは、持病を持つ私自身がらくに手のツボを刺激するためでした。

私は心臓に持病があり、調子が悪いと、手の指圧すらおっくうになります。当初は、手のツボに市販のシール状の磁気治療器をはっていましたが、これはあまり効果がありませんでした。その後、ピンセットや目玉クリップなどを試し、最終的に洗濯ばさみにたどり着いたのです。

洗濯ばさみは、先端の丸い、挟む部分にウレタンやゴムなどのソフトな素材がついているものがお勧めです。このタイプの洗濯ばさみは、100円均一ショップなどで「ランジェリー用」として販売されています。

先端が四角い洗濯ばさみは、指の股に挟むと、皮膚に角が食い込んで痛みます。挟む部分がソフトだと痛みが少なく、初心者でも続けやすいでしょう。挟む部分にギザギザがついていると、指に挟んだときに滑らないので、使いやすいと思います。

洗濯ばさみ療法で用いるツボは、もともと刺絡療法などの強い刺激に適したツボです。ですから、慣れてきたら、挟んだときにやや強い痛みを感じる洗濯ばさみを選んでください。

洗濯ばさみ療法は、症状ごとに用いるツボが異なります。糖尿病は全身病ですから、今回は基本のツボである「井穴」と「八邪」をご紹介します。

井穴は痛みが強く感じられるツボです。慣れるまでは5~10秒程度の刺激で構いません。

洗濯ばさみ療法は、朝晩の2回を目安に行ってください。それ以上行っても問題はありません。ただ、手がひどく荒れているときなどは避けましょう。

続けると血糖値が低い値で安定してくる

洗濯ばさみ療法では、体調が悪いと痛みが強く感じられます。ですから、毎日の健康チェックにも、洗濯ばさみ療法はお勧めです。

糖尿病や高脂血症などの、いわゆる血液ドロドロ状態の人は、手指の血液が滞りがちです。全身の血流も悪くなるため、肩もこりがちです。

しかし、洗濯ばさみ療法を行えば、その場で手指の血流が、少しおいて全身の血流がよくなります。

試しに、指の股の八邪に洗濯ばさみを挟んだまま、腕をぐるぐると回してみてください。挟む前よりも肩が軽いのに気づくはずです。洗濯ばさみ療法の血流改善効果は、それだけ即効性があるのです。

画像: 洗濯ばさみを挟むだけで手や全身の血流がよくなる

洗濯ばさみを挟むだけで手や全身の血流がよくなる

今回の取材に際して、血糖値が高めの妹に協力してもらい、あらためて洗濯ばさみ療法の効果を検証してみました。その結果、妹の空腹時血糖値は、片手のみの1分半の洗濯ばさみ療法で、158mg/dlから134mg/dlに下がっています。

また、56歳の女性は、3週間の洗濯ばさみ療法で、食後血糖値が126mg/dlから99mg/dlに下がりました。体も疲れにくくなり、元気になった体感があるそうです。

ただ、洗濯ばさみ療法でいったん血糖値が下がっても、放っておけば、また血糖値は上がります。低い数値で血糖値を安定させるためには、継続が肝心です。私が洗濯ばさみ療法を指導した2名は、7~8%台だったヘモグロビンA1cが6%台まで下がるのに半年ほどかかりました。

今回は、手のひらの膵臓のポイントもご紹介します。糖尿病や膵臓の病気がある人は、このポイント周辺の筋肉が縮んで、米印のようなシワが現れがちです。シワがある人は、その上にも洗濯ばさみを挟んだり、手でもんだりして刺激してみてください。

洗濯ばさみ療法では、手のシワなどが消えて若々しい手になった人や、認知機能が改善した人などもいます。健康習慣の一つとしてぜひ続けてください。

「洗濯ばさみ療法」のやり方

【注意点】
1日2回、両手に行うとよい。
指先がうっ血して紫色になってきたら、洗濯ばさみはすぐ外すこと。
挟む場所に傷などがある、ヘバーデン結節などで関節に痛みがある場合は、その箇所は避けて行う。

【用意するもの】洗濯ばさみ5個
※自宅にある物を使用してもよいが、できれば先端の丸い、挟む部分にウレタンやゴムなどのソフトな素材がついているものがお勧め。このタイプの洗濯ばさみは、100円均一ショップなどで「ランジェリー用」として販売されている。

画像1: 「洗濯ばさみ療法」のやり方

【挟む場所・その1】
井穴(せいけつ)
手の爪の生え際の両端。

画像2: 「洗濯ばさみ療法」のやり方

【挟む場所・その2】
八邪(はちじゃ)
手の指の股。

画像3: 「洗濯ばさみ療法」のやり方

膵臓のポイント
親指と人さし指の間の股の高さと、薬指から下に下ろしたラインが交わる箇所。

画像4: 「洗濯ばさみ療法」のやり方

【挟み方・その1】
片方の手の指の井穴を、洗濯ばさみでそれぞれ挟む。洗濯ばさみの先端が、井穴に当たるようにする。30秒から1分ほどそのまま挟む。反対側の手も同様に行う。
※人によってはかなり強い痛みを感じる。その場合は、我慢できなくなったら外してよい。

画像5: 「洗濯ばさみ療法」のやり方

【挟み方・その2】
片方の手の八邪と膵臓のポイントを、洗濯ばさみでそれぞれ挟む。30秒から1分ほどそのまま挟む。反対側の手も同様に行う。
※膵臓のポイントに洗濯ばさみが届かない場合は、大きめの洗濯ばさみを使用するか、指で刺激をするとよい。

画像6: 「洗濯ばさみ療法」のやり方
画像: この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。

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