食後に10分か20分、軽く歩くだけでも血糖値を下げる効果が得られます。なかなかできないという人は、「座りっ放しでいない」ことだけでも、血糖値の改善に役立ちます。特に夕食後、寝るまでの3時間は重要です。【解説】森豊(東京慈恵会医科大学客員教授、東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長)

解説者のプロフィール

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森豊(もり・ゆたか)

東京慈恵会医科大学客員教授、東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。1955年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学客員教授、同大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。医学博士。東京慈恵会医科大学卒業後、40年にわたって糖尿病患者の診療を続けてきた、糖尿病治療・研究のエキスパート。著書に『血糖値は「腸」で下がる』(松生恒夫氏との共著・青春出版社)がある。
▼東京慈恵会医科大学附属第三病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

[別記事:糖尿病専門医が指導する食事のポイント7ヵ条→

食後1〜2時間が運動のゴールデンタイム

血糖値を上手にコントロールするには、「運動」もとても重要です。

と言えば、「肥満は糖尿病の大敵だから、『運動で体重を減らせ』という意味だろう」と思われるかもしれません。確かに、それも糖尿病に対する重要な運動の効果です。

しかし、肥満の予防・改善といった長いスパンの効果だけでなく、実は運動には、「やればたちまち血糖値を下げる」、あるいは「血糖値の上昇を抑える」という即効的な効果があるのです。

これを、運動による「急性効果」と呼びます。

ブドウ糖は筋肉のエネルギー源です。運動をすると、体内のブドウ糖が消費されるので、血糖値が素早く下がるのです。

また、ブドウ糖を細胞に取り込ませるインスリンの分泌量が少なかったり、その効きが悪かったりすると、筋肉に糖が十分取り込まれず、血中にだぶついて、血糖値が上がります。

糖尿病患者さんによくみられるこのような状態のときも、運動をすることで、筋肉細胞への糖の取り込みが促進されるので、血糖値を下げることができます。

特に、血糖値コントロールの大きな課題である「食後高血糖」の抑制には、運動が優れた効果を発揮します。

そのための運動は、ハードなものである必要はなく、ごく軽いものでも効果があります。

例えば、ウォーキングというと、1回に1時間くらい継続して歩くことをイメージするかもしれませんが、食後に10分か20分、軽く歩くだけでも血糖値を下げる効果が得られます。

血糖値コントロールのためには、まとめて1時間歩くより、毎食後に20分ずつ歩く方が、むしろ効果的です。食後は刻一刻と血糖値が上がりますが、運動をすることで、それを食い止めることができるのです。

とはいえ、食事の直後に運動すると、消化管に行くべき血液を筋肉が奪ってしまいます。そこで、食事の食べ始めを0として、1時間後までは動かないようにするのが目安です。

そして、1時間から2時間の間が、血糖値を下げるための運動の「ゴールデンタイム」です。ぜひ、この時間帯に運動しましょう。

朝・昼・夕食の後に、それぞれ運動するのが理想ですが、毎食後は無理なら、夕食後に行うのがお勧めです。

3食のうち、一番血糖値が上がりやすいのは、何といっても夕食後です。ですから、夕食後に運動し、血糖値を下げた状態で寝ることが望ましく、それが翌日の血糖値コントロールにもよい影響を与えます。

運動の種類は、先ほど述べたように、10〜20分程度でもウォーキングができれば望ましいのですが、「夕食後、外に出るのはおっくう」という人も多いでしょう。

その場合は、家の中で踏み台昇降や足踏み運動をしたり、家の中に階段があるなら、上り下りしたりするだけでも構いません。これらでも十分、血糖値を下げる効果が得られます。

すきま時間には簡単な筋トレを

そしてもう一つ、見逃せない運動の効果があります。それは、「筋肉を保持する」ということです。

通常、40歳を過ぎると、基礎代謝がどんどん落ちてきます。基礎代謝とは、安静にしていても消費するエネルギーのことです。基礎代謝が下がることで、同じ食事量でも太りやすくなり、結果的に糖尿病に悪影響を与えます。

年齢とともに基礎代謝が落ちる大きな理由は、筋肉が減ることです。そこで、筋トレをして筋肉量を維持できれば、基礎代謝の保持、ひいては糖尿病のコントロールに役立ちます。

実際には、筋肉の量以上に「質」も問題です。40歳を過ぎて高齢になるほど、筋肉の間に脂肪が入り込み、「霜降り」のような状態になってきます。こうなると、見た目の筋肉量の減り方以上に、基礎代謝が落ちます。

また、筋肉が「霜降り」になること自体、インスリンの効きを悪くします。それを防ぐ意味でも、少しずつでもよいので、筋トレを取り入れましょう。

筋トレといっても、ハードなものは必要なく、以下のようなもので十分、効果があります。

【安定したいすに座って】
上体をひねったり、横に倒したりする。
両足を床と平行になるまで上げ、下ろす。

【あおむけに寝て】
お尻を浮かせたり、下げたりする。
足を伸ばして上げ下げする。
両足を上げて自転車こぎ運動。

いずれも、回数の目安は5〜10回です。できる人は、回数や強度を増してみてください。一般的なスクワット(立って腰を上げ下げする)などでも、もちろん結構です。

この程度なら、テレビを見ながらでも、起きたときや寝る前にもできますし、いすに座って行うものなら、オフィスで仕事の合間にもできるでしょう。すきま時間などにも行い、「筋肉を使う」という意識を持ってみてください。

こうした筋トレを、食後に行っても構いません。そうすれば、血糖値コントロールと筋肉保持ができて一石二鳥です。

食後のゴロ寝は厳禁!なるべく動こう

「運動の効用はわかるが、やはり運動したくない」「なかなかできない」という人もいるでしょう。そんな場合にも、できることがあります。それは「座りっ放しでいない」ことです。

最近の研究では、「長時間、座りっ放しでいること」が体に与える弊害が明らかになってきています。1日に9時間以上座っている人(成人)は、7時間以内の人に比べて、糖尿病のリスクが2.5倍高いというデータもあります。

座りっ放しが30分以上続くと、代謝が悪化するといわれています。少なくとも30分に1回以上は立って用事をしたり、体を動かしたりしましょう。

特に夕食後、寝るまでの3時間に「座りっ放しでいない」ことは重要です。

食後にすぐ横になるのは血糖値を上げる元ですが、座ったままもよくありません。「おーい、お茶」「それ取って」と言わずに、自分で動くことが大切です。

夕食後に、今までゴロンと横になっていた人や、座りっ放しだった人がそれを実行するだけでも、血糖値の改善に役立ちます。

この他、食後の入浴も運動に準じた効果があり、血糖値を下げる効果が期待できます。

なお、運動・入浴ともに主治医の指導を受け、安全にできる範囲で行いながら、血糖値コントロールに役立ててください。

血糖値コントロールに役立つ運動 まとめ

糖尿病に対する運動の効果

①軽い運動でも、すぐに血糖値を下げる働きがある
②筋肉を保持し、基礎代謝を高めて、インスリン抵抗性を改善する
③筋肉の霜降り化を防いで、インスリンの効きをよくする

運動を行うタイミング

食事の開始を0として、1~2時間後までの間がお勧め。毎食後行うのが理想。

お勧めの運動

[ウォーキング]
・毎食後に10~20分程度行うのがお勧め。毎食後が無理なら、夕食後だけでも行うとよい。
・外に出るのが難しいなら、家の中で踏み台昇降や足踏み運動、階段の上り下りなどをしても。

[筋トレ]
・ハードな筋トレを行う必要はなく、体の大きな筋肉を使えていればOK。
・いすに座って上体をひねったり、倒したりする、足を上げる、スクワットなどの筋トレを、5~10回程度行う。
・1日何度行っても、食後の運動として行ってもよい。

画像1: 血糖値コントロールに役立つ運動 まとめ

[「座りっ放し」でいない]
・座っている時間が長いと、糖尿病のリスクが高まるというデータがある。少なくとも30分に1回以上は立って体を動かすとよい。
・食後すぐに座ったり、ゴロッと横になったりするのは最悪。立っているだけでもいいので、特に夕食後3時間は、家事をするなどして、座りっ放しでいないよう心がける。

画像2: 血糖値コントロールに役立つ運動 まとめ
画像: この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。

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