解説者のプロフィール

森豊(もり・ゆたか)
東京慈恵会医科大学客員教授、東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。1955年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学客員教授、同大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。医学博士。東京慈恵会医科大学卒業後、40年にわたって糖尿病患者の診療を続けてきた、糖尿病治療・研究のエキスパート。著書に『血糖値は「腸」で下がる』(松生恒夫氏との共著・青春出版社)がある。
▼東京慈恵会医科大学附属第三病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
[別記事:血糖値コントロールのカギは腸にあり! 水溶性食物繊維で腸から血糖値を下げよう→]
朝食は抜かず、夕食は早い時間に軽めに
血糖値をうまくコントロールするため、最も重要なのが食事療法です。
私は、日頃から糖尿病患者さんには、「食事療法に勝る薬はありません」と話し、できるだけ具体的な食事の注意や工夫をお伝えしています。今回は、その中でも重要な、7つのポイントをご紹介しましょう。
これらは、「一度に全部やろう」と気負わなくて結構です。これまでできていなかったポイントを一つでも実行すると、多くの場合、血糖値やヘモグロビンA1cの数値が改善されてきます。目に見える形で効果が現れるので、「次のポイントにも取り組んでみよう」という意欲が湧いてくるものです。
できることから一つずつでよいので、ぜひ取り入れてみてください。
①朝食は抜かない
私は、糖尿病の患者さんには「朝食は薬だと思ってとってください」とよく言っています。「朝食を抜かずにとる」ことは、それほど大切なのです。
健常者を対象に、1日の総摂取カロリー(エネルギー)は同じにして、以下の場合の血糖値を比較した実験があります。
①朝・昼・夕の3食をバランスよくとる。
②朝を抜いて昼・夕食の2食をとる。
③朝・昼を抜いて夕食だけの1食をとる。

Diabetes Care.57(10):2661-2665.2008
すると、①はゆるやかな変化でしたが、②では昼食後に大きく上がり、③ではそれ以上に、夕食後の血糖値が跳ね上がりました。
絶食時間の長さに比例して、次の食事での糖の吸収がよくなるため、こうした血糖値の急上昇が起こるのです。
②や③のように血糖値が乱高下すると、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞や血管に大きな負担がかかり、糖尿病や合併症の悪化を招きやすくなります。別の実験では、朝食を抜くと、昼食の際のインスリン分泌のタイミングが遅くなることもわかりました。
朝食で少しでも糖質をとっておけば、それがウォーミングアップになって、インクレチン(インスリンの分泌を促す消化管ホルモン=詳しくは冒頭別記事参照)が出やすいのに対し、朝食を抜いてしまうと、その準備ができないため、反応が遅れるからだと考えられます。
「朝食を抜けば、その分、カロリーオフになっていいだろう」と思う人もいるようですが、それは大きな誤りです。「朝は時間がない」という人も、少量でもよいので、朝食をとる習慣をつけましょう。それが血糖値を上げない第一の秘訣です。
②昼のそば・丼物には注意
「昼はそばか丼物で、サッと済ませる」という人は多いでしょう。実はこれも、血糖値を上げる大きな要因になります。
「そばは体にいいのでは?」と思う人もいるかもしれません。確かに、そばは食物繊維の含有量が多く、白米やうどんよりも血糖値を上げにくい食材です。
しかし、麺類はツルツルと早食いになりやすく、量もオーバーしがちなのが難点です。
一方、丼物は、天丼、カツ丼、うな丼など、多くが砂糖を含む甘いタレを使い、糖質と脂質のコンビになっています。
脂質は消化されにくいため、糖質と一緒にとると、血糖値を上げにくいという利点があります。しかし、多量の糖質と脂質を同時にとると、血糖値の上昇はゆるやかでも、上がった血糖値がなかなか下がらないという弊害が起こります。
そばや丼物は単品になりがちで、多くの場合、野菜料理をとらないのも問題です。昼食にはできるだけ、高カロリー過ぎない魚などの定食で、野菜料理がついたものを選びましょう。
③夕食の「ビッグミール(ドカ食い)」は最悪
朝食抜きは血糖値の乱高下を招きますが、その隠れた原因が「夕食のとり方」にあるケースが多いものです。そのため、私は講演会などでは「夕食を制するものは、糖尿病を制する」とお話ししています。
夕食がなぜ重要かというと、「ビッグミール」になりやすいからです。ビッグミールとは、大食い・ドカ食いのことです。
朝・昼に比べて落ち着いてとれる夕食は、油断するとついビッグミールになってしまいます。すると朝・昼と違って夕食後は、あまりエネルギーを使わないこともあって、血糖値が下がり切らずに寝ることになりがちです。
その結果、就寝中、ずっと高血糖状態が続き、翌朝、血糖値の高いまま1日をスタートすることになります。これは血糖値が「げたをはいた」状態なので、その日は1日中高血糖になりやすく、その後2〜3日の血糖値も乱高下しやすくなります。
夕食は軽めにし、その分、朝食・昼食をしっかり、バランスよく食べましょう。
④夕食は早めに食べる
夕食は、時間帯も問題です。同じ食事内容でも、夕食をとる時間帯によって、血糖値の推移は大きく変わるからです。
これについては、国内外で多くの研究がされています。それらによると、18時に夕食をとった場合に比べ、21時や22時などの遅い時間帯に夕食をとると、血糖値が急激に上がりやすい上、ピークの数値も高く、かつ下がりにくいという結果が出ています。
ただ、どうしても早い時間に夕食をとれない人もいるでしょう。その場合にお勧めなのが「分食」です。
これは、夕方の時間帯に、おにぎりやサンドイッチといった手軽にとれる糖質食品をとり、帰宅後の夕食では、海藻、キノコ、緑黄色野菜、豆類と主菜など、糖質の少ない食品を食べる方法です。糖質だけを先取りして食べることで、血糖値の上がり方がゆるやかになります。
⑤野菜→魚か肉→主食の順番に食べる
同じ食事内容でも、食べる順番で、血糖値の上がり方は大きく変わります。
最も重要なのは、食事の最初に野菜を食べることです。
京都女子大学などの研究グループによる実験では、「野菜→主食(ご飯、パン、麺類など)」の順に食べると「主食→野菜」の順に食べたときより、血糖値の変動が30%も減少することがわかりました。同時に、食後の血中インスリン値も30%近く抑制されました。その分、インスリンが節約できることになります。
近年の研究では、「野菜→魚や肉などのたんぱく質源→主食」の順に食べると、最も食後の血糖値の上昇が抑えられることも判明しました。
野菜の次に魚や肉をとると、胃から小腸への食物の排出が遅くなり、さらに、インスリンの分泌を促すインクレチンが、腸から出やすくなることがわかっています。そのため、主食の前に魚や肉を食べると、血糖値の抑制により効果的なのです。
この作用は、魚でも肉でも同じですが、肉の脂質のとり過ぎは動脈硬化の促進につながるのに対し、魚の脂質は動脈硬化を抑制するので、肉に偏り過ぎないよう、バランスよくとるとよいでしょう。
果物は食べてもいいが時間と食べ方に注意
⑥果物は朝食後か昼食後に
果物はビタミン・ミネラル類が豊富な食材ですが、血糖値を上げるブドウ糖、ショ糖、果糖も多く含まれます。また、果糖は肝臓で中性脂肪に変換されます。
ビッグミールになりやすい夕食後に果物を食べると、それに輪をかけて血糖値や中性脂肪値が上がりやすくなるので、要注意です。
果物を食べるなら、朝食後か昼食後に食べるとよいでしょう。お勧めなのは、食物繊維が多く、比較的糖類が少ない、キウイフルーツやリンゴです。
ただし、果物をすりおろしたり、ジュースにしたりしてとると、血糖値が急激に上がるので要注意です。ドライフルーツも糖類が凝縮されているので、食べるなら、新鮮な果物をそのまま味わいましょう。
⑦晩酌のつまみは低糖質のものを
「お酒の中では低糖質のウイスキーや焼酎がよい」「糖質の多いビールや日本酒はよくないが、糖質オフ製品ならよい」と思っている人は多いでしょう。お酒による血糖値の上昇だけを考えれば、その通りです。
ただし、その違いが明確になるのは、低糖質の健康的なつまみを選んだ場合です。つまみで糖質を多くとり、さらに締めのラーメンなどまで食べてしまうと、つまみによる血糖値上昇が大きいので、お酒の種類による差は意味がなくなります。
つまみは野菜サラダ、枝豆、冷ややっこ、サラダチキン、塩の焼き鳥、ゆで卵、チーズといった低糖質のものを選びましょう。その上で、糖質の少ない酒類を選べばベストです。
血糖値コントロールに役立つ食事のポイント7ヵ条 まとめ
朝食は抜かず、3食バランスよく食べる
血糖値の上がり幅が最も少ないのは、3食きちんととったとき。食事を抜くと、次の食事で血糖値が大きく上がるので、3食きちんと食べる方がよい。

昼食のそばや丼物は控える
そばは早食いになりやすく、食べ過ぎになりがち。「糖質+脂質」の組み合わせである丼物を食べると、食後の血糖値がなかなか下がらない。

夕食のドカ食いはやめる
夕食後はあまりエネルギーを使わないので、血糖値が下がり切らないうちに寝ることになる。そうすると就寝中、ずっと高血糖状態が続き、翌朝も血糖値が高いままになってしまう。

夕食はなるべく早めに食べる。無理なら「分食」を
遅い時間に夕食をとると、血糖値が急激に上がりやすく、数値も高くなり、かつ下がりにくい。早い時間に夕食をとるのが無理なら、夕方におにぎりやサンドイッチなどを少し食べておき、帰宅後は糖質の少ない食品を食べるようにするとよい。

野菜→魚や肉→主食の順番に食べる
この順番で食べると、食後の血糖値の上昇が最も抑えられる。また、野菜の次に魚や肉をとると、インスリンの分泌を促すインクレチンが出やすくなる。

果物を食べるなら、朝食後か昼食後に
夕食後のデザートに食べるのはやめ、朝食後か昼食後に食べるとよい。キウイフルーツやリンゴがお勧め。ジュースにすると血糖値が急上昇するので、そのまま食べる。

晩酌のつまみは低糖質のものを
低糖質のお酒+糖質の多いつまみをとったときと、高糖質のお酒+糖質の多いつまみをとったときを比べると、血糖値の上がり方は、実はほぼ同じ。晩酌をするなら、低糖質のお酒+糖質の少ないつまみで。ただし、飲み過ぎには注意!


この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。
www.makino-g.jp