血糖値の高い状態が続くと、免疫力が低下し、感染症全体にかかりやすくなります。そして感染症にかかると、体内インスリンの効きを悪くする物質が多く分泌されるため、糖尿病の悪化も招きます。まずはヘモグロビンA1cを「7%以下」に保つことが鉄則です。【解説】森豊(東京慈恵会医科大学客員教授、東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長)

解説者のプロフィール

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森豊(もり・ゆたか)

東京慈恵会医科大学客員教授、東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。1955年東京都生まれ。東京慈恵会医科大学客員教授、同大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。医学博士。東京慈恵会医科大学卒業後、40年にわたって糖尿病患者の診療を続けてきた、糖尿病治療・研究のエキスパート。著書に『血糖値は「腸」で下がる』(松生恒夫氏との共著・青春出版社)がある。
▼東京慈恵会医科大学附属第三病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

糖尿病患者はコロナの重症化を招きやすい

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の世界的な脅威の中、今ほど感染症に対する関心が高まっているときはないでしょう。

私は糖尿病の専門医として、日々、患者さんたちと接していますが、最近はよく、「糖尿病だとコロナにかかりやすいのでしょうか」と聞かれます。

今のところ、糖尿病があることで、コロナにかかりやすくなるというデータは出ていません。とはいっても、油断は禁物です。糖尿病の人がコロナにかかると、重症化しやすいというデータは出ているからです。

流行初期の米疾病対策センター(CDC)による報告では、コロナ患者のうち、糖尿病患者の割合は全体の10・9%でしたが、入院治療した割合で見ると、一般病棟で24%、集中治療室(ICU)では32%となっています。それだけ糖尿病の患者さんは重症化する率が高いことがわかります。

そもそも糖尿病患者さんにとって、感染症は大敵です。血糖値の高い状態が続くと、病原体に対する抵抗力(免疫力)が低下し、感染症全体にかかりやすくなるからです。

近年、オーストラリアで糖尿病患者110万人を対象に行われた大規模な疫学調査(集団を調べて病気の原因や発生状態を明らかにする調査)では、2型糖尿病の患者は、健常者に比べて、感染症による死亡率が1.5倍という結果が出ています。インフルエンザや、それに続く肺炎などによる死亡率が高いことも認められています。

身近な感染症の中で、糖尿病との深い関係が注目されているのが、歯周病です。歯周病は、歯周病菌による感染症ですが、糖尿病があると起こりやすく、重症化しやすいことが広く知られています。

逆に、歯周病が進むと、糖尿病も悪化しやすく、両者は悪循環を招きます。さらに、歯周病による歯肉の炎症があると、糖尿病の合併症も進みやすくなります。

糖尿病の合併症として大きな問題となる腎症や動脈硬化なども、糖尿病で血糖値の高い状態が続くほど、進みやすいことがわかっているのです。

免疫機能が低下する可能性がある

糖尿病があると、なぜ感染症の発症や重症化リスクが高まるのかについては、ある程度、解明されています。

私たちの体内では、ウイルスや細菌などの病原体との戦いが、常にくり広げられています。病原体と戦う力を免疫力といい、病原体の侵入を防ぐしくみを感染防御機構といいます。

糖尿病だと、そのしくみが突破されやすくなります。例えば、病原体と戦う主力となる血液中の白血球のうち、好中球という種類は、病原体を食べる「貪食機能」で体を守りますが、血糖値が高くなると、この機能が低下することがわかっています。

他にも糖尿病の影響で、まだ解明されていない免疫機能の低下が起こっている可能性があります。

感染症にかかると、体内ではインスリンの効きを悪くする物質が多く分泌されるため、糖尿病の悪化も招きます。そして、感染症の治療を行うと、糖尿病のコントロールが良好になるというデータもあります。特に、歯周病を適切に治療すると、糖尿病にもよい影響があることが明らかになっています。

もちろん、まずは糖尿病であっても、感染症・合併症の発症や重症化を防げる状況にしておくことが何よりも大切です。

それには、ヘモグロビンA1cを「7%以下」に保つことが鉄則です。ヘモグロビンA1cは、過去1〜2ヵ月の血糖値の平均を表す指標です。

歯周病学会では、歯周病の悪化を防ぐ血糖値コントロールの目安として、ヘモグロビンA1cを7%以下に保つことを推奨しています。他の感染症についても、おおむねこの目安が当てはまると考えてよいでしょう。

ヘモグロビンA1cの治療目標値は6%未満で、それを継続するのがベストですが、少なくとも「7%以下」に保てば、感染症・合併症やその重症化リスクを低く保てるのです。

重要なのは、あくまでも血糖値のコントロールです。

「糖尿病治療薬やインスリン注射などを使っていたら重症」「食事療法だけなら軽症」ではなく、薬やインスリン注射を用いていても、ヘモグロビンA1cが7%以下なら、感染症・合併症のリスクは低く保てます。

逆に、食事療法だけの患者さんでも、ヘモグロビンA1cが7%を超えることが続くと、要注意です。

この目安を知っておき、上手に血糖値コントロールをして、ぜひ感染症・合併症やその重症化を防いでください。

■糖尿病でリスクが高まる主な感染症
上気道炎(カゼ)・肺炎・結核
歯周病
皮膚感染症(白癬やカンジダ症など)
尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎など)
胆嚢炎
■新型コロナウイルス感染症のリスクは?
現状では、糖尿病だとかかりやすくなる、というデータはない。しかし、かかると重症化しやすいというデータは出ている。
■リスクを減らすためには?
いかなる場合もヘモグロビンA1cを「7%以下」に保つことが重要!

画像: この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年9月号に掲載されています。

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