解説者のプロフィール

大澤俊彦(おおさわ・としひこ)
愛知学院大学・人間総合科学大学特任教授・農学博士。1969年、東京大学農学部農芸化学科卒業。74年、同博士課程修了。農学博士。名古屋大学生命農学研究科教授を経て、2010年、同大名誉教授。その後、愛知学院大学心身科学部教授、学部長を経て現在に至る。専門は、食品化学、応用生物化学、生物生産化学・生物有機化学。1990年代、アメリカの「デザイナーフーズ計画」に参加。機能性食品研究、特に抗酸化食品研究の第一人者。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
脂質の燃焼を促しエネルギー産生を高める
私は長年、食品が体にどんな影響をもたらすか、科学的に実証する研究を行ってきました。特にスパイスは、私の主要テーマの一つです。
スパイスとは、いわゆる香辛料のことで、料理に香りと刺激をもたらします。コショウや唐辛子、クミンなどのほか、ショウガやニンニク、ワサビ、シソなどもスパイスの一種です。
スパイスは油の酸化を防ぐとされ、昔から食品の保存のために活用されてきました。しかし、むろんスパイスの働きはそれだけではありません。スパイスが体の中に入ったとき、どのように働くのか。その生理調節機能は、次の五つにまとめることができます。
❶抗酸化作用
スパイスの多くは、高い抗酸化力を持っています。
体内に侵入してきた病原菌などを撃退するために働く活性酸素は、増え過ぎると、私たちの体自体を攻撃してしまいます。通常は、活性酸素が暴れないように、体内の抗酸化酵素がコントロールしているのですが、加齢などにより、この酵素の働きが落ちると、活性酸素の害(酸化ストレス)が大きくなるのです。
そして、活性酸素がもたらす酸化ストレスが、動脈硬化、糖尿病の合併症、認知症(特に日本人患者の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症)、パーキンソン病、白内障など、非常に多くの病気と密接に関連するとわかっています。
逆にいえば、酸化ストレスをなくすことで、それらの病気の予防・改善が可能となります。
例えば、ターメリックに含まれるクルクミン、ショウガの辛み成分であるショウガオール、クローブの香り成分であるオイゲノールなどは、その抗酸化力で活性酸素を抑え、酸化ストレスを減らします。それにより、健康な体を維持するのです。
❷がん予防効果
酸化ストレスは、がんの原因でもあります。スパイスの抗酸化力が働くことで、がんの予防効果も期待できます。
ターメリックのクルクミンの働きが有名ですが、ニンニクの主成分であるイオウ化合物や、ワサビの辛み成分であるイソチオシアネートなども、優れた抗がん作用で知られます。
❸代謝促進
スパイスには、脂質・エネルギー代謝の促進作用があります。つまり、脂質の燃焼を促し、エネルギーの産生を高めるので、ダイエットにも役立ちます。
代謝を促す代表的な食材としては、唐辛子の辛み成分であるカプサイシン、ショウガの香り成分であるジンゲロン、コショウの辛み成分であるピペリンなどが挙げられます。
❹抗血栓作用
これは、血管内に血栓(血の塊)ができるのを防ぐことで、血液をサラサラにする働きです。この作用が、高血圧や動脈硬化、脳梗塞などの予防に役立つのです。ワサビ、ニンニクなどに、血液をサラサラにする働きがあることがわかっています。
❺免疫・生体防御作用
ショウガ、ニンニク、シソといったスパイスには共通してそれぞれ、免疫力を高める効能があります。
ワサビの抗酸化力は72時間持続
さて、そこで、スパイスと納豆との組み合わせです。皆さんもご存じのように、納豆自体も栄養豊富で、多彩な健康効果を有する食品です。スパイスと納豆を組み合わせることで、多くの効能が期待できます。
例えば私は、納豆にカラシのかわりにワサビを加える「ワサビ納豆」をお勧めしています。
ワサビには、がんの予防効果もあるイソチオシアネートという辛み成分があります。この成分は、活性酸素を直接、消去するだけでなく、体内の抗酸化酵素の働きも高めます。
ワサビによって高められた抗酸化酵素の解毒力は、72時間くらい持続することがわかっています。つまり、毎日ワサビをとらなくとも、3日に1回とれば、抗酸化力の持続的効果が期待できるわけです。ワサビは、1食で3~5gとればよいでしょう。
納豆には、血圧や血糖値を下げる効果があるとわかっています。ワサビ納豆なら、そこにワサビの抗酸化作用が加わり、健康効果が手軽にパワーアップするわけです。
私自身は、ワサビ納豆に、こちらもスパイスの一つで、抗酸化力の高いすりゴマを加えて愛食しています。

ワサビ納豆+ゴマでパワーアップ!
よく、「本ワサビでなく、チューブのワサビでもワサビの健康効果は得られるのか」と質問を受けます。実験すると、確かに本ワサビのほうが効果は高いものの、日常的に摂取するなら、チューブ入りのワサビでも十分でしょう。
ワサビに限らず、スパイスには説明したようなさまざまな作用があります。生活習慣病や、がん、酸化ストレスによって引き起こされる多くの病気の予防のため、スパイス納豆を大いに活用してください。

この記事は『壮快』2021年9月号に掲載されています。
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