西洋医学的にいえば、スパイスの抗酸化作用、抗糖化作用、抗炎症作用、抗菌作用などに当たります。生活習慣病をはじめ慢性疾患の予防・改善にも役立つでしょう。【解説】大久保愛(薬剤師・国際中医師・国際中医美容師・漢方カウンセラー)
解説者のプロフィール

大久保愛(おおくぼ・あい)
薬剤師、国際中医師、国際中医美容師、漢方カウンセラー。昭和大学薬学部生薬学・植物薬品化学研究室卒業。北京中医薬大学で漢方・薬膳・東洋の美容などを学び、日本人で初めての国際中医美容師の資格を取得。漢方カウンセラーとして年間2000人以上の女性の悩みにこたえてきた実績を持つ。近著に『1週間に1つずつ 体がバテない食薬習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
エネルギーを補い老化をカバーする
最近、テレビやネットで、納豆とスパイス(香辛料)を組み合わせた「スパイス納豆」がよく取り上げられています。
インド料理に欠かせないクミン、ターメリックや、日本人にとって身近なワサビ、山椒、コショウなど、さまざまなスパイスを、好みの量、納豆にかけて食べるのが、スパイス納豆です。
実は私も、日ごろからスパイス納豆を食べています。スパイス納豆には、「納豆+付属のタレ+カラシ」といった定番の食べ方にはない魅力があるからです。特に注目したいのは、スパイス納豆の健康効果です。
そもそも納豆もスパイスも、それぞれ優れた効能を有する食品ですが、両者をいっしょに食べることで、その効能がパワーアップするのです。
ここではスパイス納豆の効能について、漢方の専門家としての立場からお話ししましょう。それに関連した、西洋医学・栄養学的な説明もつけ加えていきます。
まず、納豆の効能として挙げられるのが、「補気(ほき)」「補腎(ほじん)」「活血(かっけつ)」という三つの作用です。
❶補気
漢方では、「気」「血」「水」という三つの要素が体の中を巡っており、私たちの健康状態をコントロールしていると考えます。気は、一種の生命エネルギー。気が滞ったり、不足したりすることで、体の不調が起こります。
補気というのは、足りなくなった気を補う働きです。気は免疫の働きも持っており、気を高めることは、感染症予防にもなります。
納豆は良質のたんぱく質や、代謝に関係するビタミンB群を豊富に含みます。それらが代謝をアップさせて、気を補い、体の働きを整えてくれるのです。
❷補腎
補腎は、腎の働きを助けることです。腎は、漢方でいう五臓の一つ。五臓とは、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」を指し、私たちの体を支える五つの働きです。このうち腎は、腎機能や、成長・発育・生殖などにかかわります。
腎が衰えると、骨がもろくなる、白髪が増える、記憶力が落ちるなど、いわゆる老化現象が起こります。納豆には、この腎の衰えをカバーする補腎作用があるとされます。
納豆には、レシチンという大豆由来の有効成分があり、この成分に記憶力の低下を予防する働きがあります。また、納豆に多く含まれるビタミンK2やカルシウムは骨粗鬆症の予防・改善に有効。老化現象の予防・改善効果が期待できるのです。
❸活血
活血とは、血の流れをよくする働きです。西洋医学的にも、納豆には、血栓(血の塊)を溶解する作用があるナットウキナーゼが含まれており、その働きで、血液がサラサラになり、血流が改善するとわかっています。
不要物を体外に排出し病気を予防・改善する
続いて、スパイスの効能について見ていきます。スパイスの重要な作用が「痰湿除去(たんしつじょきょ)」の働きです。
「痰湿」とは、私たちの体にたまった老廃物のこと。過食、偏食や加工食品などのとり過ぎは、体内に食品添加物や重金属、AGE(終末糖化産物)など有害物質をためることにつながります。
放置すれば、たまった物が炎症を起こし(湿熱(しつねつ))、それが全身を巡れば体の中に熱がこもり(血熱(けつねつ))、アトピー性皮膚炎などアレルギーや慢性疾患の原因にもなるのです。
痰湿除去とは、この不要物を体外に排出する働きのことで、スパイスの多くにこうした働きがあります。西洋医学的にいえば、スパイスの抗酸化作用、抗糖化作用、抗炎症作用、抗菌作用などに当たります。
ちなみに、納豆も、抗酸化作用の高いビタミンEやイソフラボンを含み、痰湿除去の働きがあります。つまり、スパイスと納豆をいっしょに食べれば、痰湿除去の働きがより強化されるといってもよいのです。
西洋医学では、体内でくすぶり続ける慢性炎症が、生活習慣病や動脈硬化、がんなど多くの慢性疾患の原因となると考えられています。
この慢性炎症は、漢方的にいえば、まさに「湿熱」や「血熱」の状態です。スパイス納豆の痰湿除去の働きで、慢性炎症をリセットすれば、生活習慣病をはじめ慢性疾患の予防・改善にも役立つでしょう。

スパイス納豆の健康効果
・免疫力アップ ・アンチエイジング ・骨粗鬆症の予防・改善 ・血流アップ ・老廃物の排出 ・生活習慣病や動脈硬化の予防・改善 ・便秘解消 ・肌の老化、シミ、シワの予防
便秘解消や免疫力アップに役立つ
スパイス納豆は、高齢のかたにもお勧めです。
年をとると、真夏の暑い日や疲れた日はどうしても食事がおっくうになり、冷凍食品や、加工食品ばかりを食べてしまうというかたも多いようです。
そうなると、食事の内容は、糖質と脂質に偏ります。野菜不足から腸の働きが低下し、便秘となれば、腸内環境が悪化します。それにより、免疫力も下がります。
たんぱく質不足も深刻です。コロナの影響で多くのかたが運動不足に陥っているため、たんぱく質不足と運動不足のダブルパンチで、筋肉や骨がどんどん弱くなっています。
こうした事態を改善するためにも、スパイス納豆は有効です。
まず納豆は、高齢者に不足しがちなたんぱく質の補給源となります。食物繊維や納豆菌の働きで、腸内環境が整えば、便秘解消だけでなく、免疫力アップも期待できます。
また、タレをかけるとどうしてもご飯が進み、糖質量が気になりますが、スパイス納豆ならご飯なしでも食べやすく、糖質を控えることができます。
また、スパイスを使うとタレの量が抑えられ、減塩効果もあるので、生活習慣病の予防・改善のために減塩したいかたも安心して食べられます。
美容面でも、スパイス納豆は優れています。
納豆菌と納豆の食物繊維の働きで、腸内環境を改善することが、肌の状態を根本から整えることになります。
また、各種スパイスの抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用によって肌の老化を防ぎ、シミ、シワの予防効果も期待できます。血の巡りがよくなれば、美肌効果もアップします。
さらにスパイス納豆は、振りかけるスパイスを変えることで、味や健康効果のバリエーションが楽しめるのも、利点です。

大久保先生のクミン納豆
私がよく食べているのは、「クミン納豆」。2~3枚のシソを刻み、納豆と混ぜ合わせ、クミンを2振りするのがお気に入りです。
ビタミン、ミネラルが豊富で、抗酸化力の高いクミンは、免疫力アップに役立ちます。クミン納豆には、同じく抗酸化力が高く、認知症予防にも有効とされるターメリックを加えることもよくあります。
「黒コショウ納豆」もよく食べます。納豆に黒コショウをかけるだけでもいいのですが、すりゴマ大さじ1に、みそ小さじ1を加えて納豆と和え、黒コショウを好みの量振りかけたレシピが私のお気に入りです。黒コショウには胃腸を整える作用があり、便秘やガス腹の解消に効果的です。
ぜひいろいろ試して、お気に入りのスパイス納豆を見つけてください。
ピリリとヘルシー!厳選スパイス納豆
おすすめのスパイス納豆を8種類ご紹介します。ぜひお気に入りの一品を見つけてください!【監修】大久保愛
●スパイスは、スーパーマーケットの調味料売場で購入できます。
●スパイスの量は好みで調整してください。
●アマニ油やオリーブオイル、少量の酢やしょうゆなどを加えてもOK!
●複数のスパイスを組み合わせるのもオススメです!
クミン納豆
免疫アップ/アンチエイジング/消化促進/胃腸を整える

まるで豆カレー!大豆の甘みが引き立って食べやすい
ターメリック納豆
アンチエイジング/肝機能改善/認知症予防/胃腸を整える

ビビットな黄色が目に鮮やか! こっくりとまろやかな口当たり
ガラムマサラ納豆
アンチエイジング/食欲増進/発汗/胃腸を整える

辛いだけじゃない!ミックススパイスならではの複雑で風味豊かな味
ショウガ納豆
血行・血流アップ/消化促進/食欲増進/抗菌

清涼感ある味わいで口の中がサッパリ!
唐辛子納豆
血行・血流アップ/消化促進/食欲増進/ダイエット

辛みをネバネバ食感が包み込みマイルドな味わい!
ワサビ納豆
アンチエイジング/血行・血流アップ/解毒/抗菌

ツンとした辛さが納豆のにおいを消してクセになる!
コショウ納豆
血行・血流アップ/消化促進/ガス腹・便秘改善/ダイエット

ピリッとした辛さが刺激的!お酒のつまみにもGOOD
山椒納豆
代謝アップ/胃腸を整える/解毒/鎮痛

納豆が苦手なかたにもオススメ!香り豊かで上品な味

この記事は『壮快』2021年9月号に掲載されています。
www.makino-g.jp