側頭骨がゆがむと耳の穴もゆがみ、空気圧のバランスがくずれ、耳閉感を覚えたり、めまいなどの不定愁訴も生じたりします。そこで考案したのが、江戸時代の古法あん摩の『耳鐘の術』を応用した「耳穴ひねり」です。マスク頭痛やドライマウスの解消にも有効です。【解説】福冨章(マサゴ整骨院・福富健康院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

福冨章(ふくとみ・あきら)

マサゴ整骨院・福富健康院院長。1961年生まれ。はり師・きゅう師、柔道整復師、あん摩マッサージ師。江戸時代のあん摩術が、現代人の抱える症状に効果がある点に着目し、古法あん摩と現代の解剖学に基づく手法を融合。日々の施術を行うとともにセルフ整体法を考案する。著書に、『ウルトラポーズで体がよみがえる』(主婦の友社)などがある。
▼マサゴ整骨院・福富健康院(公式サイト)

首肩のコリや眼精疲労、「マスク頭痛」も改善

耳穴ひねり」は、耳の穴に人差し指を入れて、ひねるという、シンプルな健康法です。とても簡単ですが、継続して行うことで、多くの不定愁訴に効果をもたらします(やり方は下項参照)。

耳穴ひねりが効果をもたらす症状として、まず挙げられるのが、めまいや耳鳴り、耳閉感といった耳の症状です。

これらの耳の症状は、耳鼻咽喉科で診てもらっても、その原因がはっきりしないことがしばしばあります。原因が突き止められない場合、的確な治療ができません。

私の治療院を訪れる患者さんには、そうした経緯を経て困り果てている人が多くいます。そうした患者さんに耳穴ひねりを勧めると、「楽になった!」「すっかり解消した」という声をいただきます。

耳の症状のほかに、頭痛や頭重感、首・肩・背中のコリ、眼精疲労、噛み合わせの悪さ、あごの痛み、ドライマウス等々、耳穴ひねりによってよくなる症状はたくさんあります。コロナ禍によって増えている「マスク頭痛」の解消にも、耳穴ひねりはたいへん有効です。

では、なぜ、耳穴ひねりが、これほど多くの症状に効果をもたらすのでしょうか。

実は、このような原因不明の症状に対しては、西洋医学だけではなく、東洋医学に基づく施術を行うと、改善することが少なくありません。私がヒントをつかんだのは、私が十数年ほど前に参加した、ある手技の勉強会でした。

そこで、頭蓋骨の調整を、耳の穴に指を入れて行うという発表があったのです。以来、頭蓋骨に興味を持ち、その技法を研究してきました。特に私が興味を持ったのが、頭蓋骨のうちの側頭骨でした。

頭蓋骨は、10種以上の骨から構成されています。このうち、側頭骨は、頭のわき、ちょうど耳の穴の開いている部位の骨になります。そして、この側頭骨には、あごの下側の骨である下顎骨が連結しています。

画像: 首肩のコリや眼精疲労、「マスク頭痛」も改善

人間はストレスなどがかかると、奥歯をギュッと噛み締めることがあります。

こうした状態が何度もくり返されたり、そもそも生まれつき噛み合わせが悪かったりすると、それは、噛み合わせをつかさどる筋肉群だけでなく、側頭部周囲の筋肉をも強く緊張させることになります。

また、噛み合わせの悪さ自体も、下顎骨を介して、側頭骨にズレを生じさせるおそれがあります。さらに側頭骨がゆがむと、耳の穴自体もゆがみます。

側頭骨、及び、耳穴のゆがみによって、外耳と中耳、内耳の空気圧のバランスがくずれ、耳閉感を覚えたり、内耳の平衡感覚をつかさどる三半規管の働きが乱されて、めまいなどの不定愁訴も生じたりします。

ですから、側頭骨のゆがみを正せば、そこから生じていた不定愁訴の改善が期待できるというわけです。

江戸時代の古法あん摩をアレンジ

では、そのためには、どうするか。一つには、側頭骨がゆがんでいるなら、頭蓋そのものに働きかけ、側頭骨を動かして調整するという方法があります。

しかし、これはとても強引な方法で、かなりの時間と労力がかかります。例えば、毎日20~30分の刺激を行うことが必要になるので、忙しい現代人にはとても勧められません。

そこで、私が注目したのが、江戸時代の古法あん摩の『耳鐘の術(みみかねのじゅつ)』という技法でした。

これは、左右の耳の穴に差し込んだ指をはじいてから、スポンと指を抜く方法です。それだけで、頭や目がスッキリするのです。

昭和時代から営業しているような歴史ある散髪屋に行くと、今も、仕上げのサービスとして使われています。耳や頭がスッキリするあん摩法として、現代にも残っている手技なのです。

私は、この技法を応用することにしました。

耳の穴に指を入れて、ひねって抜きます。このとき、耳の穴がねじれている方向に、意図的にさらにねじるのです。すると、脳が「これはマズイぞ」と判断し、正しい方向へ戻ろうとします。

皆さんも、両耳の穴に人差し指を入れてみてください。入れやすさに左右差を感じないでしょうか。

感じない場合、左右で指を入れる向きなどを無意識に変えている可能性があります。差し込んだ指の位置や高さが違っていることも少なくありません。こうした場合、側頭骨がゆがんでいる可能性があります。

そのゆがみは、いろいろな原因から生じますが、昨今多い要因がマスクです。冒頭にも挙げましたが、マスク頭痛という言葉を聞いたことはないでしょうか。

新型コロナウイルスの感染対策として、マスクをつける機会が近年、圧倒的に増えました。外出する機会が多ければ、それだけマスクをつける時間が長くなります。

マスクのひもを耳にかけていると、耳がひもによって常時引っ張られます。些細な力かもしれませんが、耳が長時間引っ張られると、耳のついている側頭骨も前方にねじれます。それが、側頭筋の過緊張や、側頭骨のゆがみにつながります。

その結果、頭痛をはじめとする症状が起こります。こうしたマスク頭痛にも、耳穴ひねりは有効です。

冒頭で触れたとおり、原因のはっきりしない、めまいや耳閉感、頭痛、首・肩のコリ等々に悩む患者さんに、この耳穴ひねりを勧めたところ、よくなったという人が続出しました。

耳穴ひねりを行う際のポイントは、まず、側頭骨がどちらの側にゆがんでいるか、それをきちんと確認することです。

その確認方法を二つ紹介します。

側頭骨のゆがみ方をチェック

※どちらかわかりやすいチェック法で判断すればOK。

チェック法その1

画像1: 側頭骨のゆがみ方をチェック

両手の中指どうしを自分の正面で自然にくっつけて、両手の親指と人差し指を見比べる。
右手の親指と人差し指のほうが手前にある場合→右の耳の穴が前にねじれるタイプ
左手の親指と人差し指のほうが手前にある場合→左の耳の穴が前にねじれるタイプ

チェック法その2

画像2: 側頭骨のゆがみ方をチェック

両ひじを曲げて、わきをしっかり閉じて手の倒れ方を見る。
●右手のほうが体から離れる場合→右の耳の穴が前にねじれるタイプ
●左手のほうが体から離れる場合→左の耳の穴が前にねじれるタイプ

一つめの方法で、中指を合わせるとき、判断するいちばんの目安となる親指は、自然な状態になるようにしてください。そうすることで、左右の親指のうち、どちらが自分の体に近いか、わかりやすくなるでしょう。

他人に見てもらったり、鏡で確認できる場合は、二つめの方法もお勧めです。わかりやすいほうで判断するといいでしょう。

耳穴ひねりのやり方

刺激の際は、耳穴ひねりを力まかせに行うことは効果的ではありません。耳の穴に入れた指をグルグル回す必要はないのです。指を入れてひねり、ひと呼吸、ふた呼吸で、スポンと抜いてみましょう。

「疲れたな」と感じているときに、耳穴ひねりを行うと、頭のもやもやがスッキリして、視界も明るくなるでしょう。

噛み合わせが悪く、寝ているときに歯ぎしりをしている人は、朝、起きてすぐに行うといいでしょう。あごの緊張を和らげることができます。

マスク頭痛は、いったん起こると、くせになりやすいので、とても厄介です。しかも、今はその状況でもマスクを外せません。そんなマスク頭痛でお悩みの皆さんにも、ぜひ耳穴ひねりをお勧めしたいと思います。

マスク頭痛に悩む人は、ドライマウスに悩んでいることも多いものですが、その改善にも、耳穴ひねりが役立ちます。

前項を参考に、自分のゆがみ方を確認する。

画像1: 耳穴ひねりのやり方

両手の人差し指を耳の穴に入れる。

画像2: 耳穴ひねりのやり方

左の耳の穴が前にねじれるタイプの場合は、右の人差し指を後ろに、左の人差し指を前にひねり、ふた呼吸おいてから、両方の指を一気に抜く。

右の耳の穴が前にねじれるタイプの場合は、左右のひねり方を逆にする(写真の矢印は左の耳の穴が前にねじれるタイプのひねり方)。

どちらのタイプも耳の穴をひねるときは息を吐きながら、指を抜くときは息を吸いながら行う。
耳の中を傷つけないように爪は短くし、耳穴の奥まで入れ過ぎないように気をつける。
事前によく手を洗う。
1日に何回行っても、いつ行ってもOKだが、連続して何回も行わない。

画像: この記事は『壮快』2021年9月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年9月号に掲載されています。

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