解説者のプロフィール

渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)
医学博士。高血圧専門医。聖光ヶ丘病院顧問、前東京女子医科大学東医療センター内科教授、前愛知医科大学客員教授、早稲田大学客員教授、日本歯科大学病院内科臨床教授。専門は高血圧を中心とした循環器病。1987年8月から、連続携帯型血圧計を装着し、以来、365日24時間血圧を測定。現在も引き続き連続装着記録更新中。高血圧改善の研究をライフワークとする「ミスター血圧」。『ズボラでもみるみる下がる測るだけ血圧手帳 最新ガイドライン対応版』(アスコム)など、著書多数。
血圧は姿勢にも影響を受ける
私は、1987年から24時間365日、入浴時以外は左腕に血圧計を装着して血圧を測り続けています。
血圧は、ちょっとしたことですぐに変動します。常に自分の血圧を測り続けることで、日常生活の中でどんなときに血圧が変動するのかを確かめようと思ったのです。
この自分の体を使った長年の実験で、血圧は姿勢にも影響を受けることがわかりました。
例えば「立つ」「いすに座る」「正座」「そんきょ」「横になる」の5つの姿勢の中で、一番血圧が上がったのは「そんきょ」でした。
そんきょとは、つま先立ちでひざを折り、ひざを開いて、かかとの上にお尻を下ろした姿勢です。相撲で仕切りの直前に取る姿勢といえばおわかりでしょう。
そんきょの次に血圧が高かった姿勢は「立つ」。次いで「正座」「いすに座る」「横になる」の順で血圧は低くなりました。

姿勢で血圧は変動する
この姿勢による血圧の差は、血圧が上がる理由を考えると、すぐに理解できます。
血圧は、血管が収縮したり圧迫されたりして、血液が流れにくくなると上がります。例えば筋肉が働くと、筋肉が収縮する際に血管が圧迫されます。
緊張した場面では、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のうちの交感神経の働きが優位になり、血管が収縮します。医師や看護師に測ってもらう血圧が、自宅で測る血圧よりも高いのも、緊張で血管が収縮するためです(白衣高血圧)。
そんきょの姿勢では、折り曲げた足が体重で圧迫されます。バランスを維持するために筋肉が働きますし、緊張もします。そのため、血圧が最も高くなるのです。
そんきょと似た姿勢を取る和式トイレも、血圧が上がりやすいため、注意してください。
立つ姿勢も、バランスを維持するために筋肉が働きます。また、立つ姿勢では重力の影響を受けて、そのままでは足に血液が滞ります。
3分の1ほど水の入ったペットボトルは、横に倒せば上部の口の辺りまで水が届きますが、立てた状態では水は底にたまるだけ。体内の血液もこれと同じで、そのままでは足に滞り、脳や内臓などの重要な臓器まで巡りません。そこで体は、立つ姿勢を取ると、末梢血管を収縮させて、反射的に血圧を上げるのです。
日中はいすに座ってリラックス姿勢がお勧め
横になる姿勢を除けば、日中は、いすに座っている姿勢が、一番血圧が安定します。
ただ、いすに座った状態でも、上体や手足の姿勢次第で、さらに血圧は変動します。
例えば、足を組むと、足の血管が圧迫されるため、血圧が上がりがちです。ネコ背や前屈みの姿勢も、血圧を上げます。
ネコ背や前屈みの姿勢ではおなかがつぶれて、内臓や血管が圧迫されます。また、肺が圧迫されたり、横隔膜が動かしづらくなったりするため、呼吸も浅くなりがちです。
呼吸は自律神経のバランスと深く関わっています。ゆったりとした深い呼吸は副交感神経の働きを優位にしますが、浅くて速い呼吸は交感神経の働きを優位にします。
これらの理由から、いすに座っていても、ネコ背や前屈みの姿勢を長く続けると、血圧が上がるのです。
いすに座るときは、背もたれを利用して、筋肉をできるだけ働かせずにリラックスした姿勢を心がけると、血圧が上がりにくくなります。
ただ、リラックスしていても、長時間座りっ放しでいては、太ももの裏側の血管が体重で圧迫されるため、血圧が上がりがちです。
仕事や車の移動などで、長時間いすに座らざるを得ないときは、ときどき立ち上がったり歩いたりして、姿勢を変えるとよいでしょう。

こんな姿勢は要注意!
スマホを見るときにしがちなこの姿勢も、血圧を上げる。ネコ背や前屈みの姿勢を長く取らないように注意が必要。

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。
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