ストレスがあると交感神経が優位な状態が続き、自律神経のバランスがくずれてしまいます。そこで重要になってくるのが、副交感神経を活性化させること。この神経の機能の大部分を担う迷走神経を刺激できる動きが、「口ぱくぱく」なのです。【解説】筒井重行(風楽自然医療研究所所長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

筒井重行(つつい・しげゆき)

風楽自然医療研究所所長。1971年九州歯科大学卒業。東京医科歯科大学、昭和大学歯科病院を経て、1988年歯学博士を取得。1995年、早稲田医療専門学校鍼灸科を卒業し鍼灸師に。2008年、風楽自然医療研究所を開設。40年以上顎関節症の治療に従事する中で、西洋医学と東洋医学をベースにした新たな医療体系を開発。高血圧をはじめ、自律神経失調症、頭痛、腰痛、耳鳴りなど、多くの症状を改善させている。著書に『「口をぱくぱくする」と超健康になる』(マキノ出版)がある。

あごを動かすことで副交感神経が活性化する

口ぱくぱく」は、私が長年追い求めて発見した、心身を根本から元気にする健康法です。

やり方は、その名の通り、口を魚のようにぱくぱく開け閉めするだけ。単純な動きですが、これにより、さまざまな症状が驚くほどよくなっていきます。

高血圧も、例外ではありません。実際にあった例をいくつかご紹介しましょう。

Aさん(80代女性)の血圧は上が160mmHg台、下が90mmHg台と、典型的な高血圧でした(高血圧の基準値は上が140mmHg以上、下が90mmHg以上)。

しかし、こまめに口ぱくぱくを実践したところ、1ヵ月後には、上が130mmHg、下が70mmHg程度に安定してきたのです。「口ぱくぱくをすると、その場で5~10mmHg下がる」と、大変驚かれていました。

Bさん(60代女性)は、就寝中の高血圧に悩んでいました。日中は大丈夫なのですが、夜中に目が覚めたときに血圧を測ると、いつも140mmHgを超えていると言うのです。

そこで、目が覚めたときに口ぱくぱくを行うよう提案したところ、Bさんは実践する前後に血圧を測定し、効果を確かめてくださいました。

すると、実践後すぐに、血圧が10~30mmHg下がったのだそうです。以来、Bさんは、口ぱくぱくで夜間の血圧をコントロールされています。

画像: あごを動かすことで副交感神経が活性化する

では、なぜ口ぱくぱくは、これほど高血圧に効果的なのでしょうか。そのメカニズムを説明する前に、まずは高血圧の原因から、簡単に解説します。

血圧が上がる原因はさまざまですが、主な原因となるのがストレスです。ストレスがあると、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスがくずれ、さまざまな不調につながります。

この自律神経には、緊張時に働く交感神経と、リラックス時に働く副交感神経があり、この二つがバランスよく働くことで健康を維持できます。

しかし、ストレスがあると、交感神経が優位な状態が続き、自律神経のバランスがくずれてしまいます。

そこで重要になってくるのが、副交感神経を活性化させること。

この神経の機能の大部分を担うのが、迷走神経です。これは脳から腹部まで延びる最長の脳神経で、多くの臓器の働きに関わります。

つまり、迷走神経を刺激すれば、副交感神経を活性化できるというわけです。

副交感神経の働きが活発になることで、拮抗する交感神経の働きが抑制されて、自律神経のバランスが整います。

そんな重要な働きを担う、迷走神経を刺激できる動きが、口ぱくぱく。なぜかと言うと、迷走神経は、脳にある視床下部から始まっているからです。

視床下部は、海綿静脈洞という網目状の静脈に包まれています。さらに、この静脈は、上あご後方の奥にある翼突筋静脈叢という静脈の密集場所につながっています。

口ぱくぱくであごを動かすと、これらの静脈血が大きく動きます。すると、視床下部と迷走神経の機能がよくなって自律神経のバランスが整い、高血圧が改善するのです。

また、あごが動くと、ピストンのような作用で、脳にたまっていた血液が心臓の方へと押し戻されます。この作用も、血圧を低下させるのに役立っていると考えられます。

なお、最近注目されている慢性炎症も、高血圧の原因になることがわかっています。

この慢性炎症は「万病のもと」といわれており、高血圧だけでなく、がんや糖尿病など、数多くの病気の発症や進行に関わります。この原因もストレスなので、口ぱくぱくをすることで、炎症が抑制されて血圧の改善につながります。

ハミングには血管を広げる働きがある

口ぱくぱくにはいくつかのバリエーションがありますが、今回は、最も血圧を下げる効果が高い方法をご紹介します。

それは、次の三つの準備体操と、口ぱくぱくを組み合わせて行うやり方です(詳しいやり方は後述)。

2分間に100回のペースで口を開け閉めする
舌を上下左右に動かす
口を閉じてハミング

これらの準備体操には、唾液を増やす効果があります。唾液には、ウイルスや細菌の体内への侵入を防ぐIgAという抗体が含まれるので、新型コロナウイルス感染症の予防にもうってつけです。

また、③には、鼻腔内で生産されるNO(一酸化窒素)を、15倍に増やすという効果があります。NOには血管を広げる働きがあるので、より血圧低下に役立ちます。

なお、前述の通り、ストレスは健康の大敵です。実は近年、人体にとって最大のストレスが重力であるとわかりました。

この重力の影響を最小限にするには、よい姿勢を保つことが重要です。そのため、口ぱくぱくを行うときも、姿勢を意識するとよいでしょう。

口ぱくぱくのやり方

最低でも、1日1回は行う。多い分には、何回行ってもよい。
いすに座っての他、ひざ立ちや寝転がった状態で行ってもよい。ただし、ひざ立ちの場合は、つま先を立てた状態で行うこと。
口ぱくぱくを行った後、体が自然に動き出すことがある。周辺には危険なものがないよう、気をつけて行う。

高血圧に効果的なやり方
口ぱくぱくを行う前に、次の3つを行う。
2分間に100回のペースで口を開け閉めする、早めの口ぱくぱく
舌を口の中で右回り・左回りに回す
口を閉じて「ムーン」とハミング

画像1: 口ぱくぱくのやり方

いすに座って目を閉じ、正面を向いて舌先を上あごにつける。親指と人さし指で丸をつくり、太ももの上に置く。

画像2: 口ぱくぱくのやり方

歯と歯の間を指1本入るぐらい開けた状態で、舌を上あごにつけたまま下あごを動かし、口を10回ぱくぱくさせる。

画像3: 口ぱくぱくのやり方

鼻から大きく息を吸い、口から息を細く長く吐く。

画像4: 口ぱくぱくのやり方

息を吐ききったら、指先を離し、舌を離す。そのまましばらく、体の状態に任せて待つ。

画像: この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.