全粒穀物とは、未精白の穀物のこと。玄米や全粒小麦の他、大麦、オーツ麦、ライ麦、キビなどの雑穀も含めて指します。全粒穀物で高血圧のリスクが低下する理由は、不飽和脂肪酸、GABA、食物繊維の働きによるものと考えられます。【解説】樫野いく子(国立国際医療研究センター客員研究員)

解説者のプロフィール

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樫野いく子(かしの・いくこ)

国立国際医療研究センター客員研究員。医学博士、管理栄養士。北海道大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了後、東京大学医学系研究科社会予防疫学研究室、国立国際医療研究センター疫学・予防研究室研究員を経て現職。日本人が摂取している栄養素、食品、食事がさまざまな疾病に及ぼす影響を研究する。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

日本の全粒穀物摂取量は世界的に見て最低水準

私たち日本人の主食である「ご飯」。そのご飯に玄米や胚芽(分づき)米、雑穀米を取り入れると、高血圧のリスクが大きく下がることが判明しました。

すでに欧米では、全粒穀物の摂取が高血圧や糖尿病、死亡率などのリスクを下げることを示すコホート研究(要因と疾病発生の関連を調べる観察研究)報告が相次ぎ、全粒穀物の摂取が強く推奨されています。

全粒穀物とは、ヌカやフスマとなる果皮、種皮、胚、胚乳表層部といった部位を除去していない、未精白の穀物のこと。多くの場合、玄米や全粒小麦(全粒粉)の他、大麦(もち麦)、オーツ麦、ライ麦、キビなどの雑穀も含めて指します。

全粒穀物が、ヌカや胚芽が に含まれる脂質やビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に含むのに対し、精白穀物は、精製によりこれら多くの栄養素が大幅に失われます。

アメリカの食事ガイドラインでは、食事でとる穀物の半分以上を全粒穀物にすることや、精白穀物を全粒穀物に置き換えることが推奨されていて、欧米では、全粒小麦粉で作ったパスタやパン、シリアルなどが広く一般に流通しています。

それに対し、日本は全粒穀物の摂取量が、世界的に見ても最低水準(精白穀物が好まれる)です。

そこで、私たちの研究チームでは、日本人の全粒穀物摂取頻度と高血圧発症の関係を追跡調査しました。

すでに高血圧と診断されている人を除いた協力者(解析対象944人)に、「玄米・胚芽米を食べたり、ご飯に麦や雑穀を混ぜたりして食べますか?」と質問し、①いつも摂取する②ときどき摂取する③まれに摂取する④全く摂取しないの4択で、摂取頻度を回答してもらったのです。

回答の内訳は「いつも、またはときどき摂取する」が計193人、「まれに摂取する」が221人、「全く摂取しない」が530人でした。

そして3年後に追跡調査を行ったところ、89人(9.4%)が高血圧を発症していました。

さらに年齢、性別、勤務地、BMI(肥満指数)、喫煙・飲酒・運動習慣、勤務状況、食習慣といった因子の影響を調整した上で、全粒穀物を「全く摂取しない」群を基準に、「いつも、またはときどき摂取する」群が高血圧になるリスクを分析。

すると、リスクが64%抑えられる可能性が明らかになったのです。

ただし「まれに摂取する」群では、「全く摂取しない」群と有意差(偶然や誤差ではないと統計的に考えられる差)は出ませんでした。

さらに、初回の調査と3年後の追跡調査で、2回とも全粒穀物を「全く摂取しない」と答えた人(401人)と、2回とも「いつも、またはときどき摂取する」と答えた人(112人)の高血圧発症リスクを比較。

すると、2回とも「いつも、またはときどき摂取する」と答えた人の高血圧リスクは、2回とも「全く摂取しない」と答えた人に比べて80%も抑えられる可能性が示され、より大きなリスク低下が認められたのです。

まずは週に何度か白米に雑穀を混ぜてみよう

画像: 白米よりも玄米や胚芽米がお勧め

白米よりも玄米や胚芽米がお勧め

では、全粒穀物をとっていると、どうして高血圧のリスクが低下するのでしょうか。
三つの理由が考えられます。

不飽和脂肪酸の働き

全粒穀物は、ヌカ層に含まれる栄養成分、オレイン酸、リノール酸、γ‐オリザノール、トコフェロールなどの不飽和脂肪酸も摂取できます。

これらの不飽和脂肪酸は、体内における酸化や炎症を抑制し、内皮細胞での一酸化窒素(NO)を増やすため、血管が弛緩し、血圧が下がることが動物実験により判明しています。

機能性成分のGABAの働き

特に発芽玄米には、機能性成分のGABA(γアミノ酪酸)が豊富に含まれています。血圧が急上昇すると、末梢神経の活動が低下し、心拍数が上がってしまいますが、GABAは心拍数を調整し、血圧の変動を抑制することが知られています。

食物繊維の働き

全粒穀物は、精白米に比べて、食物繊維が格段に豊富です。食物繊維は腸内細菌によって発酵されて、酪酸などの短鎖脂肪酸を生成します。

短鎖脂肪酸は、腸壁を強化し、炎症を抑制するなど腸のバリア機能を維持する上で、重要な役割を果たすことが報告されています。さらに、短鎖脂肪酸は血管を拡張し、血圧上昇に関わるホルモンであるレニンの分泌を調整して、高血圧の抑制につながることが考えられます。

また、精白米に比べて、全粒穀物は食物繊維の働きで糖の吸収がゆるやかです。食後の血糖変動も小さくなるため、インスリンの過剰分泌を抑制します。

このように、ぜひ積極的に食生活に取り入れていただきたい全粒穀物ですが、日頃「白いご飯」に慣れ親しんできた方が、一気に玄米などに変えるのは抵抗があるかもしれません。私も今はおいしく玄米ご飯をいただいていますが、最初は少し違和感がありました。

まずは週に何度か胚芽米に変えたり、白米に玄米や大麦、五穀米の素などを混ぜてみたりするところから、始めてみてはいかがでしょうか。

画像: この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。

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