ナスは血圧の改善効果が期待できる優秀な野菜です。一般的な野菜の約3000倍も含まれている「コリンエステル」という成分に、交感神経の過剰な働きを抑制する効果が期待できるのです。ストレスの多い生活で血圧が上がりがちな人にこそお勧めです。【解説】中村浩蔵(信州大学学術研究院農学系准教授)

解説者のプロフィール

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中村浩蔵(なかむら・こうぞう)

信州大学学術研究院農学系准教授。1992年広島大学工学部卒業。1996年、同大学大学院工学研究科博士課程修了。JSPS特別研究員などを経て、2002年信州大学大学院農学研究科助手。2005年より現職。伝統的な食品を見直すとともに、新たな機能性食品「AI食」の開発・実用化研究に取り組む。ナス研究成果を事業化するため、ナスサプリメント製造・販売を手掛ける信州大学発ベンチャー、株式会社ウェルナスを創業。

ナスの血圧改善成分は他の野菜の約3000倍

夏から秋にかけてが旬のナスは「おいしいけれど、栄養はあまりない」と考えている人も多いでしょう。

しかし実は、ナスは血圧の改善効果が期待できる優秀な野菜なのです。その理由は、ナスに含まれる「コリンエステル」という成分の働きにあります。

コリンエステルは、納豆やヨーグルト、野菜など天然由来の食品の多くに含まれています。特にナスは、この成分が豊富。その量は一般的な野菜の約3000倍も含まれています。

画像: ナスの血圧改善成分は他の野菜の約3000倍

私は、このコリンエステルの研究を始めて18年目になります。もともとは、信州特産のソバで機能性食品を作ることを目的に研究をスタートしました。

そして、すんき漬け(塩を使わずに作る長野県木曽地方の漬物)の製法で製造したソバスプラウト(ソバの芽)乳酸発酵食品に、血圧降下作用があることを発見。2013年には、その作用がコリンエステルによるものだと突き止めました。

ただ、ソバスプラウト乳酸発酵食品は、製造にコストがかかります。そこで、他の食品のコリンエステルの量を調べたところ、身近な野菜であるナスにコリンエステルが豊富に含まれることがわかったのです。

2019年には、ストレスを感じているⅠ度高血圧者(上の血圧が140~159mmHg、下の血圧が90~99mmHgの人)と血圧が高めな健常者(上の血圧が130~139mmHg、下の血圧が85~89mmHgの人)を対象とした臨床試験の成果を発表。

これは、世界初のナスの機能性の証明になりました。

臨床試験では、コリンエステル2.3mgを含むナス粉末を、12週間被験者に摂取してもらいました。その結果、血圧の改善効果を確認。特に、普段の血圧が高いⅠ度高血圧者の方が、より血圧が下がる傾向を確認しました。

個人差はありましたが、効果の大きな人で、上の血圧が24mmHg、下の血圧が21mmHgも下がったのです。

丸ごと加熱してから切り分けるとよい

では、なぜコリンエステルに血圧を下げる働きがあるのかを説明しましょう。

私たちの体は、強いストレスにさらされると、内臓や血管の働きを調整する自律神経のうち心拍数や血圧を上げる交感神経が過剰に働きます。それにより血管が収縮して、血圧が上がります。

コリンエステルには、この交感神経の過剰な働きを抑制する効果が期待できるのです。

消化器には、心身をリラックスさせる副交感神経の一種、迷走神経が広がっています。ナスに含まれるコリンエステルは、この迷走神経を介して交感神経の働きを抑制すると考えられます。

前述の臨床試験では、血圧だけでなく、ネガティブな気分も改善しています。また、別の臨床試験では、睡眠(睡眠時間の長さや寝つきのよさなど)も改善しました。これらの効果も、コリンエステルが交感神経の過剰な働きを抑制した結果だと思われます。

そのため、ストレスの多い生活で、血圧が上がりがちな人にこそ、ナスがお勧めです。

ナスに含まれるコリンエステルの量は、品種や収穫時期、栽培方法などにより異なります。機能性表示食品として販売されている「高知なす」は、1日2本で血圧改善が期待できます。

実は私も、以前は血圧が高めで、上の血圧は150~160mmHg台でした。

しかし、コリンエステルを含むソバスプラウト乳酸発酵食品を食べ、血圧は改善。今はナスを毎日食べることで、正常に保たれています。現在の上の血圧は110mmHg台で、120mmHg台まで上がるのはまれです。

さて、ナスの食べ方についてですが、コリンエステルを有効に摂取するには、レンジで丸ごと加熱してから、切り分けて調理をするとよいでしょう。ナスには、コリンエステラーゼという、コリンエステルを分解する酵素が含まれているからです。

ナスを切ったり冷凍したりして細胞が壊れると、両者が接触して、コリンエステルが分解されてしまいます。

このコリンエステラーゼは、加熱により失活して機能しなくなる一方、コリンエステルは熱に強く壊れません。そのため、加熱後に切り分ければ、コリンエステルの分解を防げます。

私の場合は、レンジで加熱したナスを5mm程度の斜め切りにし、缶詰や焼き魚の身をほぐしたもの、ネギ、ショウガ、ミョウガをのせてポン酢をかけた「ナスのたたき」で食べるようにしています。

ナスのおいしいこの季節、たっぷりとナスを食べて、血圧の改善を目指してください。

画像: この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。

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