解説者のプロフィール

内山葉子(うちやま・ようこ)
葉子クリニック院長。関西医科大学卒業。医学博士。大学病院で腎臓内科・循環器・内分泌を専門に臨床・研究を行い、葉子クリニックを開院。総合内科、腎臓内科、ホメオパシーの専門医。西洋医学に、漢方・機能性食品などを用いた補完・代替医療も取り入れている。『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』(マキノ出版)など著書多数。
年齢を重ねると血圧が高くなるのはなぜ?
健康上の指標として大切な「血圧」。高血圧と診断され、いつも血圧を気にかけている人も多いでしょう。まずは「血圧」「高血圧」とはどういうことかについてお話ししましょう。
血圧とは、心臓から全身に血液を送るための圧力です。その圧力がないと、各部位に血液が行かず、酸素も栄養素も届かなくなります。血圧は生きていくために不可欠なものなのです。
心臓から一定時間に出る血液量や、血管や血液の状態、血液全体の量などによって、血圧は変わります。
その調整は、神経やホルモン系が複雑に働くことで行われます。血圧と深く関わる臓器が実は腎臓で、体の水分やミネラルの調節、複数のホルモンの分泌などを通じて血圧を調整しているのです。
なお、ポンプである心臓がギュッと縮んで、血液が押し出されたときの血圧が、よく「上の血圧」といわれる最大血圧(最高血圧・収縮期血圧)で、心臓が拡がって血液をため込んだときの血圧が、「下の血圧」と呼ばれる最小血圧(最低血圧・拡張期血圧)となっています。
一般に血圧は、年齢とともに高くなりますが、その最も大きな理由は、加齢によって血管が硬くなることです。
赤ちゃんの血管は弾力性と柔軟性に富んでいて、軽い圧力さえあればサーッとすみずみまで流れていきます。これを買ったばかりの弾力性のあるホースに例えるなら、中高年の人の血管は、長年使ったホースのようなものです。硬くなり、中にいろいろなものがたまっています。
そのようになってしまうと、赤ちゃんのときと同じ圧ではすみずみまで届くはずはありません。ですから、高い圧が必要になるのです。
私たちの血管が年齢とともに硬くなるのは、ある程度仕方のないことです。したがって、年齢とともに血圧が高くなるのも当然で、体に必要なことです。
しかし、その圧が高くなり過ぎると、血管が硬くなった分、圧を受け止める弾力性も落ちてもろくなっているので、破れる危険性が高まります。また、中にたまったものによって目詰まりを起こす危険もあります。
こうして、脳出血や脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)、心筋梗塞といった重大な病気を起こす恐れが出てきます。高血圧が続いて心臓への負担が増すと、心肥大(心臓壁が厚くなること)や、心臓の働きが衰える心不全を招く場合もあります。
そこで、食事や生活の改善、必要に応じて降圧薬も使いつつ、血圧を適正範囲に保つことが重要になります。
日本高血圧学会
「高血圧治療ガイドライン2019」の基準値
●診察室血圧の基準値
収縮期血圧(上の血圧)……140mmHg未満
拡張期血圧(下の血圧)……90mmHg未満
●家庭血圧の基準値
収縮期血圧(上の血圧)……135mmHg未満
拡張期血圧(下の血圧)……85mmHg未満
その目安は、上のような基準値です。これは、高血圧学会が定めている基準値で、診察室血圧とは医療機関で測る血圧、家庭血圧とは患者さんが自宅で家庭用血圧計を使って測る血圧のことです。
一般に家庭血圧は、診察室血圧よりも低めになるので、基準値も少し低く設定されています。最近は、家庭血圧がより重視される傾向にあります。
大きくは、この基準値が目安になりますが、血圧の基準値には個人差があるのです。
例えば、普段の血圧値が低めの人が、急に基準値の上限くらいに上がると、基準値内でも自分にとっては高過ぎる場合があります。逆に普段、高めの人が急に低くなった場合、やはり基準値内の変動でも不調や危険が生じかねません。
なので、基準値だけにとらわれ過ぎず、皆さんが自分の適正な血圧を把握し、それをもとに考えることが大切なのです。
そのためには、日頃から家庭用血圧計を使って血圧を測り、「血圧手帳(専用のものがあるが、自分で記録するだけでもよい。下記参照)」などに記録することが基本になります。
普段の健康管理とともに、正確な診断を受けるためにも役立ちますので、ぜひ自分で血圧を測定・記録しましょう。

家庭用血圧計は、手首や指先で測るものは誤差が大きいので、上腕にカフ(圧迫帯)を巻いて測るタイプをお勧めします。基本的に以下のように測ります。
●朝と晩に測定
●朝は起床後1時間以内
●晩は就寝直前
●トイレをすませ、1〜2分いすに座ってから測る
●週5日以上測って記録
たった一度の測定で降圧剤を出されそうになったら
さて、高血圧の患者さんにとって重要なのが「降圧薬との付き合い方」になります。
患者さんの中には、「降圧薬は一生飲まなければならないから飲みたくない」、または「高くなったときに処方され、現在は基準値だが飲み続けている」など、さまざまな人がいます。
降圧薬を処方されるケースを大きく分けると、「必ず必要なとき」と、「実際には食事や生活の工夫でコントロールできていて、本当は飲まなくてよいとき」の2パターンがあります。
血圧が170〜180mmHgほどあり、ちょっとしたことで200mmHgを超えそうな場合は、必ず降圧薬を飲む必要があります。いつ血管が切れたり、詰まったりするかわからない危険な数値だからです。
しかし、血圧の基準値より少し高い程度であれば、即座に降圧薬に頼るのではなく、まずは食事や生活習慣の改善(詳しくは次項)に努めるのが先決になります。
日常の中に血圧を上げる要因があり、それを避けるだけで問題ないレベルまで下がることも多いからです。
この場合、本来は医師が食事や生活の指導をして経過をみて、それでも下がらなければ慎重に降圧薬を出すべきですが、たった一度の測定で、すぐ降圧薬が出されることも多いのが現状です。そんな調子で降圧薬を飲んでいる人も少なくないと思います。
しかし降圧薬は、肝障害や腎障害をはじめ、多くの副作用をもたらす危険も否定できません。
高齢者の場合では、降圧薬で必要以上に血圧を下げると、脳への血流量が低下し、脳虚血(脳の一時的な血流不足)を起こすこともあります。脳虚血は、立ち上がったときのめまいやふらつきから転倒のリスクを高めたり、持続すると認知症のリスクを高めたりします。
ですから降圧薬は、重大な病気を起こしかねない数値のときは使うべきですが、そうでない場合、安易に使うことはお勧めできません。
もし、150mmHg程度の血圧で、一度の測定だけで降圧薬が処方されそうになったら、「まず食事や生活を改善して様子を見たいのですが……」とかかりつけ医に申し出てみましょう。
「降圧剤は一生やめられない」は誤解
普段は基準値内なのに、医療機関に行くと緊張して、そのときだけ血圧が上がるタイプもあります。これがいわゆる「白衣高血圧」というものです。
血圧手帳を活用して、自宅で測った血圧の記録を持参すると、正常であることが医師にわかり、より正確な診断が受けられます。これらが、不要な降圧薬の処方を避ける助けになるでしょう。
降圧薬を、継続的に飲んでいる場合も、問題ないレベルまで下がったら、薬の量や種類、服薬自体を見直す必要があります。
先に挙げた「降圧薬は飲み始めたら一生飲まなければ……」というのは大きな誤解で、食事や生活改善で下がれば、もちろん薬をやめることもできます。
ただし、降圧薬を急に減らしたり、やめたりするのは危険なので、必ず主治医に相談してください。そのときも、血圧手帳を持参するとよいでしょう。
医師によっては「降圧薬を飲んでいるからこの数値なので、やめてはいけない」と判断する場合もあります。そのときに大切なのは、立ちくらみやふらつき、慢性的な眠さや頭の重さなど、普段、感じている症状があれば、それもきちんと伝えることです。
これらを伝えて、患者さんの側も一方的に減薬や断薬を要求するのではなく、相談してみることが大切なのです。
血圧をコントロールするための食の工夫
血圧を上手にコントロールして、降圧薬を使わなくても済むようにしたり、いったん使い始めても減薬や断薬を可能にしたりするには、食事や生活習慣の改善が欠かせません。
それには、つらいことを我慢したり、特殊なことを行ったりする必要はなく、ちょっとした生活の工夫を積み重ねていくだけでも十分効果が見込めます。
具体的なコツを以下に挙げるので、できることから取り入れてみてください。
【食事】
①加工塩や精製塩をやめ、適量の自然塩をとる
高血圧対策としての食事といえば、まず「塩分制限」が頭に浮かぶ人は多いでしょう。しかし、全ての高血圧患者さんが、塩分に敏感に反応するわけではありません。
最近では、塩が直接的に血圧を上昇させるタイプの高血圧(食塩感受性高血圧)は、日本の高血圧患者さんの2〜3割程度との見方をされています。
普段、塩分を少しでも多めにとると血圧が上がる人は、食塩感受性高血圧の可能性が高いと考えた方がよいでしょう。しかし、それに当てはまらない人は、多少の塩分をとっても、直接的な血圧上昇には結びつかないタイプの高血圧(食塩非感受性高血圧)になります。
ただし、そういう人も、塩分の「質」には十分に注意する必要があります。
塩辛い食塩だけが塩分(塩類)ではありません。加工食品(ハム、ウインナー、練り物など)の添加物に含まれる「○○酸ナトリウム」という物質(亜硝酸ナトリウムなど)は、加工塩(加工品に含まれる添加物の一種で、辛くない塩分)と呼ばれ、これらをとり過ぎると腎臓に負担をかけ、高血圧を促します。
こうした加工塩を含む加工食品の他に、精製されて塩化ナトリウムだけになった「精製塩」も血圧を高くするので、避けるべきです。
それらはとらないようにすべきですが、適量の天然塩(海水や岩塩からとれた塩)は、高血圧の方々の味方になってくれます。
なぜなら天然塩は、血圧を上げる一因となるナトリウムと拮抗する作用を持っていて、天然の降圧薬ともいわれるカリウム、カルシウム、マグネシウムなどを豊富に含んでいるからです。塩を買う際には、パッケージ裏側の食品表示を見て、これらを多く含んでいる天然塩を選ぶようにしてください。
なお、保存料や添加物として添加されていることが多い「リン」も、腎臓に負担をかけて高血圧を促す原因になります。これを減らすためにも、加工品は控えましょう。
②梅干しを役立てる
梅干しにも、カリウム、カルシウム、マグネシウムが豊富に含まれています。しかも、梅には「アンジオテンシン抑制効果」という、血圧を下げる作用があります(アンジオテンシンは血圧を上げる生理活性物質)。そのため、梅干しも「天然の降圧薬」と呼ばれています。
「梅干しは塩分が多いから」と気にして避けている高血圧患者さんは多いかもしれませんが、適度にとれば、これも血圧コントロールに役立てることができます。
最近では、減塩志向から、梅干しに含まれる塩分量が抑えられているものも出回っています。少なくとも「食塩非感受性高血圧」の人は、1日2〜3粒を目安に、避けるのではなく、むしろ食べていただきたいところです。
食塩感受性高血圧と思われる人は、血圧手帳(前項参照)を参考にして、血圧が上がらない範囲でとるようにしましょう。
梅干しは、そのまま食べてもいいですし、料理に使うのもいい方法です。たたいた梅干しで短冊切りにした長イモやキュウリをあえるなど、塩の代わりに使うのは健康的でお勧めしています。
梅には血圧を下げる以外にも、さまざまな健康効果があります。消化を助けますし、腸内環境もよくなることでしょう。

梅干しは高血圧の改善に役立つ
③新鮮な野菜や果物、海藻をとる
新鮮な野菜、果物、海藻などには、体内の余分な塩分の排泄を促すカリウムが豊富に含まれています。
特に旬の野菜をたっぷりとるとよいでしょう。カリウムは水に溶け出すので、加熱調理なら煮汁ごと食べられるスープや汁物、シチューなどにすると効率よくとれます。
これらの食品は、肥満対策に役立つ食物繊維も多く含んでいます。肥満は高血圧のもとだともいわれるので、その意味でも高血圧の改善に効果をもたらします。
ただし、腎不全があると、医師からカリウムの多い野菜・果物を制限される場合があります。その場合は、医師に相談して、指示を守ってください。
無理のない範囲で運動を行う
【生活】
④適度な運動をする
適度な運動は、高血圧の改善に役立ちます。過剰な運動は、体内で炎症性の物質を出して血圧上昇を招くので、がんばり過ぎないことが大事なのです。自分が心地よく感じる範囲で運動しましょう。
どのくらいが適度な運動かは、人によって違いますが、翌日、体のあちこちが痛かったり、普通に動けない状態になったりするのは過剰な運動と考えられます。
こうしたことが起こらない程度のウォーキング、ジョギング、水泳などを、習慣付けて行うとよいでしょう。運動の前後に血圧を測り、大きく上がらない範囲で行うようにしてください。
当クリニックにお越しの患者さんの中で、最高齢の94歳の男性は、どんな降圧薬を飲んでも血圧が下がらず、油断すると上の血圧が160〜180mmHg程度になってしまいます。それが、運動をすると、120mmHgくらいに下がったのです。
運動の種類は軽い体操や、プールでのウォーキングなど簡単なものでした。この患者さんにとっては、適度な運動こそが、最も効果的な降圧薬のようです。
降圧薬の種類や食事を見直しても、血圧がなかなか下がらない方は、無理のない範囲の運動を行うことをお勧めします。何をやっても下がらなかった高血圧が、いとも簡単に降下することも珍しくありません。
⑤ストレス解消を図る
ストレスは交感神経(自律神経のうち活動時に働く神経)の緊張を通じて血管を収縮させ、高血圧を悪化させます。
人間関係のストレスなど、簡単には避けられないものもありますが、できるだけ自分なりのストレス発散法を持っておき、解消を図りましょう。
両手足の爪の生え際を10秒ずつもむ「爪もみ」をしたり、頭のつむじをもんだりすると、自律神経のバランスが整えられ、高血圧対策として役立ちます。
また、体内の炎症を起こす食品は、肉体的なストレスを増やす原因にもなります。具体的には、加工品、小麦・乳製品、甘いものなどです(甘いものは、血糖の乱高下によって自律神経を乱します)。
できるだけこれらの食品を食べないようにしましょう。
⑥質のよい睡眠を十分とる
ストレス解消のためにも、自律神経のバランスを整えるためにも、しっかり睡眠をとりましょう。それが高血圧の改善につながります。
パソコンやテレビ、スマートフォンなどの画面からは、睡眠を妨げるブルーライトを多く含む光が出ています。特に夜の就寝前の時間帯は、これらのスイッチを消して、ブルーライトを見ないようにしてください。
それに加えて、寝るときは部屋の照明を完全に消して、真っ暗にすることが大切になります。朝起きたら、光を浴びることも大切だといわれています。
このようにして生活にメリハリをつけることで、睡眠ホルモンが分泌されやすくなり、寝付きや睡眠の質が高まります。
以上をできることから実行して、薬を使わない高血圧の改善を目指しましょう。
【降圧薬に頼る前に試したい高血圧対策】
❶ハムやウインナーなどの加工食品を なるべく避ける
❷天然塩を選ぶ
❸梅干しを食べる
❹ウォーキングなどの適度な運動を心がける
❺ストレスを発散する
❻質の高い睡眠を十分とる

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp