解説者のプロフィール

内野勝行(うちの・かつゆき)
金町駅前脳神経内科院長。帝京大学医学部卒業。日本内科学会認定医。厚生労働省認定認知症サポート医。日本体育協会公認スポーツドクター。 日本神経学会会員。和食サプリメントの開発も行う。著書に『1日1杯脳のおそうじスープ』(アスコム)、監修書に『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)など多数。▼金町駅前脳神経内科(公式サイト)
脳のゴミは20年以上かけて徐々にたまる
「ほら、あの人……、あ~、名前が出てこない~」
「あれ、私、何をしようとしてここに来たんだったかしら」
物忘れやうっかりミスが増える。集中力が続かず、頭の回転が鈍くなったように感じる。
40~50代頃から徐々に現れてくるこうした現象は、脳に「ゴミ」がたまり、脳の機能が低下していくことで起こります。
この「脳のゴミ」の代表格が、「アミロイドβ」というたんぱく質です。アミロイドβは、脳の神経細胞やシナプス(神経細胞同士をつなぐネットワーク)を傷つけ、硬い糸くずのような神経原線維(アミロイド線維)に変化します。
アミロイドβは、活性酸素を作りだし、周囲の神経細胞をサビ(酸化)させます。そして活性酸素がまたアミロイドβの蓄積を促進して、「老人斑」と呼ばれる脳のシミを作っていきます。
脳のゴミ・アミロイドβが、「腐ったミカン」のように周囲の脳細胞にダメージを広げていき、脳細胞が次々と死んでいくことにより、脳が委縮し、認知症を発症する。これが、認知症の約7割を占めるアルツハイマー型認知症(以下アルツハイマー)のしくみです。
委縮は、最初に記憶をつかさどる「海馬」から始まります。脳全体に委縮が広がると、知能や身体機能まで低下し、最終的には死に至ることもあります。
アルツハイマーに至るアミロイドβの蓄積は、20年以上の長期間にわたり、徐々に進行していきます。
言い換えれば、日頃からアミロイドβの発生を抑え、排出を促して、脳に蓄積させないようにすることが、脳の老化やアルツハイマーを防ぐためには大切だということです。
インスリンと同じ酵素がアミロイドβを分解する
では、「脳のゴミ」はどのようにしてたまっていくのでしょうか。最新の研究も含め、主な原因を三つご紹介します。
①分解酵素の不足
私たちが食事からとった糖を細胞に取り込む「インスリン」というホルモンがあります。インスリンは、血糖値が上がったときに膵臓から分泌され、細胞に取り込まれて血糖値が下がれば、お役御免で分解されます。
このインスリンを分解する酵素は、アミロイドβを分解し、排出する働きも担っています。
そのため、糖尿病などインスリンが大量に分泌される状況では、酵素はインスリンの分解だけで手いっぱいになり、アミロイドβの分解がおろそかになってしまうのです。
たとえ糖尿病までは至っていなくても、血糖値を急激に上げる甘い菓子や清涼飲料などは要注意。特に、すきっ腹にとり過ぎるとインスリンが大量に出て、分解酵素に負担がかかるので、できるだけ避けましょう。
②睡眠の質の低下
2019年にアメリカのボストン大学の研究チームが、アミロイドβと睡眠に関する、興味深い研究結果を発表しました。
ノンレム睡眠(深くぐっすりと眠っている状態)中の脳で、神経伝達が静かになると脳細胞(グリア細胞)が縮み、その隙間に脳脊髄液が流れ込んで、さまざまな「脳のゴミ」を洗い流す現象が確認されたということです。
以前から、睡眠の質が低いほど、アミロイドβの脳への蓄積が多いことが知られていましたが、その理由の一端が明らかになったと言えるでしょう。
③歯周病菌
2020年、九州大学の武 洲准教授らの研究チームが、歯周病菌に感染させたマウスの脳内のアミロイドβの蓄積量が、感染していない群に比べて10倍も増加し、記憶力も低下することを明らかにしました。
歯周病の原因菌であるジンジバリス菌をマウスに3週間投与したところ、マウスの歯茎などで発生したアミロイドβが血管を通して体内に入り、脳に蓄積していくメカニズムが発見されたということです。
こうした「脳のゴミ」をきれいに排出するためにはどうすればよいかを、次項で詳しく解説していきましょう。
脳のゴミをためるリスク要因
❶糖質のとり過ぎで、インスリンの分泌量が増え過ぎる。
❷寝不足や過眠、中途覚醒などで、十分なノンレム睡眠が取れていない。
❸歯周病菌による慢性炎症。
