「免疫力の高い性格」ではない人は、多くの中の一つの価値を、唯一の価値であるかのごとく思い込む。心の能力とは、人の評価をあてにしないことだ。 「私は不美人だけれども、いいところもあるわ」と、気がつけばよい。自分を受け入れれば、幸せは待っている。〈人生を豊かにする心理学 第3回〉【解説】加藤諦三(作家、社会心理学者)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

加藤諦三(かとう・たいぞう)

作家、社会心理学者。東京大学教養学部教養学科を卒業後、同大学院社会学研究科修士課程修了。東京都青少年問題協議会副会長を10年歴任。2009年東京都功労者表彰、2016年瑞宝中綬章を受章。現在は早稲田大学名誉教授の他、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員、日本精神衛生学会顧問、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。近著『他人に気をつかいすぎて疲れる人の心理学』(青春出版社)が好評発売中。

免疫力の高い性格

物事を多くの視点から見られる人は、充実した人生を過ごし、元気で長生きする傾向にある……。前回は、そんな思考力についてのお話でした。この視点の多さは、免疫力(病気に対する抵抗力)にも大きく関係するのだそう。今回のテーマは、この「免疫力の高い性格」についてです。

前回、何かあるとすぐに「高齢者だから」という視点でしか自分を見ないことで、人生で失うことは多いと書いた。

実際、自分にはいろいろな面があるのに、一つの視点でばかり、自身を見てしまう人は多い。残念ながら、そういう人は免疫力が低い。

日本ではまだ翻訳されていないが、英語で『免疫力のある人格 ── 健康を維持する7つの性格』という著作がある(※)

※Henry Dreher 著 "The Immune Power Personality:7 Traits You Can Develop to Stay Healthy"(A Dutton刊, 1995年)

その7番目に「免疫力の高い性格」が出てくる。これは、どういう性格だろうか。

ギリシャ神話には、ヘラクレスに殺されたヒュードラというヘビが登場する。その生物は、頭が九つあり、どれか一つの頭を切ると、その跡に二つの頭が生じたという。

ここで言う、免疫力の強い性格とは、その神話にならった「健康なヒュードラ」という性格である。

・・・

この性格を示すために、次のような実験を行った。

まず、学生に自分の性格と自己を表すカードを持ってもらう。これは、自己の複雑さを客観的に評価するためだ。その後、あえてストレスを受ける体験をさせる。

すると、その反応と性格の複雑さとの間に、相関関係があることがわかった。多数の自己を持つ人の方が、苦境にも動じない傾向があったのだ。

多数の自己、つまり、複雑な自己を持つ人は、バランスの取れた見方をすることで、トラウマを和らげる。

そのためには、第一に、自分が自分を理解する必要がある。

人に優越したいと思う、依存心から人の好意だけで自分を守ろうとする……。そうした生き方をやめるだけで、さまざまな薬を飲まなくてもいい生活を送れるのだ。

ここで注意したいのは、「健康なヒュードラ」は多重人格者ではないということだ。多重人格者は、一つの自己が表れているとき、他の自己は無関係で、芯になる自己を失っている。

一方、複雑な自己を持つ人は、芯になる自己を失わない上で、さまざまな自己の面が関連を持ちながら動いている。

・・・

一般的に、社会で多くの役割を担っている人は、長生きで、複雑な自己を持つ傾向がある。

そのことからも、多面的な性格は、バランスと調和の取れた状態になると同時に、肉体的な健康にもつながるということがわかる。

しかし、これとは逆の性格を持つ人は、心身に悪影響を及ぼしやすい。

例えば、過労死する人は、いくらでも違った生き方はあるのに、一つの生き方に固執する。エリートコース一直線などという人が、些細な失敗で自殺したり、うつ病になったりする。

人間の生き方などいくらでもあるのに、エリート以外の道なしと思っているからだ。中には、ストレスからがんやうつ病になり、自殺するという悲劇の人もいる。

ここで必要なのは、自分の適性を一つと決めないことだ。

神経症者は、自分を決めたがる。そういう人は、「私は対人恐怖症です」と言うが、実は、対人恐怖症について何も理解をしていない。

「健康なヒュードラ」ではない人は、多くの中の一つの価値を、唯一の価値であるかのごとく思い込む。

企業戦士と言われてきたのに、燃え尽き症候群になる人がいる。それは、心の支えが企業での業績しかないからだ。

自分にはいろいろな面があるのだから、多くの中の一つの価値を、唯一の価値であるかのごとく思い込んでいただけなのだと気がつけばよい。

苦しみから逃れ、充実して生きるためには「なーんだ、私は企業での業績が唯一の価値と思い込んでいるから、劣等感が強いだけなのだ」という自己理解が欠かせない。

「私は不美人だけれども、いいところもあるわ」と、気がつけばよい。

心の能力とは、人の評価をあてにしないことだ。自分を受け入れれば、幸せは待っている。

・・・

自分を認めない人生に、幸せはない。

自分を受け入れることは、どのような自分であれ、その自分の価値を信じることだから。

自分を受け入れることは、どのような自分であれ、その自分に喜びを感じることだから。

カーソンと言う人が、幸運をつかむ知恵の一つとして「見つけ出す」ということを言っている。それは、今まで気がつかなかった自分の隠れた面に気がつくということだ。

あなたは、自分自身の見方を知らない。小さい頃に叱られた通りの自分だと思っている。

周囲の人も親も、たいていあなたを否定するときに「あなたはこうだ」と決めて言っている。そんなことを、そのまま受け取ってはいけない。

もし、そうした努力ができるなら、今まで自分の基準だけを唯一の基準として生きていたことに気がつくであろう。

そこに気づけたのなら、次の幸運へと道が開ける。

画像: イラスト:中島智子

イラスト:中島智子

画像: この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.