解説者のプロフィール

済陽高穂(わたよう・たかほ)
西台クリニック理事長。1945年宮崎県生まれ。千葉大学医学部卒業後、東京女子医科大学消化器病センターに入局。米国テキサス大学にて消化管ホルモンの研究を行う。帰国後、東京女子医科大学助教授などを歴任し、2008年より西台クリニック院長。2018年より現職。『今あるガンが消えていく食事』(マキノ出版)をはじめ、がん治療や健康維持のための食事療法をまとめた著書多数。明朝時代に中国から渡来し、九州・都城の島津氏に仕えた薬師を先祖に持つ。
元気で長生きな人はレモンをとっていた
1990年代、私はがんの食事療法を模索していました。元気な長寿者の食生活も参考にしていたところ、何人かの長寿者に、ある共通点を見いだしたのです。
それは「レモンの常食」です。
最初のきっかけは、「九重織(ここのえおり)」の創始者で発明家の九重年支子さんが、レモンを常食されていると知ったことでした。
九重さんは、当時私が勤めていた病院で、腸の手術を受けられました。93歳というご高齢にも関わらず、術後は目を見張る回復ぶりで、わずか2週間で退院となりました。
その体力に驚嘆した私は、普段の食生活について尋ねてみました。すると、「玄米、野菜、果物、海藻、発酵食品を摂取する他、レモンをよくとっている」と教えてくださいました。
レモンを搾って水で薄め、ハチミツを混ぜて飲んでいるとのこと。九重さんは98歳で亡くなる直前までお元気で、発明に力を注いでいらっしゃいました。
100歳を超えてなお、現役で仕事をされていた料理研究家の飯田深雪さんも、レモンを常食されていました。
飯田さんがレモンを常食するようになったのには、理由があります。飯田さんは、意外にも体が弱く、50代の半ばに、足のだるさと神経痛に襲われたといいます。鎮痛薬で痛みを抑えながら、多くの教室を切り盛りしていたそうです。
ついに階段も上れないほど悪化し、医師である兄上から、仕事のドクターストップがかかりました。
そのとき、飯田さんが思いついたのが、レモンを搾って飲むことでした。生徒さんなどには「体にいいから」と酸っぱい物を勧めながら、実はご自身は酸味が苦手でした。それを反省し、思い切ってレモン汁を飲んだのです。
すると、翌日には足が軽くなり、レモン汁の飲用を続けるにつれ、足のだるさと神経痛が解消したそうです。
その後は、毎晩欠かさず、レモン汁にハチミツを入れて飲むようになりました。おかげで、103歳で亡くなるまで、神経痛は再発せず、生涯現役を貫かれました。
97歳までお元気で、やはり生涯現役でいらっしゃった美容家のメイ牛山さんも、レモン汁を愛飲しておられました。また、少食や生菜食で、数々の難病を治した甲田光雄先生の療法や、健康のために生の食事を重んじている栗山式食事療法などでも、レモンが重要視されているのです。
健康長寿を支えるカギとなる食品
レモンは、元気と長寿を支える次のような成分を豊富に含んでいます。
●ビタミンC
有害な活性酸素の除去、免疫力(病気に対する抵抗力)の増強、美肌効果、血管の強化、ストレスの緩和、ホルモンの分泌促進など、多くの重要な働きを持つビタミンです。
レモン汁100mlには50mgのビタミンCが含まれます。これは、かんきつ類の中でも多い含有量です。
●クエン酸
エネルギー代謝を活発化して、疲労回復を促す成分です。不足すると倦怠感が出たり、太りやすくなったりします。
カルシウムや鉄分など、吸収率が低いミネラルを、体に吸収しやすい形に変える「キレート作用」という働きもあります。
これにより、レモンは骨を丈夫にして骨粗鬆症を防いだり、貧血を防いだりするのにも役立ちます。レモン果汁100gには6.5gのクエン酸が含まれており、これは全食品中でもトップクラスの含有量です。
●ポリフェノール
代表的な抗酸化物質、つまり、動脈硬化やがんの元凶となる活性酸素を消去する物質です。レモンには、特に強力な抗酸化作用を持つ、エリオシトリンというポリフェノールがたっぷり含まれています。
この他、レモンには、血圧改善作用を持つカリウム、便秘解消作用を持つ食物繊維なども、豊富に含まれています。また、これまでの研究で、レモンには、筋肉の老化を抑制する働きもあることが判明しています。
こうして見ると、レモンは、まさに健康長寿を支えるカギとなる食品であるとわかります。
毎朝2個分のレモン汁で76歳の今も現役
長寿者の食生活をヒントに、レモンの素晴らしさを知った私は、がんの食事療法に取り入れるとともに、自分でも毎朝2個分のレモン汁を飲むようになりました。以来、20年近くこの習慣を続けています。
レモン汁を飲み始めると、年に2〜3回起こっていた五十肩や腰痛が起こらなくなり、カゼをひかなくなりました。それまであった慢性的な倦怠感も、すっかり消えました。そして、日々の激務をらくにこなせるようになったのです。
私の父は82歳のとき、体が衰弱して入院しました。その際、普通食がとれずにチューブで鼻から流動食を入れていたので、私の発案でレモン1個を搾って、流動食に混ぜてみました。すると、2週間で普通食がとれるようになり、みるみる回復して、3ヵ月後には元気に自分の足で歩いて退院できたのです。
レモンを勧めた患者さんたちからも、「食欲が出た」「体が軽い」「便秘が治った」「よく眠れる」などの声がよく聞かれます。私が76歳を過ぎた今も、現役の医師として忙しく働き続けていられるのも、毎朝のレモンのおかげです。
私のレモンの摂取法は上記の通りで、とても簡単です。なお、エリオシトリンは皮の白い部分に多く含まれているので、すりおろした皮を少量加えると、さらに効果的です。
レモンを常食する場合、注意したいのが農薬や防腐剤です。無農薬栽培のレモンを使うのがベストですが、難しければ、国産のレモンを流水でよく洗って使うとよいでしょう。
済陽式レモンのとり方
【用意するもの】(1人分)
レモン…2個
シトラスジューサー(なければレモン搾り器)
ハチミツ…大さじ1~2
※またはリンゴジュース、トマトジュース、グレープフルーツジュースなどでもよい

❶レモン2個を半分に切る。

❷シトラスジューサーで果汁を搾る。


❸搾った汁をグラスに入れ、そこにハチミツまたはジュースのどちらかを加える。

❹よくかき混ぜて飲む。

この記事は『安心』2021年8月号に掲載されています。
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