解説者のプロフィール

立花愛子(たちばな・あいこ)
りゅうえい治療院副院長。鍼灸師免許、管理栄養士免許、医薬品登録販売者資格を取得。鍼灸治療とともに東洋医学の知識を取り入れた栄養指導を行う。そのほか、お灸講座講師、執筆、メディア取材などを通して、簡単で効果的な東洋医学の活用方法を紹介している。著書に『目がスカッと!耳がスッキリ!のツボ』『顔ツボでぐんぐん脳活! すぐに実践できる脳活ツボ・マッサージ』(ともにぶんぶん書房)など。▼りゅうえい治療院(公式サイト)
名治療家が考案した有名なツボ
通常、目の疾患に対する治療を行う鍼灸院は、それほど多くはありません。しかし、私たちの治療院は、目の重篤な症状の患者さんを、眼科での治療も続けてもらいながら、多数治療しています。そして、実際に、そうした難治性の眼科疾患に対して治療実績を上げているのです。
この治療で力を発揮しているのが、「澤田流合谷(さわだりゅうごうこく)」というツボです。
合谷というツボは、有名なツボですので、皆さんも、一度は耳にしたことがあるかもしれません。合谷は、親指と人差し指のつけ根の骨と骨の間にあります。
合谷は、非常に多くの効能があるツボとして知られていますが、澤田流合谷は、合谷と同じ位置にはありません。そこから少しズレたところにあるツボです。
このツボを考案したのは、鍼灸師であった澤田健先生。
澤田先生は、昭和初期から活躍した治療家で、お灸の名人として知られていました。独自のツボをたくさん提唱しており、これら澤田流のツボは、現在でも活用している治療家が多いのです。そして澤田流合谷も、その一つです。
まず位置を説明しましょう。通常の合谷よりも手首側にあり、親指と人差し指の骨が合わさる部分で、ふれると拍動の感じられるところです。
澤田流合谷には、いろいろな効能があるとされていますが、目の症状にもとても有効です。
私たちの治療院では、この澤田流合谷にお灸などを施術し、かつ、患者さんには、ご自宅でツボ押しやお灸などのセルフケアを続けてもらうことで、多くの目の症状に改善効果が得られています。
ここでは、澤田流合谷のセルフケアを紹介しましょう。
澤田流合谷が有効と考えられる目の症状は、緑内障、白内障、黄斑変性、眼底出血、糖尿病網膜症、疲れ目、かすみ目などです。
澤田流合谷の刺激のやり方
澤田流合谷の場所

親指と人差し指をくっつけてできる肉の盛り上がりから、手首へ向かって降りた辺り。動脈の拍動が触れるところ。
やり方

右手を左手の親指で刺激している様子
右手のツボは左手の親指で、左手のツボは右手の親指で手首のほうへ押すように10回程度ゆっくりもむ。これを1セットとし、1日に2~3セット行う。
※もむ時間帯は入浴前後以外であれば、いつでもOK。
※お灸やつまようじを使って刺激してもOK。
目の組織への血流をアップ
澤田流合谷は、なぜ、このように多くの症状に効果を発揮するのでしょうか。
まず緑内障は、視神経に障害が起こり、視野が狭くなる病気です。眼圧上昇による目の痛みや、少しずつ見える範囲が狭くなる視野狭窄などが起こってきます。
緑内障の治療は、目薬などで眼圧を下げることが基本となりますが、日本人には、眼圧の高くない緑内障(正常眼圧緑内障)も少なくなく、眼圧は正常なのに、症状が起こってくるので、とてもやっかいです。
そもそも眼圧が正常なら、眼圧を下げる治療をしても、症状の改善効果があまり期待できないからです。
こうした症状についても、澤田流合谷が効果を発揮する可能性があります。
これは、澤田流合谷への刺激が、感覚神経を介して反射的に網膜などの目の組織の血流をアップさせると考えられるからです。澤田流合谷への刺激は、目の血流アップを通じて、視神経を強化する働きがあるのではないかと考えられます。
また、黄斑変性は網膜の中央にある黄斑部が、加齢によって障害を受ける病気です。澤田流合谷への刺激は、網膜の血流アップをもたらし、それが、黄斑部の変性状態によい影響を及ぼしている可能性があります。
もともと黄斑変性は、目の生活習慣病といわれていますから、ほかの生活習慣病と同様、血流を促すことが症状改善へとつながっていきます。
糖尿病性網膜症や白内障についても、同様のことがあてはまると考えられます。疲れ目などの疲労性の症状についても、むろん、目の血流アップがよい効果を及ぼすことはいうまでもありません。
実際に、ツボ押しや、お灸による刺激を行ったあとに、「視界が明るくなった」と感じる人が多くいます。これは、目の血流改善効果が得られた成果といってもいいでしょう。セルフケアを続けて、こうした成果を積み上げていくことが、目の疾患についても改善効果をもたらすと考えられます。
セルフケアを行う際の注意点も、いくつか述べておきましょう。
お灸を行うときは、くれぐれもやけどに注意してください。熱いと感じたら、お灸をすぐに外しましょう。慣れるためには、熱さの弱い物から始めるのがいいと思います。
また、入浴の前後にお灸を行うことは避けたほうがいいでしょう。お灸の効果が、減殺される可能性があるためです。寝る前や朝に行うのは問題ありません。
継続することで予防効果も期待できる
では、澤田流合谷によって改善効果の得られた体験例を紹介しましょう。
●Aさん(女性・50代)は、眼圧が高く、緑内障との診断を受けていました。初診時には、目や頭が締めつけられるような感じがすると訴え、目も充血していました。
目の周りの血流を改善することを目標として、通常の鍼灸治療とともに、澤田流合谷などへのお灸を行いました。その治療後、「目や頭の締めつけ感がなくなり、スッキリした感じがする」とのこと。目の充血もだいぶ改善しました。
そして自宅でのセルフケアとして澤田流合谷のお灸とツボ押しを実践。Aさんはもともと眠りが浅く、3時間程度で目が覚めていましたが、数週間で、眠りが深くなるとともに、目の症状にもさらなる改善が現れました。半年後、目の締めつけ感などが治まり、状態が安定。現在は、セルフケアだけで落ち着いています。
●Bさん(男性・60代)は、糖尿病があり、15年くらい前に脳梗塞を発症。左腕と左の脚部に軽い運動障害と感覚異常の後遺症が残っていました。
当院へは脳梗塞の後遺症の治療で来院。目が充血しており、聞くと、「眼圧が高めで眼科にも定期的に通っている。ただ充血し始めたのは最近。目がかすむ感じもある」とのこと。糖尿病による網膜症(眼底出血)の可能性があり、詳細な検査をしてもらったところ、眼底出血が確認されました。
お灸治療をしながら、澤田流合谷を刺激するセルフケアを実践。すると1ヵ月程度でほとんど出血が消えました。
その後も、眼圧は落ち着いており、現在まで再発なし。継続治療中ですが、糖尿病の薬を減らすことができており、過去1〜2ヵ月の血糖状態を示すヘモグロビンA1cの数値も少しずつ下がってきています。
●Cさん(70代・男性)は、最近、疲れ目があることから、白内障を心配し、来院。澤田流合谷などへのお灸のほかに、同じツボへのセルフケアを自宅で継続しました。
1ヵ月後に再診すると、「よく見えるようになり、メガネの度数が強く感じるようになった」と、Cさん。「まじめにお灸をやっている証拠かな」とうれしそうに話してくれました。
3回の治療で、目の不具合はほとんど改善。鍼灸治療は終了し、現在は自宅でのセルフケアのみ続けています。
ちなみに、ツボを探す際に目印となる拍動が、より強く感じられることがあります。そういうときは、例えば、目が疲れていたり、眼圧が上がっていたりといった現象と連動している可能性あります。そんなときにも、この澤田流合谷へのツボ押しやお灸はお勧めです。
継続して行うことで、目の症状の予防効果も期待できます。ぜひお試しください。

この記事は『壮快』2021年8月号に掲載されています。
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