解説者のプロフィール

山口康三(やまぐち・こうぞう)
回生眼科院長。1981年、自治医科大学医学部卒業。横浜市立市民病院、神奈川県立厚木病院などを経て、91年より現職。日本綜合医学会副会長。日本綜合医学会食養学院院長。日本眼科学会専門医。西洋医学と東洋医学の接点を求め、食事療法を中心とした綜合医学の診療を行う。著書に『緑内障・白内障は朝食抜きでよくなる』(マキノ出版)など多数。
少食で腸内環境と血流をよくすることがたいせつ
私は長年、多くの患者さんを診てきた経験から、緑内障、白内障、黄斑変性など、目の病気を治癒するためには、生活習慣の改善がたいせつだと考えています。今回は、目の病気を克服するための療法、特に食生活について紹介します。
まず、少食にすることが重要です。「腸脳連動」という言葉があるほど、腸と脳は深いかかわりがあります。そして目は脳の一部です。腸内環境をよくすることで、脳や目の状態もよくなります。
目の修復をする成長ホルモンや、代謝を高める甲状腺ホルモン、炎症を抑えたり体を異物から守ったりする副腎皮質ホルモンの分泌が促され、目の修復機能が高まるのです。
脳の状態がよくなると、目に悪影響を及ぼすストレスに対して強くなるので、そういった意味でも目にいいのです。
また、体内で余っている不要物が、目の病気を引き起こすことがあります。少食にすると、体のオートファジー(自食)という働きが活性化します。体がふだん使っている必要な物を残し、不要物をなくす働きがさかんになるのです。
例を挙げると、目の眼底の出血や白斑などが分解されてエネルギーに変わり、目の環境がよくなります。
目の病気を改善するには、血流をよくすることもたいせつです。目は多くの栄養素と酸素を必要としますが、それらは網膜にある多数の毛細血管の血液から運ばれています。
少食を続けると、血液をドロドロにしたり血管を傷つけたりする活性酸素が抑えられるため、血液がサラサラになり、血流がよくなります。
以上を踏まえたうえで、どのように少食生活を送るか説明しましょう。継続が大事なので、続けられるように三つの段階に分けて、少しずつ進めます。
最初に、間食と夜食はとらないでください。これは大前提です。
次に、食事は腹八分目で済ませます。
その二つが実行できたら、朝食をとらないようにしましょう。
朝食を抜き、腹八分目にすることで、これまでの3割ほど食事量を減らせます。各食事の配分は、朝食0、昼食4、夕食3を目安にしましょう。
朝食を抜く理由は、続けやすいからです。実際、患者さんに朝食か夕食のいずれかを抜く生活を実践してもらったことがあります。すると、夕食抜きは続かない人が多く、朝食抜きを継続できた人が多かったのです。
どうしても朝食が抜けなくて、何か口にしたい人は、野菜ジュースや青汁、豆乳などを飲んでもOKです。

空腹は回復の現れ!我慢ではなく「愉」しもう
3段階の少食の進め方
第1段階:間食・夜食をやめよう
↓実行できたら
第2段階:腹八分目にしよう
↓実行できたら
第3段階:朝食を抜こう
甘い物や揚げ物を避けて睡眠は7時間を確保
前述のとおり、目の病気の克服には腸内環境と血流の改善がポイントなので、摂取する栄養にも注意する必要があります。
まず、砂糖や甘味料が入った甘い物や、肉や揚げ物など、脂っこい物(動物性油脂)、ハムや練り物などの加工食品、乳製品、カフェイン、アルコールを避けましょう。
甘い物はAGEs(終末糖化産物)を作り、毛細血管をつぶすため、末端の血流が非常に悪くなります。
肉や揚げ物など脂っこい物は、腸内の悪玉菌がエサとして好むため、腸内環境が悪化します。悪玉菌は甘い物やアルコールも好物です。加工食品には、添加物が多く含まれます。
牛乳をはじめとする乳製品も、ハーバード大学の食事ガイドで避けたほうがいい食品として紹介されています。
カフェインとアルコールは、強い利尿作用があるため、体内の水分が排出され、血流が悪くなります。また、過度のアルコールは消化器全体の働きを低下させるので、控えましょう。
そして、玄米、野菜、海藻、を中心とした食事にします。玄米は健康維持に必要なビタミンやミネラル、抗酸化物質、脳の血流を増やすGABAがたっぷり。玄米に抵抗がある人は、胚芽米や十割そば、全粒粉パンがお勧めです。
たんぱく質は、主に大豆製品から植物性たんぱく質を、魚介類から動物性たんぱく質を摂取するようにします。
食事のほかに、歩くこともたいせつです。私は患者さんに1日1万3000歩のウォーキングをお勧めしています。目の網膜の血流がよくなり、出血や腫れが改善するのです。
ウォーキング時間は1回30分以内にし、小分けにして行います。自然を愛でながら鼻歌を歌えるくらいゆっくり、疲れないようにのんびり歩きましょう。
就眠は22時までとし、目や腸の修復に必要なホルモンが分泌される早い時間帯に寝ることがたいせつです。適切な睡眠時間は人それぞれですが、少なくとも7時間は確保してください。
控えるべき食品
●脂っこい物 ●甘い物 ●加工食品 ●乳製品 ●アルコール ●カフェイン

積極的にとる食品
●玄米 ●野菜 ●海藻 ●大豆食品 ●魚介類

根本的な回復のためには生活を改善しよう
このような生活習慣の改善により、目の病気から回復した症例を紹介しましょう。
Оさん(60歳・男性)は、左目の視界が突然グレー1色になりました。急いで受診した大学病院では、糖尿病網膜症と診断され、まずは止血のためにレーザーを150発受けました。
その後、レーザー治療をこれ以上受けていいものか、と疑問を感じたОさんは、根本的な回復を求め当院に来院しました。そして、朝は玄米ジュースで軽く済ませ、昼はそばかうどん、夜は肉など脂っこい物は控え、青菜中心の食事にし、1日1万3000歩を歩きました。
すると、1年弱で空腹時血糖値が大幅に降下し、インスリン注射をやめられました。眼底の白斑が消え、視力は左目が0.1から0.7に、右目が0.4から1.2に回復しました。
Kさん(80歳・男性)は、正常眼圧緑内障と診断されました。目薬の治療でも変化がないなか、私の本を読んで興味を抱き、当院に来ました。
そして、朝食を抜き、昼と夜は玄米と野菜中心の食事に変え、1日1万3000歩を歩いたところ、一時は0.9だった両目の視力が1.2に。眼圧も低下傾向になり、10年経っても視野を変わりなく保っています。
このように、生活習慣の改善で目の病気がよくなった例はたくさんあります。ぜひ皆さんも取り入れてください。

この記事は『壮快』2021年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp