目はとても小さい器官です。このため、かなり細い血管で栄養を循環させています。毛細血管が運ぶ血液量はごくわずかですから、血液の質や血管の状態がほんの少し変わることで影響が出てしまいます。この血管の状態や、目を守る唯一の存在である、涙の質を左右するのが食事内容です。【解説】平松類(二本松眼科副院長)

解説者のプロフィール

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平松類(ひらまつ・るい)

二本松眼科副院長。昭和大学医学部卒業。昭和大学兼任講師。彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長などを経て、現職。新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどで、目の病気などの医療情報をわかりやすく解説。著書に『黄斑変性・浮腫で失明しないために −わかりやすい最新治療』(時事通信社)など多数。
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とても細い毛細血管が目に栄養を運んでいる

目の健康を保つための重要な要素の一つが、日々の食事です。毎日何を食べるかによって目の状態が変化するのです。

私は、眼科医として、多くの患者さんの話を聞き、目の状態を診察していくうちに、いよいよ強くこのことを実感するようになりました。

目はとても小さい器官です。このため、かなり細い血管で栄養を循環させています。毛細血管が運ぶ血液量はごくわずかですから、血液の質や血管の状態がほんの少し変わることで、栄養素が足りなくなったり、血流が悪くなったり、血管が詰まるなどの影響が出てしまいます。

この血管の状態を左右するのが、食事内容です。

また、目は、皮膚などに守られておらず、むき出しの形で外と接する器官です。むき出しの目を守る唯一の存在が涙です。

この涙の質を決定するものも、食事なのです。

では、目の状態をよくするため、どんな物を食べればよいでしょうか。まず、栄養素の面から、最も重要なものを四つ取り上げましょう。

ルテイン

カロテノイド(赤や黄色の色素成分)の一種で、強力な抗酸化作用を有しています。

ルテインは、目の水晶体や、網膜中央にある黄斑部の主要な構成成分でもあるため、目に優先的に効く栄養素として知られ、多くの眼科医が推奨するものです。

紫外線のダメージを消去し、緑内障、白内障、黄斑変性、老眼など、多くの目の疾患の予防・改善に役立ちます。

アスタキサンチン

ルテインと同様、カロテノイドの一種です。優れた抗酸化作用がありますが、目に優先的に効くというよりは、体全般の抗酸化を進めることで、目の状態をよくします。

β-カロテン

こちらもカロテノイドの一種です。抗酸化作用があり、皮膚・粘膜の健康を保ち、目の不調全般によいとされています。眼精疲労や、目の老化予防にも効果的です。

DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)

これらは魚に多く含まれる栄養素として、有名な不飽和脂肪酸の一種です。血流を改善し、抗炎症作用も有しています。

さらに涙の質もよくします。涙は水と脂でできていますが、脂の質が良化するのです。そのため、ドライアイや目の充血の対策としてとても有効です。

栄養素含まれる食材
ルテインホウレンソウ、ブロッコリー、ニラ、トウモロコシ、ゴーヤ、卵黄、ケールなど
アスタキサンチン鮭、エビ、カニ、赤い海藻類など
β-カロテンニンジン、シュンギク、ホウレンソウ、モロヘイヤ、カボチャなど
DHA・EPAアジ、サバ、マグロ、ブリ、サンマなど
目の健康を保つ栄養素と食材

黄斑変性の急増は食生活の欧風化が一因

続いて、目の症状・疾患から、それぞれによい栄養素を考えてみましょう。

緑内障

お勧め栄養素:たんぱく質、アントシアニン、ルテイン、β-カロチンなど

緑内障は、視神経に障害が起こり、目が見えづらくなる病気です。日本人の失明原因の第一位を占めています。

たんぱく質の摂取量が減ると、緑内障になりやすいという研究もあります。たんぱく質の摂取量が少なくなりがちな高齢者の場合、特に気をつけて、積極的にたんぱく質の摂取を心がけたほうがいいでしょう。

糖尿病になると、緑内障の発症確率がアップするというデータも出ています。糖質は控えめにしましょう。それが、糖尿病の人だけではなく、糖尿病でない人の緑内障発症率も下げることにつながっていくと考えられます。

ほかに勧められるのは、目の血流を促すカシスのアントシアニン(ポリフェノールの一種)や、目の万能薬ともいわれるルテイン、緑黄色野菜全般に含まれるβ-カロテンなどです。

緑黄色野菜のうちで、特にお勧めしたいのが、ホウレンソウです。1日に必要なルテイン10mgを、ホウレンソウなら2株でとれるからです。ホウレンソウには、β-カロテンも豊富なので、お勧め食材といえるでしょう。

白内障

お勧め栄養素:ルテイン、アスタキサンチン、β-カロチン、ビタミンCなど

白内障は、加齢により、目のレンズの役割を果たしている水晶体のたんぱく質が変性して濁る病気です。

加齢によって、しだいに水晶体は変性しますが、紫外線を浴びたり、目をこすったりといったダメージが加わると、白内障が進みやすくなります。

ですから、食事によって、目の回復を少しでも高めることが、白内障の予防・改善には重要です。

目の回復を助ける栄養素として、抗酸化力の高いルテインやアスタキサンチン、β-カロテン、ビタミンCが有効です。

また、白内障には、肉や魚の焦げがよくないとされています。焦げている食べ物はできるかぎり食べないようにしたほうがいいでしょう。

黄斑変性

お勧め栄養素:DHA、EPA、ビタミンKなど

網膜の中心部にある黄斑という部位が加齢などによって変性する病気が、黄斑変性です。

黄斑変性は、「目の生活習慣病」といわれており、ほかの目の病気と比べても、特に食生活を見直すことが大事です。

昔、日本には、この病気はほとんど見られませんでした。それが、食生活の欧風化とともに、患者さんが急増してきたのです。

自分の食事を顧みて、肉ばかり食べているといった、偏った傾向があるなら、それを改善していく必要があります。

この病気の初期段階では、黄斑部に、脂質の塊みたいなものが出てきます。脂質の多い食事をとっていると、脂質が黄斑にたまってしまうのです。このため、黄斑変性の人は、できるだけ脂質を少なくするように心がけてください。

食事では、ルテインなどの抗酸化力の高い栄養素を含んだ食品や、血流改善に役立つDHAやEPAを含む青魚などもお勧めです。

ほかに、ビタミンKもいいでしょう。ビタミンKは血流改善に役立つビタミンで、納豆などに多く含まれています。

よい栄養素をとれば目はよい状態へ変化する

ちなみに、糖尿病や高血圧といった生活習慣病や、動脈硬化も、目の状態と密接に関係しています。

目の血管は細い血管であるため、血管の病気がいちばん最初にわかる臓器だといわれています。健康診断では、高血圧や糖尿病のチェックのために目の血管を調べます。体になんの支障もなくても、目の血管で出血していることがあったりするのです。

そして、糖尿病が進行すれば、合併症として糖尿病網膜症が起こり、網膜の血管が詰まったり、出血が起こったりします。また、高血圧や動脈硬化が進むことで生じる脳梗塞や心筋梗塞の前兆として、目の血管が詰まることもあります。

こうした場合、原因となっている生活習慣病を改善させることが先決になります。そのためには、塩分を控えたり、糖質を減らすといった食事療法が欠かせません。

目という臓器は、子供のころからずっと同じものではありません。日々、新陳代謝をくりかえし、入れ替わっている器官です。

だからこそ、食事はとてもたいせつです。悪い物を食べれば、悪い影響が目に及び、よい栄養素をとれば、よい状態へと変化していくのです。

自分の症状とその症状に効果的な栄養素を把握して、それらを多く含んだ食品を積極的に毎日の食事に取り入れていくといいでしょう。

画像: この記事は『壮快』2021年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年8月号に掲載されています。

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