解説者のプロフィール

小山一(こやま・はじめ)
香川大学医学部客員研究員・非常勤講師。1969年、京都大学理学部化学科卒業。75年に同大学大学院理学研究科博士課程を修了し理学博士号を取得。同大学ウイルス研究所助手を経て、80年より徳島大学医学部、88年同大学院医学研究科助教授。2004年より和歌山県立医科大学医学部教授。12年、和歌山信愛女子短期大学学長に就任。15年より現職。ウイルス学を専門とする。
梅酢ポリフェノールがウイルスに与える影響とは
和歌山県は、ご存じのとおり梅の名産地です。私は和歌山県の大学にいたときに、和歌山大学食農総合研究教育センターの三谷隆彦客員教授より誘いを受け、梅酢ポリフェノールの研究に取り組むことになりました。
梅酢は、梅干しを製造する過程で出る液体です。酸と塩を高濃度で含んでいます。ポリフェノールとは、野菜や果物などの色素成分や苦み成分で、抗酸化作用を有します。
梅果実が梅干しに加工されると、そのポリフェノールは8割が梅干しに残り、2割が梅酢中に抽出されることが、三谷先生の研究でわかっています。逆をいえば、梅酢には梅由来のポリフェノールが2割も含まれているのですから、これは有効活用すべきと、研究を進めてきたのです。
とはいえ、梅酢の塩分濃度は製造業者や製品によりさまざまで、一様ではありません。そこで三谷先生は、梅酢から取り出したポリフェノールを工業的に精製し粉末に加工。梅酢に含まれていた塩分やクエン酸を取り除き、純粋なポリフェノール類として品質を安定させました。
私たちは、この精製した梅酢ポリフェノール粉末(以下、UP)を用いて実験し、インフルエンザを含むさまざまなウイルスに対する反応を調べました。その結果、UPには次の作用があることがわかりました。
❶ウイルスの増殖抑制(減少)
❷ウイルスの不活性化(消毒)
それぞれについて、解説していきましょう。
①の増殖抑制作用についてはあえてさまざまなウイルスで実験しました。口唇ヘルペス、性器ヘルペス、インフルエンザ、ポリオ、夏カゼ。加えて、ネコにカゼ様の症状を引き起こす、ネコカリシウイルスへの作用も調べました。
シャーレ内に培養された細胞に、それぞれのウイルスを感染させ、UPを加え、ひと晩かけて培養しました。すると、6種すべてで、子孫ウイルス(培養により増えたウイルス)の量が、減少していました。
また、この実験ではUPの濃度を変えたり、細胞をウイルスに感染させてからUPを添加する時間を変えたりもしました。その結果「感染後、初期の段階でウイルスの増殖を防ぐ」「UPの濃度は高いほど有効だが、ごく低濃度でも効果がある」ことも、わかりました。
梅酢によるうがいが感染症の症状を軽減
②の不活化も、①とは一部異なるさまざまなウイルスを用いて、実験を行いました。
UPを溶かした水溶液の中にウイルスを入れ、一定の温度で保温。UPがウイルスの感染性をどれくらい不活化するか(感染力を下げるか)を調べたのです。これも、UPの濃度や保温の温度など条件を変えて比較しています。
すると、例えばポリオウイルスの不活化にはあまり作用しない一方で、インフルエンザは30度で5分間保温すると不活化しました。結論としてUPは「特に呼吸器感染ウイルスの不活化に効果的」と判明しました。
さて、UPの消毒薬としての安全性は、もともと動物実験で確認されていました。そこで次に、UPをウイルス不活化薬として、例えばうがい薬などに応用できないかと、三谷先生らが臨床的に検証したのが、次の実験です。
300名の有志を二つの群に分け、片方にはUPが含まれた粉末を、もう片方にはプラセボ(偽薬)の粉末を渡しました。
それを100mlの水に溶かして、1日3回、9週間にわたってうがいを励行。カゼやインフルエンザの症状があるか、毎週記録してもらったのです。
すると、UP群は週が進むにつれて、カゼ様症状の罹患率が減少しました。プラセボ群も、5週めまではUP群同様に減少しましたが、その後は増加に転じました。9週めで、統計的に有意な差を生じました。
一方、タンやくしゃみなど個別の症状を見ると、差は比較的顕著で、UP群はプラセボ群に比べ、週が進むほど有症率(症状がある率)が減少しました。
これは「UPを用いたうがいでは、カゼやインフルエンザの罹患そのものは防げないが、罹患している期間を短縮し症状を軽減できる」ことを示唆します。
さて、家庭の梅干しから出た梅酢は精製されておらず、塩分やクエン酸が含まれるので実験で用いたUPとは異なります。
しかし、クエン酸の酸性もウイルスを減少させるうえ、塩にも殺菌作用があります。梅酢を水で薄めた「梅酢水うがい」も、ある程度、抗ウイルス効果を期待できるでしょう。
②の実験では、コロナウイルス科に分類される、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスも試し、細胞への感染を抑えることが示されています。梅酢うがいは、さまざまなウイルス撃退に役立つはずです。梅酢の活用法として、試す価値はあると思います。

梅酢うがいは抗ウイルス作用が期待できる
梅酢水の基本的な作り方
【梅酢とは】
梅干しを作るに当たり、塩漬けしたときに出る液体。市販もされており、健康食品店や、スーパーなどの自然食品売り場で購入が可能。基本的な成分は、梅果汁と塩。赤梅酢の場合は、赤ジソの成分も含む。

白‥塩だけで漬けた、白干し梅の汁。赤…シソ漬けした、赤梅干しの汁
【梅酢水の作り方】
梅酢を数滴、グラスに入れ、適量の水や湯で薄める。
※塩分濃度が約1%になるのが望ましいが、物により塩分の量が異なるので、適宜希釈する。ほんのり塩気を感じる程度の味が目安。

【飲み方】
基本的には、ふだんの水分補給と同様。特に、運動時の熱中症対策にお勧め。