解説者のプロフィール

中野長久(なかの・よしひさ)
大阪府立大学名誉教授・同大学研究推進機構客員教授および食品代謝栄養学共同研究員。1965年、岐阜大学農学部卒。67年、東北大学農学研究科にて博士号を取得(農学博士)。島根大学で学んだのち、81年に大阪府立大学に着任。助教授を経て92年に同大学教授、2007年より名誉教授。酵素の機能を栄養学的に考察。緑藻ユーグレナ研究の第一人者でもある。
梅酢を捨てるなんてもったいない!
私は今年77歳ですが、今も大学の研究室で、食品の代謝にまつわる研究を続けています。
一年中、薄着を旨としており体は丈夫。趣味は登山で、三百名山ではもの足りず、ヒマラヤまで登りました。骨折しても入院を断り、いつも学内をあちこち動き回っているので、「お元気ですね」と学生諸君に驚かれるほどです。
そんな私が愛用しているのが梅酢です。梅に塩を振ると、梅から汁が染み出してきます。この、酸味が強く塩分濃度が高い液体が、梅酢です。
梅酢は、梅干し加工における副産物で大量にできるため、多くの梅干し製造業者にとっては、産業廃棄物にすぎません。実際、90年代までは、海洋投棄が許されていました。
けれども、捨てるなんてもったいない!
梅は栄養価が高くクエン酸のほか、カリウム、カルシウム、鉄、マグネシウム、リンなどのミネラルを比較的多く含みます。ビタミン類は、EやCが多めです。ビタミンAやB群も有しています。
これらの栄養成分は、むろん梅干しに多く含まれますが、梅酢にも溶け出しているのです。
梅酢の使い方としては、
❶水などで薄めて「梅酢水」として飲む(作り方は下項参照)
❷そのままで、健康調味料として使う
の2通りが考えられます。それぞれの場合のメリットを考えていきましょう。
現代人の食バランスを整えるアルカリ性食品
まず①の、梅酢水として飲む場合です。
私はふだんから、梅酢水を水分補給に活用しています。登山やハイキングのときは梅酢をペットボトルに入れて携行し、山の湧き水などで薄めて飲むのです。
汗をかいて、脱水症が進むと熱中症になります。このとき、水分だけを補給すると、かえって症状が重くなる場合もあります。汗で失われた塩分に加え、カリウムなどのミネラルの摂取が重要です。
その点、梅酢には塩をはじめミネラルが豊富なので、水で薄めて飲めば、スポーツドリンクがわりに最適です。飲みにくい場合は少量のハチミツなどで甘みを加えてください。
厳密にいえば、最も体に吸収されやすい生理食塩水と同じ、塩分濃度0.9%に調整するのが望ましいでしょう。とはいえ梅酢は塩分濃度がさまざまなので、それは無理難題です。ほんのりと塩気を感じる程度を目安にするといいと思います。
梅酢水は、クエン酸も含まれているので、疲労解消や体力回復にも効果的です。クエン酸は体内のエネルギー代謝経路をスムーズに回すので、血液が浄化され血流がよくなります。
ちなみに、梅酢は塩分を多く含むので、血圧への作用が気になるかもしれません。しかし、一方でカリウムも豊富。カリウムはナトリウムを尿といっしょに排出する作用があるため、ふだん水分補給をする量を飲む程度であれば、血圧上昇の心配は無用です。
むしろ、クエン酸の効果などと複合的に作用して、血圧を下げる効果が期待できます。年を取ると血圧が上がりぎみになるものですが、私は、最大血圧が120mmHg程度で、最小血圧は80mmHg程度をずっと維持しています(基準値は、最大血圧は140mmHg未満、最小血圧は90mmHg未満)。
便秘の人にも、梅酢水はお勧めです。水分に加え、マグネシウムの作用が、腸内で便をやわらかくします。腸の状態がよくなれば免疫機能も高まります。
②の、梅酢をそのまま調味料として料理に使うのも、お勧めです。
私はいつも、自分の昼食は大学の研究棟で調理しているのですが、塩やしょうゆのかわりに、梅酢を使うこともしばしばです。例えば、魚に塩をするかわりに梅酢を振ったり、野菜炒めや、すまし汁に加えたり。
ただの塩とは異なり、ミネラルがたっぷり補給できるので、健康調味料といえるでしょう。
また、梅酢は酸を多く含みますが、アルカリ性食品です。現代人は肉や穀類などの酸性食品をとり過ぎなので、食のバランスを整える一助にもなります。
家庭で梅干しを手作りする人はもちろん、そうでないかたもぜひ、健康にいい梅酢を食生活に取り入れてみてください。
梅酢水の基本的な作り方
【梅酢とは】
梅干しを作るに当たり、塩漬けしたときに出る液体。市販もされており、健康食品店や、スーパーなどの自然食品売り場で購入が可能。基本的な成分は、梅果汁と塩。赤梅酢の場合は、赤ジソの成分も含む。

白‥塩だけで漬けた、白干し梅の汁。赤…シソ漬けした、赤梅干しの汁
【梅酢水の作り方】
梅酢を数滴、グラスに入れ、適量の水や湯で薄める。
※塩分濃度が約1%になるのが望ましいが、物により塩分の量が異なるので、適宜希釈する。ほんのり塩気を感じる程度の味が目安。

【飲み方】
基本的には、ふだんの水分補給と同様。特に、運動時の熱中症対策にお勧め。

この記事は『壮快』2021年8月号に掲載されています。
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