ひざ痛の一番の原因は、ひざの周りの骨や筋肉の衰えですが、骨や筋肉も「腎」と関係があります。腎が弱った状態を「腎虚」といい、腎が弱ると骨や靭帯ももろくなり、ひざに痛みが出てきます。そこでやっていただきたいのが、自宅でできる腎虚の治療「ゴロ寝腎刺激」です。【解説】福辻鋭記(アスカ鍼灸治療院院長)

解説者のプロフィール

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福辻鋭記(ふくつじ・としき)

アスカ鍼灸治療院院長。日中治療医学研究会員。日本東方医学会会員。東洋鍼灸専門学校を卒業後、鍼灸が美容に効果的であるという一面に興味を持ち、美容術の技術と理論について研究。日本の名医50人にも選ばれた、鍼灸の第一人者。カイロプラクティック、整体などの技術も学び、昭和60年にアスカ鍼灸治療院を開設。幅広い症状への治療を行っている。女性雑誌・健康雑誌・テレビ等でも活躍中。
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ひざ痛の本当の原因を取り除く

ひざ痛で来られた患者さんに、私が最初に必ず行うのが、「」の治療です。

東洋医学では、腎は五臓六腑の中で最も重要な臓器とされています。その働きは、西洋医学で言う腎臓の域にとどまりません。排泄、水分調節、血液の浄化はもちろんのこと、ホルモンの調節、骨の強化、脳の活性など、全身に及んでいるのです。

また腎は、その人の生命力の強さを現しています。右の腎には先天の精(生まれながらに備わった生命エネルギー)、左の腎には後天の精(生活習慣などで作られる生命エネルギー)が蓄えられています。腎気が最も強いときに生命力はピークを迎え、腎気がなくなると、命もついえてしまいます。

この生命力を、目に見える形で現しているのが耳です。耳が大きい福耳の持ち主は、たいてい元気で若々しく、長生きです。これは、腎の状態が耳に現れているからです。

東洋医学では、内臓(五臓)と全身の各部位は関係があるとされ、耳は腎と深い関係にあります。それと同じように、腎と関係が深いのが、ひざです。

60歳を過ぎると、ひざに痛みを訴える人が多くなります。これは腎が弱ってきたからで、この腎が弱った状態を「腎虚(じんきょ)」といいます。

スポーツや肥満などで、過度にひざに負担をかけた場合を除き、ひざ痛は腎の弱りを教えるサインでもあるのです。

ひざ痛の一番の原因は、ひざの周りの骨や筋肉の衰えですが、骨や筋肉も腎と関係があります。骨を支配しているのは腎で、腎が弱ると、骨や靭帯ももろくなり、ひざに痛みが出てきます。

また、骨を支えている筋肉は、肝に支配されています。「肝腎かなめ」という言葉があるように、肝と腎はとても大事な臓器で、しかも東洋医学では、この二つは「親子」の関係にあります。腎は肝の親で、腎が衰えると肝も衰えて、骨だけでなく筋肉も弱ってしまうのです。

ひざ痛で最初に腎の治療を行う理由が、おわかりいただけたでしょうか。このように、痛みの原因となる臓器の治療を行うことを「本治法」といいます。まずこれを行わないと、痛みを根本から取ることはできません。

全身が元気になり老化も防げる

そこで、ひざ痛の人にやっていただきたいのが、自宅でできる腎虚の治療「ゴロ寝腎刺激」です。

これは、腰周りに集中している腎の特効ツボを、寝ながら刺激するセルフケアです。

背中のウエストラインより少し下には、背骨を挟んで指2本外側に「腎兪(じんゆ)」というツボがあり、そこからさらに指2本外側に「志室(ししつ)」のツボがあります。また、志室より少し上のラインのわき腹寄りには肋骨の最下部があり、そこに「京門(きょうもん)」というツボがあります。

画像: 全身が元気になり老化も防げる

これらはいずれも腎を元気にするツボで、同時に腰痛のツボでもあります。

ひざ痛のある人は、たいてい腰痛も持っています。骨盤がゆがんでいたり、股関節がねじれていたりすると、腰だけでなくひざにも痛みが波及します。反対に、ひざ痛が原因で腰に負担がかかることもあります。

腰痛もひざ痛と同じ腎虚の症状で、ひざは腰の治療も一緒に行わないと治りにくいのです。ゴロ寝腎刺激は、腎のツボを一度に刺激して、ひざ痛にも腰痛にも対処できるケアなのです。

ゴロ寝腎刺激のやり方は、簡単です。タオルを丸めて腎枕を二つ作り、あおむけに寝て腰に当て、体を左右にゆっくり揺らすだけ(やり方は下項参照)。その後、ゆっくり深呼吸します。

食後1時間を避ければ、いつ行っても構いませんが、体が温まっているお風呂上がりが効果的です。1日2回を目安に行うといいでしょう。

このゴロ寝腎刺激を行うと、骨盤や股関節が整い、腰がほぐれて腎が元気になるので、ひざ痛も腰痛も改善します。

また、血行がよくなるので、頭痛、肩こり、背中の痛み、股関節痛など、さまざまな痛みの改善に役立ちます。腎虚が改善すれば、全身が元気になって、老化も遅らせることができます。

腎が弱っている人は、最初は枕の当たるところが痛いかもしれません。痛いときは無理せず、できる範囲で行い、少しずつ回数や時間を増やしてください。また、薄いタオルで枕を小さく作ると、刺激が弱くなります。

注意点は、腎枕を当てたまま寝てしまわないことです。寝ている間に枕が変なところに当たり、朝、痛みが出たりします。

また、脊柱管狭窄症(背骨内部の神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれが出る病気)や椎間板ヘルニア(背骨を構成する椎骨と椎骨の間にある椎間板が飛び出した状態)、すべり症などと診断されている人は、行わないでください

なお、腎にとって一番よくないのは冷えですから、こうしたケアとともに、普段から日常生活で体を冷やさないように気をつけることも大事です。

加えて、簡単にできる腎の養生法として、腎がつかさどっている耳を左右に広げるように引っ張るのもお勧めです。ゴロ寝腎刺激とあわせて実践し、ひざ痛の改善を目指してください。

ゴロ寝腎刺激のやり方

1. 腎枕を作る

画像1: 1. 腎枕を作る

フェイスタオルを2枚用意

画像2: 1. 腎枕を作る

フェイスタオル1枚を半分に折る。

画像3: 1. 腎枕を作る

①をさらに3つ折りにする。

画像4: 1. 腎枕を作る

②を端からくるくると巻いていく。

画像5: 1. 腎枕を作る

輪ゴムやひもで、両端をきつめにしばる。

画像6: 1. 腎枕を作る

もう1枚のフェイスタオルでも同様に作る。腎枕の高さが10cm程度になっていればOK。

2. 背中に腎枕を当てて寝る

画像1: 2. 背中に腎枕を当てて寝る
画像2: 2. 背中に腎枕を当てて寝る

背中のウエストラインに、背骨を挟んで腎枕を縦に2つ並べて当て、あおむけに寝る。両手、両足は自然に伸ばし、肩の力を抜いて、そのまま2分間寝転ぶ。

画像3: 2. 背中に腎枕を当てて寝る

両ひざを軽く立て、体をゆっくり左右に揺らす。左右各5回ずつ行う。腎枕を当てた背中の辺りが、じわーっと温かくなるのを感じながら行うとよい。

画像4: 2. 背中に腎枕を当てて寝る

あおむけの状態に戻り、両足を伸ばす。両手をおなかに当てて、ゆっくりと深呼吸を3回行う。
※上記①~③を、1日2回行うのが目安。食後1時間を避ければ、いつ行ってもよい。

画像: この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。

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