解説者のプロフィール

千葉直樹(ちば・なおき)
上高田ちば整形外科・小児科院長。2006年昭和大学医学部医学科卒業後、昭和大学大学院医学研究科卒業、医学博士取得。東京、神奈川、埼玉の病院勤務を経て、2017年上高田ちば整形外科・小児科を開院。開院当時から一貫して「からだに低侵襲な治療から」を治療方針とし、投薬や手術に極力頼らない診療を行う。リハビリテーションでは、姿勢の矯正や歩容の評価にも力を入れている。
▼上高田ちば整形外科・小児科(公式サイト)
ひざの治療に楽しく向き合える優れた手段
ひざ痛に対しては多様なアプローチがあります。私は大学病院に勤務していた頃は、手術療法を中心に治療を行っていましたが、手術が必要とされても保存療法(手術以外の治療法)で改善する症例はたくさんあります。
保存療法にはいろいろなものがありますが、私が力を入れているのはリハビリ(運動療法や物理療法)や、減量などの生活指導です。その一環として、アロマセラピー(芳香療法。植物から抽出した精油を使って行う)も取り入れています。
もちろん、香りだけでひざの痛みが治るわけではありませんが、香りは気分をリラックスさせ、ひざの治療に楽しく向き合える手段として、とても有効だと考えています。
私がアロマセラピーを知ったのは大学時代。担当教授がアロマセラピー学会の理事長だった縁で、大学院ではジンジャー(ショウガ)などの薬理作用を研究していました。
病院に勤務してからは、入院中の患者さんにアロママッサージを行っていました。
ひざ痛の患者さんは、手術後、ひざから先がむくみやすくなります。その部分を精油を使ってマッサージすると、むくみや腫れが引いていきます。またマッサージをしている時間は、患者さんとの良好なコミュニケーションの場にもなりました。
それでは、ひざ痛の方にお勧めの精油をご紹介しましょう。
①ジンジャー
ショウガの精油です。精油の中で最も強い消炎鎮痛作用を持っていることが、私たちの研究で実証されています。
②ラベンダー
ラベンダーの花から抽出した精油です。消炎鎮痛作用や血流改善作用、リラックス作用があります。甘く爽やかな日本人好みの香りを持ちます。
③ベルガモット
かんきつ類の一種である、ベルガモットの果皮から抽出した精油です。一般的に、かんきつ類の精油は血流改善作用に優れており、特にベルガモットは強い抗炎症作用を持ちます。香りもすがすがしく、他の精油とブレンドしやすい精油です。
これらのどれか1つでもいいのですが、お勧めは3種をブレンドして使うことです。
特にジンジャーは、ツンとした香りが強いので、ラベンダーやベルガモットの精油を組み合わせることで、その癖が打ち消されて、使いやすくなります。

痛み取り効果の高いジンジャーの精油。
皮膚からも鼻からも薬効成分を取り入れられる
アロマセラピーの作用は、大きく分けると2つあります。
①経皮的作用
外用薬と同じように、皮膚から消炎鎮痛成分が染み込んで、炎症を抑えます。また、温浴やマッサージなどによって血流がよくなると、炎症物質が洗い流されます。
②経鼻的作用
香り成分が鼻から入り、直接脳の中枢部である大脳辺縁系に届きます。そこで香りの成分に対応して、神経伝達物質(ホルモン)が分泌されるといわれています。
メインは鎮静作用やリラックス作用で、安眠効果もあります。睡眠不足は血流を悪くして炎症物質を増やしますから、安眠できることは、痛みの軽減にもつながります。
精油の活用法として一般的なのはアロママッサージですが、より簡単に行える方法として、ここでは、お風呂に入れる方法をご紹介しましょう。
湯船にジンジャーの精油を4~5滴垂らし、よくかき混ぜて入ります。他の精油も加える場合は、それぞれ2~3滴ほどプラスしてください。
なお、精油は入れれば入れるほど効くわけではなく、入れ過ぎは肌に強過ぎる刺激を与えますから、注意してください。成分が揮発してしまうので、精油は入浴の直前に入れましょう。

最後に、精油を使うにあたって、注意点を挙げておきます。
精油は品質が大事ですから、100%植物抽出のものを選んでください。
・遮光瓶に入っていること、
・植物の学名が明記されていること、
・抽出部位と抽出方法が記載されていること、
この3点を確認します。
また、精油を直接皮膚につけないでください。成分が濃縮されているので、炎症を起こす恐れがあります。飲用も日本では認められていません。
香りのある暮らしは生活を豊かにします。病気に対する考え方も変わってきて、前向きに治療やリハビリに取り組めるようになってきます。そして痛みが改善すれば、薬も減らせます。
ぜひ香りを、ひざ痛の改善に役立ててみてください。

この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。
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