解説者のプロフィール

松本忠男(まつもと・ただお)
健康を守るお掃除コンサルタント。(株)プラナ代表取締役社長。ヘルスケアクリーニング(株)代表取締役社長。東京ディズニーランド、ダスキンヘルスケア(株)を経て、亀田総合病院のグループ会社で清掃管理者を約10年間務める。1997年、医療関連サービスのトータルマネジメントを事業目的として、(株)プラナを設立。これまで育ててきた清掃スタッフの総数は700人以上。現場で体得したコツやノウハウをメディアや講演会で指導している。『健康になりたければ家の掃除を変えなさい』(扶桑社)など著書多数。
「掃除をするときに窓を開ける」は大間違い
皆さんがカビ掃除として思い浮かべるのは、水回りや食べ物などに現れた「目に見えるカビ」ではないでしょうか。
しかし、カビの胞子は5μm(μmは1000分の1mm)と、ごく小さなもの。本当は、目に見えない段階で掃除しておかなければ、遅過ぎるのです。
すでに見えているカビは、大量のカビが増殖して菌糸を伸ばし、胞子をまき散らしている状態なので、速やかにカビ取り剤などで処理してください。
その後に、目に見えない段階のカビを取り除いていくのが、健康掃除の本番です。
さて、最初に問題です。次の掃除のやり方で、普段あなたが行っているもの、正しいと思うものはありますか?
①窓を開けて、換気をしながら掃除をする。
②雑巾がけは、乾拭きよりも水拭きの方がホコリが取れる。
③クロスを往復させながら、拭き掃除をする。
実は、三つとも間違いです。
目に見えないカビの胞子がどこにあるのか。実は、その多くがホコリに付着しています。
部屋の隅や家具の裏にたまっている、グレーでホワホワとした年季の入った綿ボコリはもちろんのこと、一見なにもないように見える、細かなチリ状のホコリが要注意です。
カビだけでなく、ウイルスや細菌などの病原体の多くは、この細かなホコリにくっついています。健康的な生活を送る上で、この細かな「病原ホコリ」をいかに減らすかが、健康掃除のポイントなのです。
ホコリは、換気扇やエアコンなどの空調の他、人の動き、体温などの熱が作り出した気流に乗って部屋の中を舞い、壁や家具などに当たって落ちます。
空気中に舞い上がったホコリを除去するのは困難ですから、床に落ちたところを集めて取るしかありません。
つまり、掃除中に換気をして気流をつくりだすのは、わざわざホコリを拡散させて、除去しにくくしているだけなのです。
可能なら、掃除の30分前に窓を閉め、空調も止めて、ホコリを床に落としてから掃除するのがベスト。換気は、掃除して部屋の中のホコリの量を減らした後に、しっかり行いましょう。
そしてもう一つ、皆さんが誤解していることが多いのが、拭き取り方です。
ホコリの代わりに、粒子の細かな泥汚れをイメージすると分かりやすいかもしれません。
濡らした雑巾で、左右に往復するように拭いたときと、乾いた雑巾で進行方向に泥を集めるように拭いていき、最後に集めた汚れを取ったとき、どちらが泥の量を減らせていると思いますか?
水拭きや往復拭きでは、けっきょく汚れを布にはりつけて薄めたり、広げたりしているだけで、ホコリの量はあまり減らせていないのです。
拭くときは一方向に、接触面ではなく、進行方向にできた線でこそげて集める意識で拭き取る。これは、テーブルでも床でも同じ、掃除の鉄則です。
ホコリが集まる場所をねらい打つのが効率的
また、病原ホコリは、気流に乗って移動することから、部屋の中心部よりも、風の動きが弱い壁沿いや家具の隙間にたまりやすいのが特徴です。
ホコリが出やすい場所をチェックしておき、そこを重点的に掃除する方が、全体を適度に掃除するよりも、ずっと効率的にホコリを減らせます。
掃除機やフロアモップを壁に向かって押し込むように動かしていたり、そもそも四角い部屋を丸く掃いたりするような掃除では、いちばんたまっているところのホコリを取り残しがちなので気をつけてください。
お勧めは、最初に「松本式スクイージー」(下項参照)で、部屋の隅から手前に向かってホコリを引き出すように集めること。
スクイージーは、本来は、浴室の水滴や窓の結露などを取るための道具ですが、5㎜幅に切込みを入れることで、細かなホコリをゴッソリとかき集めることができます。もちろん動かすのは1方向で、往復させないようにしましょう。
汚れていないように見えた床でも、スクイージーをすっと滑らせただけで、ホコリがブワッとまとまって可視化され、驚くかもしれません。
100円ショップなどで売られている安価なもので十分なので、トイレや脱衣所、リビングなど部屋ごとに分けて、スクイージーを用意しておくと便利です。
掃除機は、どうしても排気によってホコリを舞い上げてしまいます。そのため、最初から掃除機を使うのではなく、ある程度、床のホコリをスクイージーで集めて取り除いてから、掃除機をかけるとよいでしょう。
カーペットやじゅうたんの繊維の奥などのホコリを吸い出すためには、掃除機のヘッドを押し付けずに、ゆっくりと動かすのがコツです。
つい、グイグイと押し付けるように動かしがちになるので、意識して軽く動かしましょう。
油汚れにこびりついたホコリは重曹水でパック
先ほど、病原ホコリの掃除は乾拭きが基本だとお伝えしましたが、油煙でこびりついたホコリは、特別な対応が必要です。
キッチン周りは、コンロなどの熱源が多く、上昇気流が生まれやすい場所。調理中に霧状になった油とホコリが気流で舞い上がるため、冷蔵庫の上など高い場所にも、汚れがたまりやすいものです。この油とホコリが合わさって固着した汚れは、乾拭きだけでは落とせません。
お勧めは、重曹水を含ませたキッチンペーパーを、汚れの上に広げておくことです。
油汚れは酸性の汚れなので、重曹水のようにアルカリ性の性質を持つものを使うと、簡単に落とすことができます。
ただし、重曹水をスプレーで吹きかけると、くっつく前のホコリがあった場合に吹き飛ばしてしまうおそれがあります。
重曹水で濡らしたキッチンペーパーを上にそっと乗せ、油がゆるんだらそのままペーパーで拭き取ってしまうのが、簡単で確実です。
ポイントさえ押さえれば、本当に衛生的な掃除を行うのは、けっして難しくも面倒でもありません。皆さんも、ぜひ今日から実践してください。
「病原ホコリ」を減らす健康掃除のポイント
換気は掃除の後に行う
カビを含んだホコリは、人の動きや換気による気流で舞い上がり、壁や家具に当たって落ちるので、部屋の中心部よりも隅や家具の際にたまりやすい。

窓を閉め、部屋の隅からホコリを集めて取り除いていく。松本式スクイージー(後述)を使うと便利。床にたまったホコリを気流で舞い上げないように、ゆっくりそーっと動かすのがポイント。

カビホコリがゴッソリ取れる松本式スクイージー
本来は窓ガラスや浴室の結露や水滴掃除用の道具だが、ひと工夫で最強のカビホコリ掃除の道具になる。

シリコン部分に5mm間隔で切り込みを入れることで、ホコリを集める機能が高まる。スクイージーは100円ショップなどで売られている安価なもので十分。

壁際、家具の際にスクイージーを当て、手前に軽く引く。少しずつ横にずらしながら奥から手前に一方通行で動かす。掃除機のヘッドやフロアワイパーでホコリを押し込みがちな、壁際のホコリをしっかり集めることができる。

掃除機は後で軽くゆっくりかける
掃除機は、どうしても排気でホコリを舞い上げてしまうため、スクイージーなどで部屋の中のホコリの量をある程度減らしてから使うのがコツ。繊維の根本のホコリを取ろうと力を入れて押し付けるように掃除機をかける人がいるが、それは逆効果。軽い力で、ゆっくり動かすことで、奥のホコリを効率的に吸い出せる。

一方向に乾拭きが大原則!往復拭き・水拭きはNG
水拭きは、汚れを薄めて広げやすくなるのでNG。クロスを往復させることで、さらに塗り広げる度合が高まる。カビやウイルス、ホコリを取る前にスプレーするとその勢いで舞い上がり、除菌効果がなくなった後で空中から落ちてくることに。

「一方向に拭く」のが大原則。往復させると、クロスに付いた汚れを塗り広げることになってしまう。クロスの面全体ではなく、進行方向の垂直な線で汚れをかき取っていくイメージで行うとやりやすい。

冷蔵庫の上などは油汚れを浮かせてから。
キッチンのカビホコリは、コンロなどの熱源や上部の換気扇による上昇気流で、冷蔵庫の上などの高いところにもたまりやすいのが特徴。油煙でこびりつき、乾拭きでは落としにくいので、重曹水を含ませたキッチンペーパーを広げて、しばらく時間をおいて油汚れをゆるめてから、キッチンペーパーでふき取るとよい。


この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。
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