解説者のプロフィール

内山葉子(うちやま・ようこ)
関西医科大学卒業。医学博士。大学病院で腎臓内科・循環器・内分泌を専門に臨床・研究を行い、葉子クリニックを開院。総合内科、腎臓内科、ホメオパシーの専門医。全人的医療に基づき、西洋医学に、漢方・機能性食品などを用いた補完・代替医療も取り入れている。『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』(マキノ出版)など著書多数。
▼葉子クリニック(公式サイト)
原因不明の不調は「増えすぎたカビ」が原因かも
10年以上、セキ、のどの違和感、カゼをくり返すなどの症状があり、ひんぱんに抗生物質などの薬を飲んでいても症状が改善しなかった70代女性。
20代半ばからおなかが張って便秘と下痢をくり返す過敏性腸症候群と診断され、整腸薬を飲んでいた20代女性。
数年来、顔全体に湿疹が出来て、皮膚科をはしごしていた30代女性。
症状も年代もバラバラですが、あるものを減らす食事に変えたところ、3週間から1ヵ月ほどで、症状が劇的に改善しました。
このあるものとは、増え過ぎた「おなかのカビ」です。
「おなかにカビ⁉」とギョッとしましたか? けれどもカビ(真菌)は、私たちの身の回りにありふれた微生物です。キッチンや浴室などの水回りや、日のたった食品に、いつの間にかカビを生やしてしまった経験が誰しもあるはずです。
さらに言えば、私たちは病原性のないカビを活用して、豊かな食文化を育んでいます。
例えば、酒、しょうゆ、みそなどを作るのに欠かせない麹は、コウジカビ(アスペルギルス・オリゼー)を米に繁殖させたもの。パンを膨らませるイースト(酵母)も、シイタケやシメジなどのキノコ類も「真菌」、つまりカビの仲間です。
ここからは、私たちの腸内にいる、キノコ以外の糸状菌(菌糸を伸ばして繁殖する真菌)と酵母(丸っこい単細胞の真菌)を「おなかのカビ」と呼ぶことにします。
・・・
私たちのおなかの中(腸内)には、さまざまな微生物が共生しています。細菌類が圧倒的に多いため、「腸内〝細菌〟叢(そう)」と呼ばれていますが、他にもカビやウイルス、場合によっては寄生虫など、細菌以外のさまざまな微生物も、腸内に入り込んでいます。
これらの微生物は、お互いに勢力争いをしながらバランスを取り、栄養素を作り出したり、共生菌でない新たな外敵の侵入を防いだり、免疫細胞(体の防御機構を担う細胞。白血球)を活性化させたりといった、役に立つ働きもしています。
おなかのカビの割合は、健康な人ならごくわずかで、通常は1%前後です。
代表的なカビは「カンジダ・アルビカンス」で、免疫力(体の防御機構)が下がったときに、口腔カンジダや膣カンジダとして発症することがありますが、普段は特に悪さをしない常在真菌です。
腸内細菌とのバランスがとれていれば、それ以上おなかのカビが増えることはありません。
しかし、何らかのきっかけで腸内の善玉菌が減少し、おなかのカビが増殖しやすい状態になってしまうと、体の不調や病気の発症につながります。
カビが異常増殖すると「甘いもの」がやめられなくなる
おなかのカビは、ツタが壁に張りつきながら増えるように、腸壁に増殖していきます。この際、自らが出した酵素(化学反応を促進する物質)で腸壁のたんぱく質を溶かし、根を食い込ませながら成長します。
カビの根に食い破られたり、カビの出す酵素で溶かされたりすることで、腸壁が炎症を起こして、腸のフィルター機能が低下します。
本来、腸で侵入を防ぐべき異物や未消化物が、腸をすり抜けてしまい、血液中に入ってくることでアレルギー反応を引き起こし、免疫力も低下します。これが、「リーキーガット症候群」(リーキーはもれる、ガットは腸という意味)です。
また、あらゆるものをエサにするカビですが、中でも大好物なのが「糖」です。
おなかのカビが増え過ぎると、エネルギーとなる糖質をおなかのカビに横取りされて、異常な低血糖を起こしやすくなります。すると低血糖の症状として、吐き気やめまい、倦怠感、頭痛、眠気、抑うつ感、動悸、息切れ、皮膚感覚の異常、消化不良などが起こります。
おなかのカビが強く糖を欲するために、まるで脳が乗っ取られたように甘いものがやめられなくなります。その結果、血糖値の急上昇と急降下をくり返して、血管にダメージを蓄積してしまう上、おなかのカビを増やす悪循環にハマるのです。
また、カビは糖を発酵させてアルコールを作りますが、おなかの中でこの反応が起これば、常に二日酔いのような状態が続くことになります。
他にも、細胞や酵素の原料となるたんぱく質を変性させるアラビノースなどの代謝物や、マイコトキシン(カビ毒)などの有害物質が作られやすくなることで、さまざまな部分で体の機能が低下してしまうのです。

おなかのカビが引き起こす悪循環