解説者のプロフィール

鳴海理恵(なるみ・りえ)
VE&BI治療院院長。鍼灸師。あん摩マッサージ師。成城大学文芸学部英文学科卒業。 「免疫力こそ人間が持つ本当の薬」これを生かす治療で、薬いらずの体づくりを目指す。著書『効く!爪もみ』(河出書房新社)発売中。
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本来の免疫力が発揮され病気を遠ざける
「爪もみ」は、手指の爪をもむセルフケア療法です。爪の生え際のやや下を、反対の手の親指と人さし指で両側からつまみ、「痛気持ちいい」くらいの力で押しもみします(やり方は下項)。
爪もみを考案したのは、私の父、故・福田稔(医師)です。父は新潟大学名誉教授の故・安保徹先生とともに、自律神経と免疫力の関わりを研究し、「福田‐安保理論」を確立しました。以下に簡単にご説明します。
私たちの体内では、自律神経という内臓や血管の働きを調整する神経が複雑に張り巡らされています。自律神経には、交感神経(主に日中の活動時に優位になる)と副交感神経(主に夜間などの休息時に優位になる)があって、両者がバランスを取り合って体の機能を調節します。
自律神経のバランスは、免疫にも深く関わっています。免疫に主要な役割を果たす白血球のうち、交感神経が優位だと「顆粒球」が増え、副交感神経が優位だと「リンパ球」が増えるという相関関係があるのです。
顆粒球とリンパ球は本来、適切な比率がありますが、自律神経のバランスがくずれた状態が続くと比率が乱れ、免疫がうまく働かなくなってしまいます。
爪もみは、自律神経のバランスを整え、免疫を正常化する効果があります。爪の生え際の下に「井穴(せいけつ)」と呼ばれるツボがあって、その付近は多くの末梢神経や血管が通っています。ここをもむことで自律神経に十分な刺激が伝わり、バランスの回復を図ることができるのです。
また、指先の毛細血管が刺激され、そこから全身の血流がよくなるので、手足がポカポカすると実感する人も多くいます。
自律神経が整い、全身の血流がよくなることで、体に備わる本来の免疫力が発揮され、病気や不調を遠ざけてくれます。
一例ですが、実際に効果があった人たちを紹介しましょう。
60代の女性Aさんは10年以上も高血圧で、降圧薬を飲み続けていました。上の血圧が200mmHgを超えたこともあったそうです(高血圧の基準値は上が140mmHg以上、下が90mmHg以上)。腰とひざの痛みにも悩んでいました。
Aさんが爪もみを始めたところ、次第に効果が現れ、血圧は上130mmHg、下75mmHg程度と基準値内で安定するようになり、ついに降圧薬の服用も止められました。腰やひざの痛みも軽快したそうです。
80代の男性Bさんは、夜間頻尿に悩んでいました。多いときは一晩に5回もトイレに起きていたといいます。爪もみを始めて1ヵ月ほどで、トイレに起きることが一晩に1回あるかないかまで減り、よく眠れるようになったそうです。
70代の女性Cさんは、不眠に悩んでいました。寝床に入って3~4時間も眠れず、結局、睡眠薬に頼り切るようになっていたといいます。
それではいけないと、爪もみを始めると同時に睡眠薬もきっぱりやめたそうです。1週間たつと、薬なしで自然に寝つけるように。朝まで目覚めることもなく快眠だといいます。
他にも、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患、リウマチなどの免疫異常が関わる病気にも、爪もみが有効だったとの声が寄せられています。
自律神経の振れ幅を適切に安定させる
ただし、地道に継続することが重要になります。自律神経のバランスは、常に揺れ動いているシーソーのようなものなので、どちらかに大きく傾くと不健康な状態になります。
しかし、それなら単に反対側に振ればいいかというとそうではありません。
例えば、アレルギー体質の人は副交感神経が優位過ぎる傾向が見られます。このような状態だと、本来は無害な物質にリンパ球が過剰反応し、症状を引き起こします。
現代医学では、アレルギーにステロイド剤などを用いますが、その作用で自律神経はあるべきバランスを一気に越えて、交感神経優位に振り切ってしまうことがあります。
その結果、アレルギー由来の病気だけでなく、他の不調が現れたり、いったんは症状が抑えられても、薬をやめると大きな反動が起こり、難治化したりします。
このように、交感神経と副交感神経の振れ幅が大き過ぎるのは、病気になりやすく、治りにくくもする、不健康な状態なので、振れ幅を適切な範囲で安定させることも大切なのです。
爪もみは自律神経のバランスをなだらかに整えますから、継続すると、この揺れ幅を適切にすることが可能になります。
自律神経が安定し、免疫力が高く保たれていれば、細菌やウイルスにも感染しにくくなります。そういう意味で、爪もみは病気を未然に防ぐ「万能ワクチン」といえるかもしれません。ぜひ実践してください。
爪もみのやり方
■親指からもみ始めるとスムーズにもめるが、決まった順番はない。やりやすい順番で構わない。
■痛気持ちいい程度の力加減を守ること。弱過ぎると効果が出ない。傷や痛みがある指は、もむのを控えてもOK。
■全ての指を20秒以上もんでも構わない。
■足の爪の生え際も同様にもんでもよい。
【刺激する位置】
爪の生え際から、2mmほど指の付け根側に下がったところを刺激。

【NG】
間違った位置をもんでも効果が見込めないので要注意!
× 爪そのものをもむ

× 指の先をもむ

【もみ方】
❶親指から小指までを順番にもむ
親指から小指までを順番に、もまれる指と反対側の手の人さし指と親指で両側からつまんで痛気持ちいい力加減で押しもむ。ギュッギュッとつまむイメージでもむとやりやすい。各指10秒ずつ。終わったら、反対側の指も同様に行う。

❷最もつらい症状に対応する指を20秒もむ
①が終わったら、下記の爪もみ治療マップの症状に対応する指を左右20秒ずつ追加でもむ。気になる症状がない方は、①だけでもよい。1日3回を目安に毎日続ける。

【爪もみ治療マップ】


この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp