解説者のプロフィール

工藤孝文(くどう・たかふみ)
工藤内科漢方医。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。帰国後、大学病院や地域の基幹病院を経て、福岡県みやま市の工藤内科にて、糖尿病内科・ダイエット外来、漢方治療を専門に地域診療を行っている。
▼工藤内科(公式サイト)
NOが発生し血管が広がって血圧が降下
今、医学界では「一酸化窒素(NO)」に注目が集まっています。
NOは排気ガスなどに含まれ、大気汚染の原因物質としても知られていますから、イメージがよくないかもしれません。ですが、実はNOは私たちの血管内でも作られていて、重要な役割を果たしているのです。
血管の内壁の細胞には「カベオラ」と呼ばれるくぼみがあって、そこに刺激が伝わると、NOが発生します。発生したNOは、血管にある平滑筋という筋肉を弛緩させます。
すると血管が広がり、血流がよくなって血圧が下がるのです。
さらに、血液を固まりにくくして血栓(血液の塊)ができるのを防いだり、血管を老化させる活性酸素を除去したりする作用もあります。つまりNOは、しなやかで柔らかい血管を維持してくれるわけです。
こうしたNOの持つ作用は、すでにさまざまな治療にも応用されています。例えば、高血圧、狭心症、男性の勃起不全、脱毛などの治療には、NOの発生を高める働きを持つ薬が使われています。
新生児の肺高血圧(肺の発育が悪く、肺の血圧が上がってしまう病気)などで、NOを直接吸入することがあります。
NOは血管を広げて肺の血流をよくすることに加え、ウイルスの活動抑制作用もあるため、新型コロナウイルス感染症の治療に応用できないかという研究も進められています。
こうした素晴らしい効果を持つNOですが、実はごく簡単な動作で産生を増やすことができます。それが、ここで紹介する「リズムニギニギ」です(やり方は下記参照)。
手をグッと握った後、力をゆるめて手を開く……。それをリズミカルにくり返すだけです。
手を握ったときは腕の筋肉が収縮して、一時的に血管が狭くなります。そして、手を開くと血管が開放され、血液がドッと流れます。このように血液が速く流れるときに、前述したカベオラが刺激されて、NOの産生が増えるのです。
ポイントは動作をリズミカルに行うことにあります。「握って、開いて」を1秒間に1回くらいのペースで、片手につき60秒ずつ行います。
力の入れ具合は強過ぎず、弱過ぎずの、ほどよい加減を意識してください。前腕(ひじから先の部分)の筋肉が動いていればOKです。
むしろ、あまり強く力を入れてギューと握ったり、回数を多くやり過ぎたりすると、逆に血圧が上がってしまうことがあるので、気をつけてください。
リズムニギニギは1日に1~2回、行うとよいでしょう。
多くの場合、やった直後から血圧の降下作用が見られます。最初のうちはその効果も一時的ですが、毎日継続していれば、長期的に血圧が下がって安定する効果も期待できます。
※姿勢は自由。
※起きてすぐなど、血圧が高いときに行うのは避ける。
※必ず片手ずつ行う。両手同時に行うのはNG。
※息を止めて行うと血圧が上がることがあるので、自然に呼吸しながら行う。

❶どちらか片手を、1秒に1回のペースで握っては開く。無理をせずに60秒間続けられる程度の力で、握り開きをくり返す。
❷反対の手で同じように60秒間、握り開きをくり返し行う。以上を1セットとして、1日に1~2セット行う。
ウォーキングしながら行うのも有効
応用として、歩きながら手をニギニギしてもいいでしょう。
ウォーキングなどの有酸素運動が、血圧を下げるのに有効であることは証明されています。
ただ、運動習慣のなかった人や肥満の人がいきなり強めのウォーキングをすると、かえって血圧が上がり、ときに心筋梗塞などを引き起こす恐れがあります。
一方、無理のないペースで歩きながら、手をニギニギすると、運動による急な血圧上昇を防ぐことができます。
リズムニギニギは、脳や心の調子の回復にも効果が期待できます。昨年から続くコロナ禍で、多くの人が強いストレスを感じながら生活しています。
生活様式の変化によって、運動不足や不摂生になった人も増えているでしょう。それと無関係とは思えないのですが、最近、「高血圧」「気分の不調」「物忘れ」に悩む患者さんが増えていると感じます。
また、リズミカルな運動は、脳内のセロトニン(神経伝達物質の一種)を増やす働きがあるといわれています。
セロトニンの機能が低下すると、不安が増したり、イライラしやすくなったりすることが知られています。
リズムニギニギを行うことで、セロトニンも増えるので、心を落ち着けるのにも役立つはずです。

この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。
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