近年、慢性痛の多くに「脳の誤作動」が関与していると判明しています。「ギックリ腰になり、つらかった」などの過去の記憶や、未来への不安が大きくなり過ぎると、脳が誤作動を起こし始めるのです。「手」を刺激することは、脳や神経の興奮状態を鎮め、誤作動を止めさせるための有効な方法なのです。【解説】長田夏哉(田園調布長田整形外科院長)

解説者のプロフィール

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長田夏哉(おさだ・なつや)

田園調布長田整形外科院長。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定スポーツ医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本スポーツビジョン協会理事長。1969年山梨県生まれ。日本医科大学卒業後、慶應義塾大学整形外科教室に入局。2019年に開院。現代医学に基づいた治療の他、「中指回し」「頭のもみほぐし」などのセルフケアも指導している。著書『中指を回すとすべての痛みが消える』、監修『自己肯定感が高まる音楽CDブック』(ともにマキノ出版)など多数。
▼田園調布長田整形外科(公式サイト)

手を使うと脳の大部分を刺激できる

「手」を活発に動かしたり、押したりして刺激することは、全身の健康維持に非常に役立ちます。
 
私は、全身の健康には手の刺激が役立つと考えています。なぜ、手から全身に効果が及ぶのか? その理由として、次の2つが挙げられます。

まず第一に、「手には臓器や器官、手足や腰などの全身の状態が反映されている」という点です。

東洋医学は、古くから体のある部位と全身には相関関係があると考えています。これを「部分即全体」といいます。

体のどこかに不調や病気があるとき、対応している手のエリアを刺激することで、さまざまな不調を改善できます。逆に、手のどこかに痛みや違和感があれば、対応するところからのSOSのサインだと捉えることも可能なのです。

ですから、普段から手の状態に注意を向けていると、自覚していない不調箇所のサインにも気付きやすくなるはずです。

第二に「手を介して脳や神経によい刺激を与えられる」という点です。

手の動きや感覚は、脳における運動野(体の運動をつかさどる領域)の約3分の1、体性感覚野(皮膚感覚などをつかさどる領域)の約4分の1と、広い範囲を占めます。

つまり、手を使うということは、脳の多くの範囲を刺激するということなのです。

人間の皮膚は、他の動物とは違って大部分が体毛に覆われておらず、むき出しです。特に、手の皮膚感覚(触覚)は鋭敏なセンサーの働きもしており、人間にしかない器用さの秘訣にもなっています。このことが、脳の発達に影響した可能性があるのです。

軟体動物のタコに関して、興味深い研究報告があります。タコは8本の手足に発達した神経系を持ち、複雑な触覚情報を脳に伝え、記憶・学習ができるとわかったのです。

タコも全身、粘膜状の皮膚がむき出しですが、哺乳類並みの大きな脳を持ち、8本の手足で器用に瓶のふたを開けることもできます。

つまり、優れた皮膚感覚を持ち、器用に動く手足を制御するために脳が発達したのではないか、ということなのです。

そのような「手」を刺激すると、脳には何が起こるでしょうか?

脳や神経の興奮状態を鎮め誤作動を食い止める

近年、しつこい慢性痛の多くに「脳の誤作動」が関与していると判明しています。

痛みは体の異常を知らせる危険信号ですが、脳には痛みを抑えるしくみ(下行性疼痛抑制系)があります。

しかし、不安や恐怖、極度の緊張など、ネガティブな感情を抱くストレスに長期間さらされると、このしくみが働きにくくなるのです。

例えば、ギックリ腰になり、痛みが出たとします。これは、異常を伝えるために体が発した危険信号を、まさに「今」感じている状態です。

ですが、「前もギックリ腰になり、つらかった」とか「何日も仕事ができなくなったらどうしよう?」と、過去の記憶や未来への不安が大きくなり過ぎると、脳が誤作動を起こし始めるのです。

痛み信号に対するブレーキがうまく働かず、痛みの元になった炎症などが治っても、脳が「まだ痛い」と勘違いし続けてしまいます。

治りにくい慢性痛の多くは、このように脳が関与していると考えられています。現代医学でも、痛んでいる部分だけ見るのではなく、痛みを感じ取る脳の働きも含めた治療が行われるようになってきています。

「手」を刺激することは、脳や神経の興奮状態を鎮め、誤作動を止めさせるための有効な方法なのです。

下項で紹介する「中指回し」は、整形外科医の私が患者さんに勧めているセルフケアです。

中指回しは、足腰のこりや痛みだけでなく、頭痛や胃腸など内臓系の痛みにも効果を発揮します。さらには高血圧や不眠などにも有効で、幅広い効果を発揮しています。

その効果について、さらに詳しく紹介していきましょう。

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