サバの加工後に残る内臓を有効利用する研究の中、内臓脂肪の塊に高濃度のDHAやEPAが含まれることを発見したのです。内臓脂肪塊は冬場にしか見られません。つまり、製造年月日が冬期なら、DHA・EPAが豊富な冬のサバが使われています。【解説】鈴木英勝(石巻専修大学理工学部食環境学科准教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

鈴木英勝(すずき・ひでかつ)

石巻専修大学理工学部食環境学科准教授。1970年宮城県生まれ。1998年石巻専修大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。同大助手、助教を経て現職。2003年日本南極地域観測隊メンバーとして南極に派遣。2013~2014年、ニュージーランドのオタゴ大学で訪問研究者として海洋生物や寄生虫の研究を行う。現在は水産加工食品を作る過程で出る廃棄物を有効利用する研究・活動を行う。

廃棄される内臓脂肪塊はDHA・EPAの宝庫

港町である宮城県石巻市には、数多くの水産加工場があり、水揚げされたばかりの新鮮な魚が、缶詰や総菜などに加工されています。サバ缶も、そういった特産品の一つです。

これらの水産加工場では、加工の過程で出る残り物の処分が、長年の課題となっていました。サバ缶を例にとると、製品になるのは身や皮のみ。その他の部位には使い道がなく、廃棄するしかありませんでした。

しかし、その処分には時間もお金もかかります。これは非常にもったいないということで、残り物を有効利用する取り組みが、近年進められています。

このような取り組みの発端となったのが、今では石巻の特産品となった「サバだしラーメン」の開発。サバだしラーメンとは、加工後に残るサバの頭や骨に付いた身でだしをとった魚介スープと、サバの骨を練り込んだ麺で作る、文字通り「サバ尽くし」のラーメンです。

このような、サバを使った商品の開発は、2011年にスタート。東日本大震災復興支援の一環として、当時の本学経営学部教授だった石原慎士先生(現在は宮城学院女子大学教授)に話を持ちかけられたことがきっかけでした。

このとき私が担当したのは、サバの骨を中華麺に練り込むための粉の製造と、その麺の化学・物理分析です。

これにより、サバの骨を有効活用できるようになっただけでなく、日本人の何割かが中華麺を食べると下痢をするといわれる要因の「かん水」を減らせました。さらに、麺に弾力をつけることにも成功したのです。

サバだしラーメンの開発を通して、加工後に残るサバの頭や骨などの利用方法は見つかりました。しかし、内臓に関しては、この段階では、利用法が見つかりませんでした。

内臓を有効利用する研究の発端となったのは、共同研究者の石原先生が、冬期にサバの加工場を見学した際、加工後に出る内臓に白く大きな塊を見つけたことです。

この化学分析を依頼されて調査した結果、体内の余剰な脂肪を蓄積した内臓脂肪の塊(以下内臓脂肪塊)だとわかりました。そして、その塊に高濃度のDHAやEPAが含まれることを発見したのです。

さらに分析したところ、内臓脂肪塊100g中に、10.7gのDHAと、7.4gのEPAが含まれていました。これは、2010年~2013年に青森県八戸漁港で水揚げされた、マサバの可食部の最大DHA・EPA濃度より高い数値です。

画像: 八戸港水揚げマサバ(最大値)DHAの量とEPAの量は[地方独立行政法人青森県産業技術センター食品総合研究所研究報告(2010-2013)]

八戸港水揚げマサバ(最大値)DHAの量とEPAの量は[地方独立行政法人青森県産業技術センター食品総合研究所研究報告(2010-2013)]

内臓脂肪塊の約2割がDHA・EPAという点からも、濃度の高さがわかります。実際、日本で一番売れているDHA・EPAサプリメント濃度に匹敵する数値で、鮮魚のサバや缶詰よりはるかに高いものでした。

この内臓脂肪塊内のDHA・EPAの抽出方法は特許取得済み(※特許第6341563号)で、今は製品化できるよう研究を進めています。

工夫している点は、抽出方法に遠心分離機(回転させて遠心力を加えることで重さが異なる物質を分離する機械)を使用すること。遠心分離機が1台あれば、中小企業でも内臓脂肪塊のDHA・EPAを抽出し、製品を作れるようになります。

冬に製造されたサバ缶を買うとよい

残念ながら、内臓脂肪塊に含まれる高濃度のDHA・EPAをとれる商品は、現時点では製品化されていません。

では、皆さんがサバのDHA・EPAを多くとるには、どうしたらいいのでしょうか? そのヒントは、サバ缶にあると考えています。

そこで、多くのDHA・EPAをとれるサバ缶選びのポイントを二つご紹介します。

製造年月日を確認する

実は、前述した白い内臓脂肪塊は冬場にしか見られません。これは、寒い時期、脂ののったサバにDHA・EPAが豊富に含まれることを示しています。

ですから、サバ缶を購入するときは製造年月日に注目するといいでしょう。サバは、水揚げしてすぐ缶詰に加工されるので、製造年月日と水揚げ日はほぼ同じです。

つまり、製造年月日が冬期なら、DHA・EPAが豊富な冬のサバが使われています。

水揚げ地が北のものを選ぶ

サバは回遊しながら成長し、冬期にエサが豊富な親潮水域を北上します。そして、その水域で栄養をたっぷりとり、脂肪をつけます。同じ製造年月日で東北・北海道産と九州産のサバ缶があれば、北方である前者を選ぶといいでしょう。

私は現在、サバの内臓脂肪塊から取り出したDHA・EPAに酸化を防ぐ処理をした上で、粉末化する研究に着手しています。処理をすれば腸でDHA・EPAが吸収されやすくなりますし、スイーツなどの食品への活用も容易となるはずです。

今後の展開を楽しみにしていてください。

画像: この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年7月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.