解説者のプロフィール

本間大介(ほんま・だいすけ)
新潟万代病院理学療法士、新潟大学大学院客員研究員。認定理学療法士(運動器)、医学博士。2012年、新潟医療福祉大学理学療法学科卒業。変形性股関節症の研究に取り組み、日本理学療法学術大会での発表や論文掲載など多数。ほか、NPO法人のぞみ会(変形性股関節症の会)やたんぽぽの会(変形性股関節症患者の会)の交流会の講師も務める。
▼新潟万代病院(公式サイト)
重心移動がスムーズになり正しい姿勢で歩ける
変形性股関節症の患者さんには、歩くと股関節に痛みを生じるかたが多くいます。歩く機会が減ると、股関節周りの筋肉や足腰の筋肉が衰えて身体機能障害が悪化し、さらに痛みが生じ、歩行能力が低下します。
この負のサイクルを断ち切り、股関節に変形や痛みがあっても快適に歩ける手段として、私は「ノルディックウォーキング」に注目しています。
私は大学時代、指導教官とともに、変形性股関節症の患者さんたちに、ノルディックウォーキングを試してもらう機会を得ました。そのとき、「痛みが出ず、ふだんより長い距離を楽に歩けた」との感想が多く聞かれ、変形性股関節症に対するノルディックウォーキングの効果を研究することにしたのです。
ノルディックウォーキングの歩き方は、大きく分けて「ヨーロピアンスタイル」と「ジャパニーズスタイル」(以下、ポールウォーキング)の2種類があります。
ヨーロピアンスタイルは、クロスカントリースキーのようにポールを後方に突いて、体を前に押し出すようにして歩きます。運動強度が強く、スポーツ向けの歩き方です。
一方、ポールウォーキングは杖を使って歩くときと同様に、ポールを前方に突いて歩きます。足腰の負担を減らしながら安全に歩けるため、中高年や運動経験の少ない人の健康増進に適した歩き方です。やり方は下項をご参照ください。
私たちは、変形性股関節症の人がポールウォーキングをしたときの歩行の変化を詳しく調べました。
その結果、中殿筋などの股関節の外側にある股関節外転筋群(股関節を外側に開くために働く筋肉)の筋活動量が減少し、歩行中の体幹や骨盤の揺れを抑えることがわかりました。

これらの変化が、変形性股関節症の痛みや歩く姿(歩容)の改善にプラスに働くと考えました。
変形性股関節症の人は、立ったり歩いたりすると関節の変形部分に圧がかかり、痛みが生じます。ポールを使って歩くと、股関節外転筋群の活動量が減り、筋肉の収縮によって股関節にかかる圧が減少し、痛みの軽減につながると考えられます。
また、変形性股関節症が進むと、上半身を左右に揺らすような歩き方になります。ポールを突いて歩くことで歩行中の重心移動がスムーズになり、体幹や骨盤の揺れが抑えられ、正しい姿勢で歩けます。
ポールウォーキングで痛みをコントロールし、長い距離を楽しく歩けるようになると、活動量や運動量が増え、精神的にも明るく前向きになれます。股関節が痛む人や、手術の回復期を過ぎて、これから歩き方を変えて活動的に過ごしたいという人などに、特にお勧めです。
ポールウォーキングは普通の歩行と比べ、手や腕、体幹の筋肉を使い、運動強度が高くなります。自分の体力や症状に応じて、無理のない範囲で歩くことがたいせつです。
日常的に歩く習慣のある人は、まずはふだん歩いている程度の距離をポールを使って歩き、疲れぐあいを見ながら調整してください。運動習慣のない人は、特に無理は禁物です。
最初は短い距離を歩き、快適だと感じられる範囲で徐々に体を慣らして、少しずつ歩く距離を延ばしていきましょう。足や腰に痛みが出たら、翌日は休むことも必要です。
ポールウォーキングは、股関節痛のある人がよい歩き方で元気に歩ける喜びを取り戻し、自分らしく活動的に過ごすために大いに役立つと感じています。ぜひ試してください。
ポールウォーキングのやり方
ポールの長さの決め方
•普通の杖より少し長め
•身長(cm)×0.63が目安

ポールを持って床に突いたとき、ひじが直角になるように長さを調節する。
※歩き方や体形などによって、最適な長さは異なる。
歩き方

ポールの突き方
ポールの先端を、前へ踏み出した足(ポールと反対側)の土踏まずからつま先の間の横、かつ体のやや外側に、垂直に突く。

ポールを用意できないときのセルフケア
なおポールウォーキングのポールは、杖では代用できません。専用のポールで、おのずと背骨や腰がまっすぐ伸びた起立姿勢が取れるのです。
そこで最後に、ポールを用意できない人のために、同様のメリットが得られるセルフケアをご紹介します。
・まず、テーブルや壁に両手をつき、股関節が痛むほうの足を一歩後ろに引きます。
・そして、お尻を前に突き出すようにして後ろの足のつけ根を伸ばします。
・呼吸は止めないで、そのまま30秒キープ。
これを1日3回を目安に行いましょう。

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
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