解説者のプロフィール

新盛淳司(しんもり・じゅんじ)
芝浦田町スポーツ整骨院・はり治療院代表。鍼灸師、柔道整復師、関節ニュートラル整体普及協会会員。30歳まで金融機関に勤めるが、自分はこれができるという「プロ」になろうと脱サラ。アスリートや、痛みで苦しんでいる人の役に立てる人間になりたいと治療の道に進む。サッカー元日本代表である中村俊輔選手をセルティック時代から支える。
▼芝浦田町スポーツ整骨院・はり治療院
診断されない変形初期は「4の字テスト」でチェック
私はサッカー元日本代表の中村俊輔選手専属トレーナーや、社会人サッカークラブのチーフトレーナーなどを務めるとともに、治療院で体の痛みやしびれなどの治療を行っています。特に、股関節痛の患者さんを減らすことをライフワークにしており、ブログやYouTubeなどで広く情報発信しています。
股関節痛の主な原因として挙げられるのが「変形性股関節症」です。歩くと股関節が痛い、風呂掃除のときなどに股関節を深く曲げると痛い、靴下をはく、足の爪を切るときに股関節が痛いなどの症状を訴える人が多くいます。
しかし、痛みがあっても、整形外科で変形性股関節症と診断されないことがあります。これは変形の初期段階だと考えられます。放置すると変形が進み、痛みが増すおそれがあります。

実は、このような状態を自分でチェックできる方法があります。それが「4の字テスト」です。
このテストは、股関節の可動域を確認できます。左右で足の開きぐあいに差があるときは、大腿骨頭が寛骨臼で詰まっている状態だとわかります。
このような人は、40代以降、特に女性に多い傾向があります。実際、私の治療院にはそのような患者さんが多いですし、変形性股関節症の9割が中高年の女性といわれています。
また、腰痛がある人も股関節の変形を伴っているケースがよく見られます。腰痛の治療目的で来院される人に、4の字テストを行うと、左右の可動域に差があることが多いのです。股関節が悪くなり、腰痛を抱える人も少なくないと思います。
4の字テストのやり方
❶あおむけになり、左足を伸ばす。右足は、かかとを左足のひざ付近に引っかけてひざを立てる。

❷右足をできるところまで外側へ倒す。

❸左右の足を入れ替えて同様に①~②を行い、足の開きぐあいに左右差があるか確認する。

※足の開きぐあいに左右差がある場合は、変形性股関節症と診断されなくても、変形の初期段階が疑われる。
※下項の「両足ひらひら」を行うと、足を倒しやすくなる。両足ひらひらの前後に行い、確認するとよい。
股関節の可動域を広げ変形の進行を防ぐ
私は、変形性股関節症の人はもちろんのこと、変形性股関節症と診断されない初期段階の人の予防や治療は、特に大事だと考えています。治療院では、変形を進行させない治療と並行してエクササイズの指導も行っています。その代表的なものが「両足ひらひら」です(やり方は下項参照)。
両足ひらひらは、股関節の可動域を広げるとともに、変性の進行を防ぎます。重要なのは継続すること。1ヵ月ほど続けると、痛みも改善するでしょう。
すでに変形性股関節症と診断されている人にも効果がありますし、手術をしたけれど痛みが残っている、違和感が取れないなどの場合も、両足ひらひらの継続で改善が期待できます。
ポイントは、実施前後に4の字テストを行うこと。股関節の可動域の広がりを、すぐに体感できます。前述のとおり、両足ひらひらは継続がたいせつ。効果を実感できると、モチベーションが上がり、「続けよう」という気持ちになります。
両足ひらひらの注意点は、手順⑤で足を広げるときに、お尻を浮かさないこと。腰に負担が大きくかかります。
そして、起床後1時間は筋肉がかたいので行わないことです。椎間板(椎骨と椎骨の間にある、クッションの役割をする部分)に水がたまっている状態で、大きな負担がかかります。
1日1セット行えば十分です。アスリートにも1セットで止めるように指導しています。
両足ひらひらのやり方
※実施する前後に4の字テストで股関節の可動域を確認する。変化がないときは、もう一度行う。途中で痛みが出たら中断する。
※①~⑧を1セットとして、1日1セット行う。
※起床後すぐを除けばいつ行ってもよい。お勧めは入浴後。
※輪にしたゴムバンドを足に引っかけて行うと効果アップ。ゴムの抵抗に無理に逆らわず、軽い抵抗を感じる程度まで足を外側に倒す。
❶足を閉じたままうつぶせになり、両ひざを90度に曲げる。

❷両ひざを曲げたまま、両足をできるところまで外側に倒して、戻す。これを5回行う。

❸①の姿勢から腕を伸ばして手を着き、両ひざは曲げたまま上半身を起こす。

❹②と同様に、両足を外側に倒して戻す。5回行う。

❺①の姿勢に戻り、足を30度に開く。このとき、お尻を浮かさない。

❻②と同様に、両足を外側に倒して戻す。5回行う。

❼⑤の姿勢から腕を伸ばして手を着き、両ひざは曲げたまま上半身を起こす。

❽②と同様に、両足を外側に倒して戻す。5回行う。

股関節痛には、生活様式も関係しています。
日常生活で股関節の圧迫が続くと、両足ひらひらをいくら行っても効果は望めません。長時間座るときは、イスの座面を高くするか、クッションや厚めでやわらかい座布団を敷いて、お尻がひざより高くなるようにしてください。
股関節に痛みがない人でも、4の字テストで左右差があったら、ぜひ両足ひらひらを行ってください。変形が進んで痛みが生じ、外出ができなくなると、楽しみが大きくそがれます。生活の質も低下し、心身にさまざまな不調が現れかねません。
私の患者さんのなかに、ひどい変形性股関節症で手術といわれても、治療やエクササイズで改善した人がいます。股関節痛に悩んでいる人は、両足ひらひらなど、できることを行い、あきらめないでください。継続すれば改善が見込めるでしょう。

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
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