解説者のプロフィール

羽原和則(はばら・かずのり)
フィジカルプロ治療院代表。理学療法士。グランプロクリニック銀座勤務。1986年国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院入学。卒業後、大阪労災病院と国立大阪病院に勤務。その後、スポーツ選手の治療やトレーニングを行うスタジオを開設。2018年法円坂訪問看護ステーション相談役就任。著書に『痛みの9割がたちまち消える10秒関節リセット』(SBクリエイティブ)がある。▼フィジカルプロ治療院(公式サイト)
関節の痛みの原因は別の場所にあることが多い
私は理学療法士で、肩や腰、ひざなど関節の痛みを軽減するための、リハビリや治療手技を30年以上にわたり研究してきました。体操や陸上競技のオリンピック選手、プロ野球選手、プロゴルファー、大相撲力士など、体の故障や痛みに悩むトップアスリートの治療も数多く手がけています。
関節にはそれぞれ「正しい通り道」があります。
関節は、骨の先端が丸くなった「はめる部分」と、その骨がはまる「受ける部分」の骨で構成されています。両者がきちんとかみ合えば、正しい通り道で力が伝わり関節がスムーズに動きます。
ところが、かみ合わせにズレが生じると、本来はスルスルと動くはずの関節に引っかかりが生じ、痛みや動きづらさの原因になるのです。
関節は、常に動き続けることで関節の動きを滑らかにする潤滑液が分泌されます。痛みがあり関節を動かさないでいると、潤滑液の分泌が悪くなり、動きが重くなってますますかたくなります。
やっかいなことに、関節の痛みは、痛みが出ている場所と、大元の原因となる場所が一致しないことがほとんどです。関節の痛みは、関節や骨の表面を覆う骨膜を伝って、体の別の場所に現れることが多いのです。
全身の関節のなかでも、特に体重などの負荷がかかりやすい関節、動きが繊細な関節、よく使う(動かす)関節は、ズレが生じやすく、離れた場所の関節にも影響を及ぼし、痛みの大元の原因となりがちです。
その代表格が、「腰仙(ようせん)関節」です。
腰仙関節は、背骨のいちばん下の第5腰椎と、骨盤の中央にある仙骨をつないでいる、上半身の重みを受け止め、小さいけれどさまざまな方向に動く関節です。
その腰仙関節がわずか数ミリずれただけで、体の至るところに痛みが生じるのです。
私は、肩や腰、ひざ、足首など、体のどの部分の関節の痛みを治療するときにも、必ず最初に腰仙関節をチェックします。腰仙関節の調整を行うだけで、その場で体のほかの部分の痛みが解消することがよくあります。
もちろん、股関節痛も例外ではありません。股関節痛は捻挫など炎症による急性のものと、慢性的な痛みとに大別されます。炎症の痛みは約1ヵ月半で治まりますが、その後も痛みが続く場合や、慢性的な痛みがある場合は、腰仙関節のズレが影響しているケースが多いのです。
術後のリハビリや違和感の解消にも効果的
今回は、腰仙関節の動きを確認するチェック方法と、自宅で寝ながら簡単に腰仙関節のズレをリセットするセルフケア法を紹介します。
まずは、腰仙関節のズレをチェックしてみましょう。やり方は下記をご参照ください。
腰仙関節のズレをチェック
❶あおむけになり、両足をまっすぐ伸ばす。

❷右足をできるところまでゆっくり上げて、下ろす。左足も同様に行い、上がりぐあいに左右差がないか、痛みや違和感がないか確認する。

❸右ひざを立てて外側と内側にできるところまで倒す。左足も同様に行い、開きぐあいに左右差がないか、痛みや違和感がないか確認する。

※②、③のいずれかで左右差や痛み、違和感があった場合、腰仙関節のズレが疑われる。
このチェックで左右差や痛み、違和感がある場合は、次項の「腰仙関節リセット」を行いましょう。
腰仙関節リセットは、骨盤を前後に傾ける、骨盤を左右に引き上げる、骨盤を左右に回転させる動きが組み込まれています。これら6方向の動きを行うことで、腰仙関節をズレのないニュートラルな状態に戻します。
痛みがある部位に熱感や腫れがあったり、痛みが急性のものだったりするときは、行わないでください。
それ以外なら、どんな人が行ってもOK。ただし、がんばってやり過ぎないことがポイントです。
回数は、無理のない範囲ならば1日に何度行ってもかまいません。ただし、一度に行うそれぞれの動きは、決められた回数を守ってください。
痛みを感じるほど多くやらないこともたいせつです。いわゆる「痛気持ちいい」もNGです。
腰仙関節リセットの目的は、日常生活の姿勢や動作のクセによってズレが生じやすい腰仙関節を整えること。ですから、回数は少なくても、毎日コツコツと続けることがたいせつです。
寝た姿勢でできるので、朝起きたときや夜寝る前に寝床の上で行うのがお勧めです。また、実践したあとは、腰仙関節のズレをチェックし、違いを比べてみるといいでしょう。
腰仙関節リセットは、慢性的な股関節の痛みの軽減や、股関節の可動域(動かせる範囲)を広げる効果があり、股関節痛の予防にも役立ちます。
股関節の痛みで筋トレやウオーキングなどの運動療法ができない人は、まずは腰仙関節リセットをして、痛みが軽くなってから、ほかの運動を行いましょう。
股関節手術後のリハビリや、術後の違和感の解消にも、腰仙関節リセットは効果的です。股関節の動きを補うのは骨盤なので、股関節の悪い人や人工股関節を入れた人は、骨盤にも大きなストレスがかかっています。
腰仙関節リセットを習慣にして、股関節の「正しい通り道」を常に保つことがたいせつです。
腰仙関節リセットのやり方
3種類の動きを10秒ずつ行います。合計でたった30秒なので、無理のない範囲で毎日続けてください。
※いつ、何度行ってもかまわないが、痛みを感じるほど行わない(痛気持ちいいも不可)。途中で痛みが出たら中断する。
※痛みの予防、もしくは熱感や腫れがなく明らかな慢性痛とわかっている場合のみ行う。
【10秒】骨盤を前後に動かして関節を調整
❶あおむけになり、両ひざをそろえて立てる。

❷おなかを引っ込めながらお尻をできるだけ上げ、ゆっくりと戻す。両腕を胸付近でクロスしながら行うとやりやすい。

❸背中を浮かせて、ゆっくりと戻す。両腕を胸付近でクロスしながら行うとやりやすい。②~③をさらに2回くり返す。

【10秒】骨盤の左右を引き上げて関節を調整
❹両ひざを立てたまま、両手を骨盤の上に添える。右側の骨盤を頭のほうへ引き上げるように動かす。同様に左側を動かす。これをさらに2回くり返す。

【10秒】骨盤の左右に回転させて関節を調整します
❺立てた両ひざをそろえたまま、右へ30度傾けて戻す。両腕を胸付近でクロスしながら行うとやりやすい。

❻同様に、両ひざを左へ30度傾けて戻す。⑤~⑥をさらに2回くり返す。


この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp