変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減って痛みや炎症が起こったり、股関節自体が変形したりする病気です。原因はさまざまですが、悪化を防ぐための対策は、ある程度共通しており、運動療法や生活改善に取り組むことで、その発症や進行を抑えることも可能です。【解説】野沢雅彦(順天堂大学名誉教授・順天堂大学医学部附属練馬病院整形外科特任教授 )

解説者のプロフィール

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野沢雅彦(のざわ・まさひこ)

順天堂大学名誉教授、順天堂大学医学部附属練馬病院整形外科特任教授。医学博士。1978年弘前大学医学部卒業。2001年順天堂大学医学部整形外科学助教授、06年同臨床教授、13年同教授を経て現在に至る。日本整形外科学会の代議員や、日本股関節学会の評議員などを歴任。

女性に圧倒的に多い遺伝的要因が引き金

左右の太もものつけ根にある股関節は、球関節で動きがよく胴体と下肢(脚)をつなぐ、非常に重要な役割を持つ部分です。骨盤の下部にある寛骨臼(臼蓋)というくぼみに、大腿骨頭(いずれも左図参照)が、すっぽりとはまりこむ構造をしています。

寛骨臼と大腿骨頭は、それぞれクッションのような弾力性のある軟骨(関節軟骨)で覆われています。この関節軟骨が潤滑油の働きをして、股関節は前後左右あらゆる方向になめらかに動くことができます。

股関節は、立つ、座る、かがむ、歩く、走る、跳ぶなど、日常生活のあらゆる動作の「要」となっています。そのため、股関節にトラブルが起こると、動作が制限されたり、痛みが生じたりして、生活の質が著しく低下します。

股関節の痛みに悩む人は、子供から高齢のかたまでたくさんいらっしゃいます。

原因は、「大腿骨頭壊死症」(血行障害などに伴い、大腿骨頭の先端の丸い部分が陥没し、股関節の機能に障害が起こる病気)や「関節リウマチ」など、さまざまありますが、中高年以上の股関節痛で最も多いのが、「変形性股関節症」です。

画像: 女性に圧倒的に多い遺伝的要因が引き金

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減って痛みや炎症が起こったり、股関節自体が変形したりする病気です。

進行すると、股関節の可動域(動く範囲)が狭くなり、慢性的な痛みが続き、歩くのもつらくなっていきます。股関節の変形が進むと姿勢のバランスが悪くなり、足腰への負担も増大し、腰痛やひざ痛を併発することもあります。

日本人の場合、変形性股関節症の約7〜8割は、「寛骨臼形成不全」という遺伝的な要因が引き金になっています。

これは、股関節の受け側である寛骨臼の発育が不十分なため、関節面が狭く、大腿骨頭を十分に覆うことができない状態です。関節のはまりが浅いために股関節に負担がかかって軟骨がすり減り、変形が進みやすくなるのです。

寛骨臼形成不全は、圧倒的に女性に多く見られます。若いうちは症状が出ないことが多いのですが、長年の摩擦で軟骨が消耗し、加齢に伴う筋肉や骨の衰えも相まって、痛みなどの症状が現れます。先天性の股関節脱臼や亜脱臼も寛骨臼形成不全を伴っています。

一方、女性よりも男性に多いのが、「ペルテス病」です。これは小児期に発症する股関節の病気で、なんらかの原因で大腿骨の血行障害が起こり、大腿骨頭が壊死する病気です。

壊死した部分は吸収されて新しい骨が形成されますが、壊死の範囲や骨頭のつぶれ具合によっては、股関節に障害が現れます。

そのほか最近、若い人に増えているのが、「FAI(股関節インピンジメント)」と呼ばれる病態です。これは、股関節を深く曲げたときに骨盤と大腿骨が衝突し、それをくり返すことによって関節組織を傷つけてしまい、股関節の痛みや変形を招きます。

股関節に負担をかけずに体を動かすことが大事

このように、股関節の痛みや変形につながる原因はさまざまですが、悪化を防ぐための対策は、ある程度共通しています。

生活面でまず気をつけたいのが、股関節に過度な負担や衝撃を加えるような動作を避けることです。

股関節痛は、動作を始めるときや、立ち上がったりしゃがんだりするときに、特に痛みが強く出ます。床に布団を敷いて寝る、畳に座る、和式トイレを使うといった和式の生活よりも、イスやベッドなどを使う洋式の生活スタイルのほうが、股関節に負担をかけずにすみます。

重い荷物を持ったり、やわらかいソファや低いイスに深く腰かけたりすると、股関節に大きな負荷がかかります。痛みも出やすくなるので、要注意です。

あぐらは、股関節にあまり悪い影響はありませんが、正座の姿勢から左右の足を外側に出した、いわゆる「とんび座り」(女の子座り)はあまりよくありません。

股関節を内側に曲げる動き(内転)と、股関節を内側にねじる動き(内旋)は、股関節の軟骨を傷つけやすく、痛みや変形の悪化につながるので、避けたほうがよいでしょう。

股関節の痛みや変形を助長させるような動作や姿勢を避けるとともに、適度に体を動かすことも非常にたいせつです。

関節はもともと動くようにできています。痛みを恐れて動かさないと、関節の動きが悪くなり、関節を支える筋肉も弱って、ますます痛みが出やすくなります。

画像: 股関節に負担をかけずに体を動かすことが大事

コロナ禍で、外出を控え、家に閉じこもりがちな生活を送っている人も多いと思います。激しいスポーツや無理に関節を広げるストレッチを行う必要はありませんが、日々の生活の中で運動量を増やすように心がけましょう。

ウォーキングや散歩など、立ったり歩いたりする機会を増やすのが効果的です。

また、骨粗鬆症になると、大腿骨がもろくなり、股関節に近い大腿骨頸部が骨折してしまうこともあります。特に70代以上の高齢者は骨を強化するために、食事ではカルシウムやビタミンDを意識してとることも必要です。

専門医を受診してアドバイスをもらおう

変形性股関節症の治療は、生活習慣や動作の改善や、運動などの保存療法、人工股関節置換術などの手術が主な方法になります。

保存療法でも痛みが取れない場合や、股関節の変形が重度に進んでいる場合は、手術を検討することになります。ただし、レントゲン検査の結果だけで手術が必要かどうかを判断するわけではありません。

どのくらい痛みが強いか、股関節の痛みや変形によって日常生活にどの程度支障が出ているか、といった個々の症状に応じて考えます。症状によって、保存療法で改善できる見込みも十分にあるからです。

寛骨臼形成不全や先天性股関節脱臼の人は変形性股関節症になるリスクが高いですが、運動療法や生活改善に取り組むことで、変形性股関節症の発症や進行を抑えることも可能です。

股関節に痛みや違和感がある人は、一度、股関節に詳しい整形外科医を受診することをお勧めします。

股関節の痛みを訴える人は多くいますが、その原因は本人もわからないことがほとんどです。専門医の診断を受けることで、股関節痛の原因を特定し、症状の改善や悪化を防ぐ方法についてアドバイスをもらうこともできます。

一生、元気に動ける体を維持するためにも、股関節トラブルの早期発見と対策に努めていただきたいと思います。

画像: この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。

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