解説者のプロフィール

増田哲也(ますだ・てつや)
あさひ本宿クリニック院長。秋田大学医学部卒。慶應義塾大学医学部消化器内科、佐野厚生総合病院内科医長、米国テキサス大学医学部病理学教室研究員、日本鋼管病院内科部長を経て、あさひ本宿クリニックを開院。一般外来のほか、病後のリハビリから疾病予防まで対応する通所リハビリテーションを併設。訪問診療も行い、在宅医療に積極的に取り組む。
▼あさひ本宿クリニック(公式サイト)
苦しい便秘の原因は「ねじれ腸」か「下がり腸」
皆さんは、「ねじれ腸」や「下がり腸(落下腸)」といった症状をご存じでしょうか。
腸の形というと、理科の教科書などに載っている解剖図にあるように、大腸が小腸の周辺を四角く取り巻いているところをイメージするかたが多いと思います。
しかし、実際に私たちの腸がそのような形でおなかの中にきれいに入っているかといえば、実はほとんどの場合、そうではありません。大半の日本人の腸は、複雑にねじれたり、下腹のほうに垂れ下がったりしています。
実はこれが、多くのかたが便秘に苦しむ理由になっているのです。
私のクリニックは、地域のかたがたの診療を行う一般内科に、高齢者向けのリハビリテーション施設を併設しています。この施設では、高齢者の日常生活動作を維持する活動に力を入れています。なかでも、高齢者の健康維持の観点から重要だと考え、力を入れているのが便秘の改善指導です。
その内容は、便秘治療のパイオニアである、国立病院機構久里浜医療センターの水上健先生の考え方に基づいています。
水上先生とは、以前から親交があり、研究成果について詳しく伺う機会もしばしば設けてきました。水上先生は、日本人の8割は、ねじれ腸か下がり腸だと述べています。
私自身も長年、臨床医として多くの患者さんを診るなかで、ねじれ腸や、下がり腸のかたが非常に多いということを実感するようになりました。
そこで私は、水上先生の理論をもとにして、地域の患者さんの便秘診療に力を入れることにしたのです。
女性や高齢者は腸が下がりやすい
ここで、ねじれ腸、下がり腸の特徴についてあらためて説明しましょう。
太いホース状の大腸は、下図の通り、右下腹部(向かって左側)から始まり、上へ伸びる上行結腸、そこから腹部を横断する横行結腸、左腹部を下がる下行結腸、S字に屈曲したS状結腸と続き、直腸に至ります。この途中で腸がねじれてしまうのが、ねじれ腸です。

ねじれが起こりやすいのは、横行結腸から下行結腸へと曲がる角の部分と、下行結腸、S状結腸の3ヵ所です。ねじれた部分に便が詰まり、たまっているうちに、便の水分が吸収され、コロコロと石のようなかたい便になります。
❶子供のころから便秘だった
❷腹痛を伴う便秘になったことがある
❸便秘のあと、下痢や軟便が出たことがある
❹運動量が減ったとたん、便秘になったことがある
これらのうち、二つ以上該当するかたは、ねじれ腸の可能性が高いでしょう。
次に、下がり腸です。上図のとおり、横行結腸は通常なら真横に伸びていますが、それがU字型にだらんと垂れ、骨盤内に落ちている人がいます。これが下がり腸です。骨盤内に落ち込んだ腸は、複雑に折り重なってしまうため、便が通りにくく、便秘になるのです。
下がり腸は、生まれつきの場合もありますが、後天的になる人もいます。特に女性に多く、妊娠がきっかけとなるケースが少なくありません。妊娠中に腹筋が弱ることで、腸が垂れ下がってしまうのです。また、加齢によって腹筋が弱り、腸が下がるケースもあるため、高齢者にも多く見られます。
前述したねじれ腸であることに加え、次のうち一つでも該当すれば、下がり腸といえます。
❺おなかがポッコリ出ている
❻運動しても便秘が改善しない
ねじれ腸の人は、運動をして腸をゆらせば、多くは便秘が改善します。しかし、下がり腸の人は、多少運動した程度では、便秘は改善しません。下がった腸が骨盤内に落ち込んでいるために、運動しても腸が動かず、効果が届きにくいからです。
背すじを伸ばして胸を張り内臓全体を引き上げる
では、ねじれ腸や下がり腸によって起こる頑固な便秘をそのまま放置すると、どうなるでしょうか。単に便秘が続くだけではなく、さまざまな不調が起こります。
食欲不振になったり、おなかが張るガス腹になったりするほか、かたい便を出すためにいきむことで痔になる人もいるでしょう。ねじれが悪化すれば、腸閉塞(腸管が詰まり腹痛を引き起こす)につながることも懸念されます。
便秘やガス腹が続けば、当然、おなかの苦しさや痛みによるストレスが生じます。
また、肌への悪影響も考えられます。便秘になると、腸内環境が悪化し、悪玉菌が増えます。この悪玉菌が腸内のたんぱく質を腐敗させ、有害物質を生成。それが血液中を巡って全身に行き渡ります。すると、吹き出物が出たり、肌がくすんだりしするのです。
ダイエット面でも、ねじれ腸や下がり腸は障害となります。
便秘になると、新陳代謝が悪くなります。脂質や老廃物をため込みやすくなり、やせにくい体質になるのです。また、下がり腸のかたは、ダイエットしても、ポッコリおなかが引っ込まないことがよくあります。
ねじれ腸や下がり腸をゆらし、引き上げれば、便秘、ガス腹、ストレス、肌荒れ、ダイエットなどの問題を、改善できるのです。
そこで、私のクリニックでは、腸の状態を改善し引き上げる「腸ゆらしマッサージ」を指導しています(やり方は下項を参照)。
このマッサージは、水上先生が考案した手法です。クリニックでも多くのかたがこのマッサージに取り組み、成果を上げています。それぞれ、1分程度でできますから、通して行っても、3~4分程度で終わります。根気よく続けてください。
いうまでもありませんが、便秘解消という面では、生活習慣や食事内容への配慮も欠かせません。朝食をきちんと取り、食後にトイレへ行く習慣をつけること、水分をしっかり摂取すること、バランスのよい食事をすることがたいせつです。
特に高齢者は、ふだんの姿勢も重要です。加齢による筋力低下によりネコ背になると、横隔膜が下がり、内臓を押し下げるため、ねじれ腸も下がり腸も悪化しがちになるからです。できるだけ背すじを伸ばし、胸を張るように心掛けましょう。横隔膜を引き上げれば、腸も含め内臓全体が持ち上がります。
なお、便秘以外の症状、発熱、血便、急な体重減少などがあるかたは、便秘以外の病気を併発しているおそれがありますので、医療機関に早めに相談してください。
腸ゆらしマッサージのやり方
基本の姿勢
布団の上であおむけになって、両ひざを立てる。足は腰幅程度に開く。お尻の真下にクッションを入れ、腸が顔側に上がるように少し角度をつける。リラックスして行うとよい。

下行結腸の詰まりを改善
左腹部トントン
左わき腹を通っている下行結腸を両側から刺激するように、トントンと左右交互に軽く押していく。太もものつけ根からへその上辺りまで上がったら、下に向かって同様に1分間トントン押す。

S状結腸の流れをよくする
下腹部トントン
へその下にあるS状結腸を両側から刺激するように、へその両わきから恥骨のすぐ上まで、トントンと左右交互に1分間押す。

横行結腸から下行結腸の曲がり角を刺激
上体ひねり
足を肩幅よりやや広げて立ち、両手を左右に伸ばす。そのまま右へ、左へ上体をひねり、ブーン、ブーンと1分間振る。

落下腸の人はこれもプラス!
落ちた横行結腸を押し上げる
腸押し上げ
右手を右足つけ根、左手を左足のつけ根に当てる。骨盤内に落ちた腸をゆさゆさゆらして持ち上げるように、へその上まで、手を押し上げる。両手の位置を体の右側、左側と変えながら1分間行う。

参考:水上健著『ねじれ腸 落下腸 滞った便がグイグイでてくる快うんマッサージ』(主婦の友社)、『3分で便秘解消! 腸ゆらしマッサージ』(学研プラス)

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
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