テストの結果で興味深いのは、筋肉量と社会性に、相関関係が見られたことです。ふくらはぎ周りが太く筋肉量がある人ほど、「若い人に自分から話しかけることがあるか?」という設問に対して「ある」と答えていました。【解説】吉村芳弘(熊本リハビリテーション病院医師/サルコペニア・低栄養研究センター長)

解説者のプロフィール

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吉村芳弘(よしむら・よしひろ)

2001年、熊本大学医学部卒業。東京女子医科大学心臓血管外科レジデントを経て、03年、熊本大学医学部外科医員。13年に熊本リハビリテーション病院に着任。栄養管理部部長、リハビリテーション科副部長を歴任し、20年に同院サルコペニア・低栄養研究センター長に就任。日本リハビリテーション医学会専門医、認定臨床医、指導医。日本リハビリテーション医学会国際誌最優秀論文賞ほか受賞多数。
▼熊本リハビリテーション病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

9割以上の人が3食をきちんと取り食欲旺盛

私は、地域の高齢者医療に携わりながら、高齢化とそれに関連するさまざまな医療における課題を研究しています。ですから、「健康長寿の秘訣」は、私の研究の核心部分でもあります。

2019年と20年には、一般企業が過去4年間に行った、健康寿命延伸のヒントを探るための生活実態調査と、その総括に協力しました。調査対象は、なんと100歳以上の高齢のかた100名です。

今回はそれらの調査結果をひも解きつつ、元気で長生きのカギを探りましょう。

まずは食べ物についてです。

「健康長寿の秘訣は?」という設問に対し、実に5割超の人が食にまつわる回答をしており、高い関心があるとわかります。

実際、食事の回数を見ると、9割以上の人が3食をきちんと取っていました。おやつも食べる人も多く、食欲旺盛です。

3食の内容を見ると、全体の9割にたんぱく質を含む食材が使われていました。多い順に、鶏卵、豆腐などの大豆加工品、牛乳、ハムなどの加工肉、豚肉、白身魚といった並びです。

「年を取ったら粗食」ではなく筋肉を保つためにも、たんぱく質を中心に、バランスよく栄養をとることが勧められます。

ちなみに、私の所属部署名に入っている「サルコペニア」とは、加齢や運動不足により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態を指します。

サルコペニアで活動量が低下すると、健康障害が起こりやすくなります。物事に対する意欲も失われがちになり、これが、心身の虚弱状態「フレイル」を招く一因にもなるのです。

寝たきりや認知症になるリスクも高まるので、健康長寿を目指すなら、サルコペニア予防は重要。そのためにも、筋肉をはじめ丈夫な体をつくる、たんぱく質の摂取は必須なのです。

調査で「食事を誰ととっているか?」と質問したところ、8割以上の人が、家族や友人と食事していることがわかりました。

1人で食べる「孤食」は、食事内容が偏り、低栄養になりがちです。誰かといっしょに食べると食事内容がバラエティー豊かになるうえ、会話が弾むことで食も進むでしょう。

ふくらはぎが太くて予想以上の筋肉量

ここまでは、食事面について考察してきましたが、運動面はどうでしょう。

調査では100歳の皆さんに「指輪っかテスト」を試してもらいました。

これは、サルコペニアかどうかをチェックするための簡易的なテストです。利き足でない側のふくらはぎの最も太いところを、両手の親指と人差し指で作った輪っかで囲みます。

ふくらはぎのほうが太くて両手の指がつかない、あるいはふくらはぎと輪っかの間にすき間ができなければ、筋肉量が十分にあるということ。逆に、すき間ができる人は、サルコペニアの可能性があります。

テストの結果、4割近くの人から「両手の指がつかない」または「すき間ができない」という回答を得ました。100歳の人がこれほど筋肉量を維持しているとは、正直、予想以上でした。

いいかえれば、筋肉量を保てているから、100歳までお元気なのでしょう。

さすがにその年齢になると、筋トレをしている人はそう多くいません。運動の機会は、散歩や外出程度です。とはいえ、なかにはスクワットや片足立ちなどに取り組む人もいました。筋肉量を落とさないよう、できる範囲で努めるのは大事です。

俳優の大村崑さんが筋トレを始めたのは86歳だそうですが、89歳の今も、楽しく取り組み続けています。何事も、始めるのに遅過ぎることはありません。

指輪っかテストの結果で興味深いのは、筋肉量と社会性に相関関係が見られたことです。

ふくらはぎ周りが太く筋肉量がある人ほど、「若い人に自分から話しかけることがあるか?」という設問に対して「ある」と答えていました。

社会とつながろうという前向きな気持ちや、新しい物事への好奇心、コミュニケーション能力は、食事面や運動面と同様にたいせつです。

調査では、「新聞などを読むか?」という問いに、6割近くの人が読むと答えました。世間の出来事に無関心でいることは隔絶感を生み、脳機能の低下やフレイルにもつながります。

92歳の写真家・西本喜美子さんは、若い仲間との交流が元気の源だそう。写真という熱中できる趣味に加え、新しい物事に対する好奇心や、若い人と積極的にコミュニケーションを取る社会性の高さも、健康長寿の秘訣といえます。

人生100年時代の到来といわれます。老いてなお楽しく、健康で過ごしたいものです。人生の先達に学び、できることから始めてはいかがでしょうか。

元気な百寿の生活習慣
3食をきちんと取る
たんぱく質を中心にバランスよく食べる
人といっしょに楽しく食事する
筋肉量を落とさないよう運動する
世間の出来事に関心を持つ
積極的にコミュニケーションを取る
[キューサイ調べ]

画像: この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。

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