プロフィール

堀内辰男(ほりうち・たつお)
1940年生まれ。現役時代はエンジニアとして働き、60歳で定年退職後は表計算ソフト「エクセル」で絵を描き始める。その後、2008年オートシェイプ画コンテストで特別部門大賞を受賞するほどに上達。内閣府より、平成29年度エイジレス・ライフ実践者に選ばれるなど、その活動が大きな反響を呼んでいる。
絵を描いた経験はほとんどなかった
私はもともとエンジニアで、定年退職するまで、文房具や医療機器を設計していました。昔から特別絵が好きというわけではなく、絵を描いた経験もほとんどありません。
そんな私が、〝エクセルで絵を描く画家〟として知られるようになったのですから、皆さんが不思議に思うのも当然かもしれません。
退職が近づいてくると、多くの人は、現役時代に築いたものに固執したくなります。だからこそ定年後も、それまでの仕事のコネやつてを頼って、仕事をする人が多いのでしょう。
しかし、私はそのように過ごすつもりはありませんでした。リタイアしたら、コネもつても何もないところから、新たに裸一貫で始めたいと思ったのです。
自宅で何をしようかと思案しているとき、若い人たちがエクセルでグラフを描いていることを、ふと思い出しました。表計算ソフトであるエクセルは、線も引けますし、色も塗れます。
「これなら、絵を描いた経験のない私にもできる!」と思いついたのです。そして、試行錯誤しながら絵を描き始めました。
パソコンは本を読んで勉強しないと使えないと思い込んでいる人が多くいますが、決してそんなことはありません。
初めて自転車に乗ったときのことを思い出してください。まずハンドルを握って乗ってみる、足を動かしてこいでみる。最初はうまくいきませんが、だんだんうまくなって、そのうち乗れるようになります。パソコンも、それと全く同じです。
私自身も、自転車に乗るときと同じように、エクセルを使って絵を描く技術を磨きました。くり返しているうちに、ときとして、描いた自分がびっくりしてしまうような、いい絵が描けることがあります。偶発的なことかもしれませんが、それはとても感動的なことです。

堀内さんがエクセルで描いた『桜と富士』
さらに、そうした絵を、家族や親しい人たちに見てもらって感想を聞くことが、新たな刺激となります。
ある程度、上達してから、美術展に何度か出展してみました。すると、いろいろな人から多くの批判を受けました。
自分としてはカチンとくることもありましたが、上達の機会と捉えて、自分の作品のどこが悪いのか徹底的に聞きました。その教訓を生かして絵を描き出品し、また批判され、また教わる。このくり返しです。
こうして、現れる課題に取り組んでいくことが、大きな喜びとなりました。前向きに取り組むことで、絵も上達していったのです。
そのうち、コンテストで受賞するようになりました。平成29年度には、エイジレス・ライフ(年齢にとらわれず自由にいきいきとした生活を送る)実践者に選ばれ、内閣府から「章」もいただきました。
私は絵を描き始めたとき、人の鑑賞に堪えられる絵を描くという十年計画を立てました。そして努力によって、ゼロからのスタートを成功させたのです。しかし、その後については考えていませんでした。
十年計画を達成した今、これから私はどんな絵を描けばよいのか、いい絵とはどんな絵なのか、それが私のテーマであり、悩みです。まるで本物の画家のようですが、そうやって悩めるうちは、若さを保てるのではないかと考えています。
落ち込むことがあっても前向きでありたい
私の健康法は、1日1~2回の散歩です。少し前まで、「ながら散歩」を行っていました。
これはゴミ袋を携帯し、町のゴミを拾いながら歩くものです。健康のために始めたことですが、町がきれいになって気持ちがよいので、どんどん歩く時間が延びていき、かえって健康を害しそうになったので、今はただ歩いています(苦笑)。
体に異常は感じていませんでしたが、つい先日、問題が見つかりました。少しろれつが回らなくなったので病院で診てもらったところ、脳内に小さな血栓があったのです。
入院を勧められましたが、丁重にお断りしました。入院したら、「病人」になってしまうというのが、私の考えなのです。 現在は薬を飲んでおり、この取材を受けられるくらいまでは回復しています。
これからも、絵と同様に、いろいろなことに前向きにチャレンジしていきたいものです。
このコロナ禍で、気分が落ち込むこともあるかもしれません。しかし、そうしたなかでも、予防を万全にして、前向きな気持ちで過ごすことこそが重要なのではないでしょうか。

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
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