プロフィール

西本喜美子(にしもと・きみこ)
1928年生まれ。46年に美容学校を卒業、美容院を開業。50年に競輪選手に転身し、55年に引退、結婚。専業主婦として3人の子を育て上げる。97年、長男のアートディレクターで写真家の和民氏が、熊本で写真教室「遊美塾」を開校すると、2000年に自身も入塾。72歳でカメラを始める。ユーモアあふれる自撮り写真が人気を呼び、11年、熊本県立美術館分館で初個展を開催。16年、88歳にして初写真集『ひとりじゃなかよ』を発刊。翌年に東京で開いた個展では17ヵ国のマスコミから取材を受ける。受賞多数。18年にインスタグラム(@kimiko_nishimoto)を開始し、フォロワー数は24万人に迫る勢い(2021年4月現在)。世界中から注目を浴び続けている。
カメラには全く興味がなかった

ゴミ袋に入った自分を撮った写真は、一躍話題となった。老いを笑いに変える、ユーモラスな「自虐写真」が世界中に発信され人気を呼んでいる。
私は、もうじき93歳になります。今でこそ、こうして取材を受けることが多くなりましたが写真を始めたのは72歳のとき。今では、カメラを肌身離さず持つほど、写真が大好き。人生、わからないものですね。
7人兄弟の次女としてブラジルで生まれ、8歳のときに日本に帰国しました。美容師としてお店もしていたのだけど、弟が2人、競輪の選手になってね。各地を回って旅するのを目にしていたら、うらやましくなって私も競輪選手になっちゃった。
カメラもそうだけど、もともと、考えたり迷ったりするより「やってみないとわからない」ってタイプなんですね。
夫と結婚し、競輪選手を引退してからは、子育てに専念していました。これというほどの趣味も、なかったんですよ。夫は風景写真を撮るのが好きで、つきあって出かけることはあったけれど、私はカメラには、少しも興味がわきませんでした。
ところが、おもしろいものでね。長男が写真の塾をしているのだけど、あるとき、塾の生徒さんが我が家に遊びに来たんです。
見せてもらった作品に感心していたら、「いっしょにやりましょうよ」と誘われて。後日、「写真塾に行きましょう」と家まで迎えに来てくれました。
じゃあせっかくだから……と出かけたら、初めて撮った写真を皆にほめられて、すっかり楽しくなりました。それが、カメラを趣味にしたきっかけです。
夫に「私も写真を始めたい」と話したら、驚きつつも、一眼レフのカメラを貸してくれました。そのときは使い方がさっぱりわかりませんでしたが、写真塾に入って、教えてもらいながら撮るうちに、操作を覚えました。仲間から「いいね」といわれると、うれしくてね。
私がどんどんのめり込むのを目にした夫は、その後、カメラを買ってくれました。9年前に亡くなりましたが、応援してくたことに、感謝しています。もらったカメラは、今でも大事に使っていますよ。

虫干ししている夫の服にそでを通して遠隔操作でパチリ。
わからないことは恥ずかしいことじゃない
「元気で長生きの秘訣は?」ってよく聞かれますが、特別気をつけていることはないんです。
私はタバコを吸うし、お酒も好きですよ。バーボンとか、自宅では梅酒ハイボールとかね。甘い物も好きだから、菓子パンも食べます。ただ、子供のころから好き嫌いはありませんね。
生活は不規則で、起きる時間も寝る時間もまちまちです。近年は自宅のミニスタジオで撮影することが多いのですが、一度撮影を始めたら、夜中まで起きていることもしばしば。作業が楽しいので、苦になりません。
自分で自分の写真を撮る、いわゆる「自撮り」をするときはポーズを取ったあと、リモート操作でシャッターを切ります。合成写真なども、パソコンで、画像加工ソフトを使い、自分で編集するんです。
年を取ると、どうしても尻込みしたり、わからないことを恥ずかしく思ったりしがちです。でも、私だって初めはちっとも操作できなかったし、今だって忘れることもしょっちゅう。そのたびに、何度でも仲間に聞きますよ。
プライドを捨てて、わからないことは聞くのが大事。どうしてもダメなら、そこでやめたっていいんですから。

車と同じスピードでシルバーカーを走らせる!?西本さん。初めは難しかった、パソコンを使った写真の合成加工も、今ではお手のもの!
私の作品は「自虐的」といわれますが、「こうしたらおもしろいのでは?」という、ひらめきから生まれます。
自分が美人だったり、カメラの腕がよかったりしたら、こういう作風にはならなかったでしょう。人が見て、悲しくなるような写真は撮らないのがモットー。だから自然と、笑える写真を撮るほうに向かったんですね。
趣味と仲間、発表の場が元気で長生きの秘訣
自分がゴミ袋に入っている写真(冒頭参照)は、自宅の庭で撮りました。ゴミの収集日に庭に出たら、ゴミ袋が目に入って、ふと「これに入ってみようかな?」と思ったんです。私ももう、捨てられてもおかしくない年だしね(笑)。構図を考えながら、カメラまで何度も行ったり来たりして、大変でした。
自分でおもしろいと思って撮った作品が人の共感を得るのは、やはりうれしいことです。作品が世に出て徐々に知られるようになると、おかげさまで、写真展を開く機会にも恵まれました。
ただ、こういう作風から、熊本県立美術館の展示初日には、「こんなポーズをさせるなんて、老人虐待だ」という声が上がったとか(笑)。慌てた主催者側が翌日に、「これは本人が撮ったものです」と、作品に説明をつけてくれました。
今では多くのかたが、作品をおもしろがって楽しんでくれています。

表情もその場の即興。「痛い感じを出そう、程度です」
最近はだいぶ、足腰が弱くなってきてね。それでも、写真教室の日や、何かイベントがあれば出かけます。それもこれも、仲間に会いたいからです。
私をいつもそばで見ている息子によると、元気で長生きの秘訣は三つあるそう。
「熱中できる趣味があること」
「趣味につながる仲間がいること」そして
「発表の場があること」です。
趣味があれば仲間ができる。仲間がいれば続く。腕が上達し発表の場で先生や仲間からほめられる。うれしいから笑顔が生まれ、次の発表の場を目標に、また趣味が長続きするという、いい循環ができるって。
確かにそうかもしれません。写真を始めて、仲間がグンと増えました。いっしょにご飯を食べ、お酒を飲み、おしゃべりする時間が、楽しくてしかたありません。
息子世代より若い友達もたくさんいます。皆が「きみちゃん」と話しかけてくれて、私はほんとうに幸せ。これからも仲間たちと、楽しい写真を撮り続けていきたいですね。

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp