プロフィール

大村崑(おおむら・こん)
1931年生まれ。19歳のときに肺結核で右肺を切除し、それをきっかけに喜劇の世界へ飛び込む。1953年に舞台デビュー後は、テレビ番組での司会業やCMキャラクターとしてお茶の間の人気を得る。1970年以降は演技力も評価され、俳優としての活動の幅を広げ、情報番組のコメンテーターや講演活動など、幅広く活躍。
健康に自信がなく運動も嫌いだった
私は1965年から、栄養ドリンクのCMで「元気ハツラツ!」と叫び続けてきました。
今だからいえますが、当時は決して元気いっぱいの健康体ではありませんでした。
実は、私は19歳のときに肺結核を患い、右の肺を失っています。そのため、健康に自信がなく、極力無理をしないよう生活してきました。運動も嫌いで、何をやっても長続きしません。
芸能の仕事を始めてからは、新幹線で次の仕事場へ移動する際、タクシー乗り場からホームまでよく走らされたものです。そのときも私だけ体力が追いつかず、一人乗り遅れたりしていました。
新幹線が行ってしまったあと、ホームで見ていた人たちに「へへへ」と笑っておどけていましたが、内心は情けない思いでいっぱいでした。
そんな私が86歳で筋トレを始めたのですから、人生何が起こるかわからないものです。
きっかけは、妻に無理矢理トレーニングジムに連れて行かれたことでした。
私の洋服は、いつも妻が買ってきてくれます。ところが、いつからか妻が選んだジーンズが入らなくなり、私はこっそりマネージャーに頼んでお直しに出し、ウエストを広げてもらって着ていました。あるとき、それがバレてしまったのです。
デパートに連れていかれてサイズを測ってもらうと、おなか周りは92cmありました。妻からは「なんでそんなおなかになったの!?」と叱られましたが、「食べて、寝て、好きなことをしていたらこうなった」としか答えようがありません。
そういえば、健康診断のCT(コンピュータ断層撮影)画像でも、内臓の周りに脂肪がたくさん写っていました。
それを見かねた妻が、インターネットでトレーニングジムを探し、まずはいっしょに話を聞きに行くことにしたのです。
私たち夫婦が訪れたのは、CMで話題の「ライザップ」です。ライザップのことは、私も梅沢富美男さんのCMを見て知っていました。でも、自分の体がそんなに変わるなんて、最初は信じていませんでした。
ただ、妻が通うというので、私も「とりあえず3ヵ月だけ」と、渋々ながら通うことにしたのです。

バーベルを持ってスクワットをする大村さん
最初は、両手を胸に当て、スクワットを15回行っただけで、帰りに地下鉄の階段を上がるのがつらいくらい筋肉痛になりました。その時点で「もう二度と行くものか!」と思ったものの、3日後には筋肉痛も治まり、再度ジムへ。
そんなことをくり返していると、筋肉痛が短期間で改善するようになり、次第にバーベルを持ってスクワットをすることもできるようになっていきました。
ちなみに、私は89歳になりますが、35kgの重りをつけてスクワットをしています。
筋トレを始めて1ヵ月もすると、おなかが徐々にへこんで、二重アゴもすっきりしてきました。そのころには、後輩役者から「師匠、アゴがとがってきましたね」といわれるようになりました。
ジムでは筋トレだけでなく、歩き方まで教えてくれます。かかとから足を着いてつま先で蹴り、大股で、重心が前に傾かないよう、肩は後ろに引くようにして歩くといいそうです。
この歩き方を心がけていたら、つまずくことも減りました。
前は敷物に引っかかったり、両手を強く着いて、腕の筋肉を傷めたりしたこともあります。今は足だけでなく、腕立て伏せで腕の筋肉も鍛えているので、もうそんなことになる心配はありません。妻からも、「スリッパがパタパタいわなくなった」といわれます。
おなかがへこみ、筋肉がついて、姿勢がよくなると、「崑ちゃん、若くなったね」と、街を歩いていていろんな人に声をかけられるようになりました。これがうれしくて、3ヵ月のつもりが、気がつくと3年もジム通いを続けていました。
ジムに行く前65kgあった体重は57.8kg(身長は160cm)に、92cmあったウエストは79cmになっています。
以前はしゃがんで靴ヒモを結ぶのが苦しかったけど、今は楽にできます。ふくらはぎや太ももの筋肉もカチンコチンです。
ブロッコリーを朝晩食べのどの筋肉を強化
ジムに行くようになって、食生活も変わりました。
最も心がけているのは、炭水化物を控えることです。おなかが出るいちばんの原因は糖質と聞き、最初の2ヵ月はうどん、お好み焼き、ラーメン、ご飯などは食べないようにしました。私は酒を飲まないかわりに甘い物が大好きなので、それを我慢するのはつらかったです。
今も糖質をとる量は控えめにしていて、以前食べていた量が10だとしたら、3くらいに減っています。ご飯を食べる量は、小さい茶碗に半分くらいです。
私のような昔の人間は、ご飯がないと、どうにも寂しい気がします。それでも二口か三口食べられれば十分。塩コンブなどを乗せて食べると、それはもうおいしくて大満足です。
また、ジムのトレーナーの勧めで、両手いっぱいのブロッコリーを朝晩2回に分けて食べることも実践しています。ゆでて、マヨネーズ、レモン、明太子ソースなどをつけて食べるのです。
これは、皆さんにもぜひお勧めしたい一品です。
ブロッコリーはよく噛まないと、なかなか飲み込めません。最近は誤嚥性肺炎で亡くなるかたがとても多いと聞きます。私は筋トレを始めて、すべての健康の秘訣は筋肉だと実感しました。
のどの筋肉も、鍛えなければ衰えます。年寄りだからといってやわらかいものばかり食べるのではなく、一生懸命噛んで、のどの筋肉を鍛えることがたいせつなのです。そのために、ブロッコリーはとても役立つと思います。

奥さんといっしょにジムでトレーニングが元気の秘訣。
ブロッコリーを食べることもそうですが、運動は生活に組み込むことが長続きの秘訣です。
私はジムに行く以外に、家の中でもこまめに運動をしています。テレビを見ていても、CMになったら立ち上がってスクワットをしたり、ストレッチに使うゴムチューブを家のあちらこちらに置いておき、目につくとそれでストレッチをしたりします。
おかげで自分の健康に自信が持てるようになり、朝はシャキッと気持ちよく目覚めることができます。年寄り特有のボーッとした感じや、「憂鬱だなぁ」と思うことは一切ありません。
美容師さんからは「髪がしっかりしてきて、ツヤもある」といわれます。外へ出ると「顔色がいいですね」と声をかけられ、「触らせて」とほおに触れてくる人もいます。
肺が一つしかない私でもこれだけ元気になれるのですから、皆さんがその気になれば、もっと健康になれるのではないでしょうか。
人間は、誰もが自分のなかに、自分を見守るもう1人の自分がいます。そのもう1人の自分を喜ばせる生き方をすることが、自分自身の幸せにつながると、私は思っています。
特に、コロナ禍でいろいろなことが制限される今は、自分で好きなことを探して楽しまなくてはなりません。私は筋トレが楽しくて、毎日が充実しています。
皆さんも好きなことを見つけて、日々をいきいき、楽しく過ごしましょう。

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。
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