ふくらはぎをよく収縮させて血流を促し、NO(一酸化窒素)がたくさん産生されると、血管が広がって血圧が下がります。また、血管が若々しく保たれ、動脈硬化の予防も期待できます。そして、「ゴースト化」した毛細血管も再生しやすくなるのです。【解説】伊賀瀬道也(愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長)

解説者のプロフィール

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伊賀瀬道也(いがせ・みちや)

愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長。愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授。1991年愛媛大学医学部、1999年同大学院卒業。ウェイクフォレスト大学医学部高血圧血管病センターへの留学などを経て、抗加齢(アンチエイジング)医学研究を行う抗加齢センターの立ち上げに尽力。脳卒中、認知症、フレイル・サルコペニアなどの予防について、臨床研究を行う。

血管がやわらかくなり高血圧や動脈硬化が改善

近年、ふくらはぎの健康効果については、情報があふれています。多くの人が関心を持っているテーマだからでしょう。

私は、循環器専門医で、特に血管が専門分野です。ふくらはぎを鍛えることの効能について、主に血管に及ぼす影響という観点から、次の2点についてお話ししましょう。

太い血管に対する効果
毛細血管に対する効果

まず、触れておきたいのが、①のふくらはぎのポンプ作用です。

心臓から送り出された血液は、足の先まで届き、そこから重力に逆らって戻ります。重力に抗して戻るため、心臓へ向かう静脈の流れは、悪くなりがちです。この戻りにくい血液を心臓へと戻すのに重要なのが、ふくらはぎのポンプ作用です。

運動によってふくらはぎが伸び縮みするとき、筋肉が内部の血管を押しつぶします。すると、筋肉中の血管内の血液が圧迫され、上へ絞り出されます。さらに静脈には弁があって、逆流しないようになっています。

このようにふくらはぎがポンプのようにくり返し収縮することで、下半身の血液が心臓へとスムーズに戻っていくわけです。こうした働きがあるため、ふくらはぎは、「第2の心臓」とも呼ばれています。

ふくらはぎのポンプ作用がしっかり働くことで、全身の血液の流れがよくなります。このことが、高血圧や動脈硬化の予防・改善につながると考えられます。

血管は、外膜、中膜、内膜という三つの層で構成されています。ふくらはぎの筋肉を収縮させて、血流をよくすると、この内膜を形成する内皮細胞で、NO(一酸化窒素)という物質の産生が促されます。

NOには、血管拡張作用があり、血管をやわらかい状態に保つ働きがあります。ですから、ふくらはぎをよく収縮させて血流を促し、NOがたくさん産生されると、その血管拡張作用により、血管が広がって血圧が下がります。

また、血管が若々しく保たれ、動脈硬化の予防も期待できます。動脈硬化の進行を遅らせられれば、生活習慣病や脳卒中、心筋梗塞などの重大な疾患の予防にも役立つことになります。

ふくらはぎと太ももを鍛える片足立ちがお勧め

次に、②の毛細血管に対する効果です。

毛細血管はとても細い血管で、太さは頭髪の10分の1程度。一方で、全身の血管の95~99%を占めています。

この毛細血管が、老化や病気によって劣化すると、血流が途絶えて消えてしまう「ゴースト化」が起こります。この毛細血管のゴースト化が始まるのは、一般的には、40代くらいからとされています。

毛細血管がゴースト化すると、栄養分や酸素が体の隅々まで届きにくくなり、体のあちこちの機能の低下や、見た目の老化などが起こります。糖尿病をはじめとする生活習慣病も発症しやすくなりますし、認知症のリスクも高まると考えられるようになってきました。

こうした毛細血管のゴースト化に対しても、ふくらはぎを使った運動が有効です。

下半身に滞った血液を心臓に押し戻す力は、毛細血管自体にはありません。ここでも役立つのが、ふくらはぎのポンプ作用です。末梢の血流が改善することで、ゴースト化した毛細血管も再生しやすくなるのです。

このように、ふくらはぎを動かして血流を促すことは、太い動脈に対しても、毛細血管に対してもよい影響をもたらします。

さて、ふくらはぎを動かす運動として、私が皆さんにお勧めしているのが、開眼片足立ちです(やり方は下記参照)。

開眼片足立ちによって、ふくらはぎに圧をかけることができ、それと同時に太ももの筋肉の強化にもなります。ふくらはぎに加え、太ももの筋肉が鍛えられれば、それだけ血流を促す作用も高まることは、いうまでもありません。

まずは、目を開けて片足立ちをし、1分立てるかどうか確認してください。私たちの抗加齢予防医療センターでの研究データによれば、片足立ちが1分できないかたは、身体機能や脳機能の衰えが進んでいる恐れがあります。

1分できないかたは、まずは、できる範囲から始めて、1分立てるようになることを目指しましょう。毎日続けて、片足で立つ時間を少しずつ伸ばしていくことが、多くの疾病や老化の予防・改善へとつながっていくはずです。

開眼片足立ちのやり方

画像: 開眼片足立ちのやり方

右足を上げて1分静止し、ゆっくり戻る。
左足を上げて1分静止し、ゆっくり戻る。
必ず目を開けた状態で行う。
※転倒に気をつける。イスや壁のそばで行うのがお勧め。慣れないうちは、イスや壁につかまって行ってもOK。
※足が高く上がらない場合は、浮かせる程度でもよい。
※1日何回やってもOKだが、まずは朝昼夜に各1セットから始める。少しでも長い時間できることを目指す。

画像: この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。

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