あずきはほかの食品と比べても極めて多くのポリフェノールを有していますが、その多くは水溶性なので、ゆでこぼすと、有効成分の7割が流失してしまいます。そこで、煮る前に短時間乾煎りして、渋みを消してから煮ることで、健康効果の高い煮あずきができます。【解説】加藤淳(名寄市立大学保健福祉学部栄養学科教授)

解説者のプロフィール

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加藤淳(かとう・じゅん)

名寄市立大学保健福祉学部栄養学科教授。北海道の農業試験場や豪州クイーンズランド大学などで豆類の品質、加工適性、健康機能性などについて研究。北海道立総合研究機構・道南農業試験場長などを歴任し、2019年4月より現職。著書に、『小豆の力』(キクロス出版)、『あずき博士が教える「あずき」のチカラはこんなにすごい!』(KKロングセラーズ)などがある。

ポリフェノール量は赤ワインよりも多い

私は長年、豆類の研究を続けてきました。なかでも、あずきの研究は、もはや生涯を通じたライフワークです。あずきが私たちの健康にもたらす効果や、食文化への貢献は、計り知れないものがあります。

とはいえ一般的には、あずきは和菓子の材料という認識が強いでしょう。甘いあんこは、脂質が少なく、洋菓子よりはヘルシーですが、食べ過ぎは糖尿病や肥満が懸念されます。

そこで私が提案しているのが、砂糖を加えない煮あずきです。なかでも「塩あずき」は、煮あずきに少量の塩でアクセントをつけ、日常的に食べるというもの。毎日の食事に、あずきを取り入れる手軽な方法としてお勧めできます。

あずきの持つメリットを最大に発揮する作り方は下項で紹介しますが、その前に、あずきのもたらす多彩な効果について、見ていきましょう。

あずきの健康機能性を語るうえで、外せない二大要素があります。「ポリフェノール」と、「食物繊維」です。

まず、ポリフェノールとは、ほとんどの植物に存在する色素や苦み成分の総称です。抗酸化作用があり、体内で老化や病気を引き起こす活性酸素を消去し、若々しく健康な体に導きます。

あまり知られていませんが、あずきはほかの食品と比べても、極めて多くのポリフェノールを有しています。ポリフェノールが多いことで知られる赤ワインより多く、多い物では2倍ほども含まれているのです。

ちなみに赤ワインのポリフェノールは、アントシアニンという成分です。似た色をしていることから、あずきも同じと思われがちですが、実は異なります。

あずきのポリフェノールは、カテキングルコシドという成分が最も多く、お茶のカテキンやそばで有名なルチンも含まれています。これらが優れた抗酸化作用をもたらすのです。

肌や髪をつくる細胞の再生を促進

私たちは、あずきのポリフェノールが糖尿病や高血圧などの生活習慣病にどれほど効果があるかを調べるため、いくつかの実験を行いました。

まずは、血糖値です。

実験用のマウスに砂糖水を飲ませると、ヒト同様に、急激に血糖値が上昇します。通常のエサを食べているマウスは、30分で血糖値がピークになり、120分かけて下降し、元に戻ります。

ところが、あずきのポリフェノール入りのエサを食べているマウスは、上昇のスピードが緩やかで、ピークは60分後。その最大値も、通常のエサを食べているマウスより低い値でした。あずきのポリフェノールが、体内での糖の吸収を妨げることがわかりました。

画像: 肌や髪をつくる細胞の再生を促進

次に、血圧への効果です。

遺伝的に高血圧になるように仕向けたラット(実験用のネズミ)を二つのグループに分け、通常のエサⒶと、あずきのポリフェノールを混ぜたエサⒷを、それぞれ食べさせました。

すると、Ⓐを食べていたラットは当然、高血圧を発症しましたが、Ⓑを食べていたラットは同じ生育週数でも、高血圧の基準より手前の血圧にとどまりました。さらに、高血圧になったラットにⒷを食べさせたところ血圧が基準値を下回りました。

あずきのポリフェノールが、高血圧の予防・改善に有効であると示されたのです。

さらに、あずきの煮汁を使った臨床試験で、ポリフェノールが中性脂肪コレステロール値に与える影響を調べたところ、いずれも有意に低下。あずきのポリフェノールが、脂質異常症をはじめ、生活習慣病の予防・改善に有効と確認されたのです。

ポリフェノールの抗酸化作用は、肌においてはアンチエイジング効果を発揮します。髪の毛の傷みなど、毛髪のトラブルにも効果的です。

ポリフェノールだけでなく、あずきのほかの栄養素も肌や髪に貢献します。豊富に含まれるたんぱく質には、人体の構成に必要な20種類のアミノ酸がすべて備わっています。新陳代謝や成長に欠かせないビタミンB群も多いため、肌や髪をつくる細胞の再生が促されるのです。

そして、あずきの健康機能性を支えるもう一つの要素は、豊富な食物繊維。これについては次項に譲りましょう。

乾煎りしてから煮ると渋みが消える

前項では、あずきのポリフェノールの抗酸化作用について、お話ししました。あずきの優れた健康効果を生むもう一つの要素、それが食物繊維です。

あずきは食物繊維を豊富に含み、その量はなんと、野菜のなかでも特に多いことで知られるゴボウの4倍。食物繊維は、水溶性と不溶性の2種類がありますが、あずきの場合、9割が不溶性です。しかもこれが、煮ることで5割ほど増えます

というのも、あずきの成分の約半分を占めるでんぷんは、ゆでると難消化性の食物繊維に変化。「レジスタントスターチ」という、人体の消化酵素では分解できない物質になるため、カロリー(エネルギー)としては低下します。

つまり、豊富な食物繊維でおなかは膨れるのに低カロリーという、理想的なダイエット食になるのです。

こうした食物繊維の働きで腸内環境が改善されるため、便秘の改善にはもってこいです。代謝もよくなるため、冷えやむくみの改善にも役立ちます。

むくみについては、あずきには特筆すべき効果があります。

あずきはミネラルを多く含みますが、特に多いのが、カリウムです。体は、塩分(ナトリウム)をとり過ぎると、塩分濃度を薄めるために、細胞に水分をため込もうとします。これが、むくみの生じる一因ですが、カリウムには塩分を排出する作用があり、むくみの解消に役立ちます。

カリウムは、高血圧対策としても有用です。食塩は高血圧を招くと敬遠されがちですが、煮あずきに少量の塩を振って「塩あずき」として食べる場合、血圧の心配は無用というわけです。

むくみにはもう一つ、サポニンという成分の利尿作用も役立ちます。サポニンは抗酸化作用があり、ポリフェノール同様、生活習慣病を改善。免疫力を高める効果も認められています。

これだけ優れた健康効果があるあずきを、多くの人に食べてもらいたい。けれども、それには一つ課題がありました。

あずきを煮ると、タンニンという成分により渋みが生じます。これを取り除くため、数回ゆでこぼす「渋切り」という作業を行うのが一般的です。ただあずきのポリフェノールの多くは水溶性なので、渋切りをすると、せっかくの有効成分の7割が流失してしまうのです。

私はこの課題に向き合い、近年、ついに解決法を見つけました。

あずきを煮る前に短時間、乾煎りすることで、タンニンの分子変化を起こして渋みを消します。そのあと、豆の吸水率ギリギリの量の水を加えて煮ることで、煮汁に出た有効成分をすべて閉じ込めた、健康効果の高い煮あずきができるのです。

この方法は先年、NHKの情報番組で「ウラワザ煮あずき」として取り上げられ、おかげさまで大きな反響がありました。

この煮あずきは、そのまま食べれば歯ごたえがあり、料理に使っても煮くずれしない、ほどよいかたさです。

私はふだんから、たくさん作って冷凍保存しています。といだ白米に、凍ったままの煮あずきを適量加えて普通に炊く「あずきご飯」が、お気に入りの食べ方です。

もちろん、塩あずきとして食べるのも、手軽で続けやすく、お勧めです。ぜひ毎日あずきを食べて、若さと健康の維持向上に役立ててください。

あずき博士・加藤先生がテレビで紹介した
煮あずきの作り方

画像: あずき博士・加藤先生がテレビで紹介した 煮あずきの作り方

【材料】
あずき(乾)…300g
水…500ml
差し水…100ml

【作り方】
あずきはさっと洗ってザルに上げ、キッチンペーパーなどで水気を拭う。
底が広めの鍋に①を入れ、中火で2~3分、絶えずかき混ぜながら乾煎りする
あずきの表面が少し黒っぽくなったら、500mlの水を加えて強火にかける。沸騰したら火を弱め、100mlの差し水を加え、ふたをして弱火にする。
ときどき様子を見て、30分ほどで煮汁が少なくなったらふたを開け、混ぜ返しながら水分を飛ばす。
煮汁がなくなったら完成。指で強く押すとつぶれる程度のかたさが、出来上がりの目安。

冷蔵で1週間、冷凍で1ヵ月ほど保存できる。冷凍しても有効成分に変わりはない。
1日に50g程度(煮た状態で)を目安に食べるとよい。
食べるタイミングはいつでもいいが、ダイエット目的の場合は食事の最初に、よく噛んでとるのがお勧め。満腹感が得られ、そのあとの食事量が減るため、より効果的。

画像: この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年7月号に掲載されています。

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