解説者のプロフィール

平田真知子(ひらた・まちこ)
昭和45年より独学で薬草の研究を始め、その後、長崎市の植物学者・高橋貞夫先生に師事し、薬草研究を行う。昭和60年より各地の薬草会の指導を始め、自治体の健康づくり大会で健康相談や、保健所、公民館、老人会や農協などで講演を行う。主宰する「薬草の会」には数百名もの会員が40~100歳という幅広い年齢で在籍している。会員は皆、声にハリがあって大きく、肌ツヤよく、認知症やがんとは無縁で過ごしている。
植物の薬効は幅広くゆるやかに働く
現代に生きる私たちは、体調が悪いとすぐに病院へ行きます。しかし、病院や薬が充実していなかった頃には、さまざまな植物の力を借りて病気を治していました。
このような植物の持つ薬効は、体のさまざまな不調に幅広く、ゆるやかに働きかけるものです。長い間飲み続けているうちに、「そういえば最近、痛みがなくなった」「前ほど症状に意識が向かなくなった」というような変化が現れてくるのです。
今回ご紹介する「イノモトソウ」も、「ヘバーデン結節」だけに効くというものではありません。しかし、私の周りでは、イノモトソウで指先の腫れや痛みがよくなったという人は大勢います。
薬にあまり頼りたくない人や、自分でできるよい方法を探している人は、ぜひ試してみてほしい薬草です。
湿り気の多い井戸の周辺によく生える
イノモトソウは、その名の通り、井戸の周辺や石垣の間など、じめじめした湿り気の多い場所に生えるシダの一種です。
高さは30cmほどで、葉は鳥が足を広げたような形をしているので、トリノアシとも呼ばれます。5月に新芽を出し、ほっそりした「胞子葉」と、幅の広い「栄養葉」の2種類がありますが、同じように使えます。
葉がシャカシャカと軽く、生えているときからすでに半乾燥品のような葉っぱですから、天日干しをせずとも洗ってすぐに使うことができます。乾燥させれば、長期保存することも可能です。
通常、イノモトソウは、最も葉が成長して栄養が充実する秋頃に採取しますが、5月のものでも十分使えます。
ただし、その分5月のものは量を多めに使う必要があるので、今回はこの時期に適した使い方を紹介します。
1日量として、イノモトソウを約20g用います。水で洗い、500mlの水と一緒に鍋に入れて火にかけて、半量くらいになるまで40〜50分かけてじっくりと煮ます。
こうして作った煎液を、朝昼晩に分けて飲んでください。どの薬草もそうですが、飲むのは食後ではなく、空腹時が基本です。
イノモトソウの煎液の作り方と飲み方

【用意するもの】
イノモトソウ……約20g

❶イノモトソウを洗い、水500mlと一緒に鍋ややかんに入れる。

❷水の量が半量になるまで40~50分かけて煮る。

❸コップに移して飲む。1日3杯朝昼晩に飲むようにする。1日分をまとめて作りおきしてもよい。
高齢者の頻尿などにもおすすめ
私は、あちこちにある薬草の会へ指導に行きます。何年も前のことですが、ある男性会員のAさんは、関節が腫れて困っていたことがありました。
ヘバーデン結節は女性に多い病気ですが、男性もたまに発症することがあります。Aさんは、70歳になったばかり。
ずっと一人暮らしで、おおかたの水仕事も自分一人でやっていたため、体の冷えや、血液の巡りの悪さ、筋肉の緊張を呼び、それでヘバーデン結節が発症したのかもしれません。
「指の第一関節が腫れ、耐え難いピリピリした激痛がある」とのことでした。
当時、私が師事する植物学者・高橋貞夫先生もご存命でしたので、先生にどの薬草が効くか尋ねたところ、「それならイノモトソウがよかろう」とアドバイスをいただきました。
そこでAさんにイノモトソウの飲み方を教えると、2〜3ヵ月後にまず痛みが取れ、その後は徐々に関節の腫れが引いていきました。
筋肉をしなやかにする効果があるので、そのような理由から、ヘバーデン結節が回復に向かったと考えられます。
イノモトソウには、他にも多くの薬効があり、前立腺肥大や、子宮内膜症、打撲、突き指、肝炎、高齢者の頻尿などにもよく効きます。
イノモトソウは、ちょっと探せばどこにでもあるありふれた植物です。ぜひお試しになってみてください。

この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。
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