ヘバーデン結節では、指の関節部に炎症、カルシウムの沈着(石灰化)が起こります。摂取する油のバランスが悪かったりすると、炎症を促進する炎症性サイトカインが増え、マグネシウムとカルシウムの摂取バランスが崩れると、石灰化が進んでしまいます。【解説】高橋嗣明(たかはしクリニック院長)

解説者のプロフィール

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高橋嗣明(たかはし・つぐはる)

たかはしクリニック院長。1963年東京都生まれ。北里大学医学部卒業。北里大学大学院医療系研究科修了。北里大学病院で形成外科、美容外科を歴任。北信総合病院を経て、2013年にたかはしクリニックを開院。形成外科、整形外科、皮膚科、美容皮膚科、美容外科で、保険診療の他、オーソモレキュラー療法(栄養療法)、漢方治療、重金属の解毒治療、頭部の針治療(PAPT療法)などでの根本的な治療を目指している。『ヘバーデン結節がよくわかる本』(宝島社)を監修。
▼たかはしクリニック(https://www.takahashi-clinic.net/)(公式サイト)

「食べるもの」で体内の炎症と石灰化を防ぐ

ヘバーデン結節やブシャール結節は、「食べるもの」を変えることで症状が軽くなります。

私の治療経験では、3ヵ月でほとんどの患者さんに何らかの改善が見られました。すでに変形してしまった関節や骨は戻りませんが、痛みや腫れ、変形の進行は、十分に食い止めることができると自信を持って言えます。

ヘバーデン結節では、指の関節部に炎症が起こり、軟骨が破壊されたところにカルシウムが沈着(石灰化)します。石灰化とともに骨の変形が進み、完全に関節が動かなくなると、痛みも治まります。

発症の主な要因となるのは、次の三つです。

エストロゲンの低下

人間の体には、必要な栄養素が不足すると、他の組織からそれを奪い取るしくみがあります。これを「異化作用」と言います。女性ホルモン(エストロゲン)は、この異化作用を抑える働きを持っています。

体内でカルシウムが不足すると、異化作用によって骨からカルシウムが奪われるため、骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)の原因となります。

女性ホルモンが減る更年期以降の女性が骨粗鬆症になりやすいのは、異化作用を抑制しにくくなるためです。

異化作用によって骨から溶け出たカルシウムは、最終的に体内の炎症が起こっている部位に集まって沈着し、組織を硬くする「石灰化」を起こします。

石灰化が指の関節で生じたのが、ヘバーデン結節やブシャール結節です。

ミネラル不足

もう一つ、石灰化に大きく関わっているのが、マグネシウムです。実はカルシウムが細胞内を出入りするバランスを調整するのは、マグネシウムの役割。

マグネシウムとカルシウムの摂取バランスが崩れると、石灰化が進んでしまいます。

慢性的な炎症

石灰化の引き金となる炎症ですが、これを促進するのが「炎症性サイトカイン」というたんぱく質です。炎症性サイトカインが多いと、炎症を起こしやすく、長引きやすい体質になります。この増加にも、食事が関わっています。

具体的には、摂取する油のバランスが悪かったり、その人に合わない食べ物をとったりすると、炎症性サイトカインが増えます。

そう考えると、ヘバーデン結節は「食生活を見直したほうがいい」という、体からのサインともいえます。思い当たる人は、次に提案する、食生活の改善を実践してみてください。

カルシウム・マグネシウムの補充

カルシウムとマグネシウムは、1:1のバランスでとることが大切です。ほとんどの人は、マグネシウムが不足しがちなので、マグネシウムを重点的に摂取しましょう。

カルシウムは小魚や小エビ、小松菜など、マグネシウムはワカメ、ノリなどの海藻類、ナッツ、魚、にがりなどに多く含まれます。

また、多くの加工食品に含まれるリン酸塩は、カルシウムの吸収を阻害して、骨粗鬆症を進行させる上に、関節や血管など、ついてほしくないところへのカルシウムの沈着を促進します。製品表示をよく見て、できるだけリン酸塩が添加されていない食品を選びましょう。

油を変える

油にはいくつか種類がありますが、「ω6系」のリノール酸を多く含む油(サラダ油、コーン油、大豆油、紅花油など)と、αリノレン酸やDHA・EPAなど「ω3系」の油(青魚の脂、エゴマ油、アマニ油など)のバランスが崩れると、炎症が起こりやすくなります。

多くの人は、ω6系の油をとり過ぎているため、1ヵ月ぐらい極力減らしてみましょう。それで痛みが治まるようなら、できる範囲で続けてください。

増やしたいのは、炎症を抑える作用のあるEPA。刺身や缶詰などで、青魚の油脂をそのままとれるのがベストです。

また、「トランス脂肪酸」はてきめんに炎症性サイトカインを増やし、ヘバーデン結節を悪化させるので避けるべきです。

トランス脂肪酸は非常に安価な油脂のため、マーガリンやショートニングの他、市販のスナック菓子や菓子パン、レトルトやインスタント加工食品、ファストフードにもよく用いられています。アメリカではすでに、トランス脂肪酸の使用・販売が禁止されています。

避けるべき油[トランス脂肪酸]
 マーガリン、ショートニングなど
控えたい油
:ω6系
[リノール酸]
 サラダ油、大豆油、コーン油、ゴマ油など
積極的にとりたい油
:ω3系
[αリノレン酸]
 エゴマ油、アマニ油など
[DHA・EPA]
 魚油
影響しにくい油
(とり過ぎには注意)
[オレイン酸](ω9系)
 オリーブ油、菜種油、米油など
[飽和脂肪酸]
 ココナッツオイル、バター、肉の脂など

その他、害のある物を減らす

白砂糖を使った甘いもの、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、小麦製品は、炎症を誘発しやすい食品。症状が治まるまで、これらを断つのが理想的です。

水銀などの有害重金属や、食品に含まれる化学物質も、発症に関わりがあります。ですから、水銀の含有量が多い大型魚(マグロやカツオなど)や加工食品は控えましょう。

水道水にも塩素やトリハロメタンといった有害な物質が含まれます。安価なものでいいので、浄水器を使用することをお勧めします。
 

食生活を変えるのは大変ですが、ヘバーデン結節に悩んでいる方は、おそらく体の他の部位でも石灰化が進んでいます。

石灰化が血管で生じれば動脈硬化となり、高血圧だけでなく脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)など、命に関わる病気の危険性も高まります。

ヘバーデン結節を改善するための食生活の見直しは、そうした病気の予防にもなります。

足し算よりも引き算が重要
たかはしクリニック副院長 高橋真弓

画像: 足し算よりも引き算が重要 たかはしクリニック副院長 高橋真弓

へバーデン結節対策には自分の体に合わない食品を減らそう

人さし指の第一関節がシクシクと痛み出したのは、3年前です。最初は、指を酷使しないように気をつけていましたが、そんなことで痛みが治まるはずもなく、そのうちに関節がポコンと腫れてきました。

ヘバーデン結節をほうっておけば、どんどん変形が進むことはわかっていたので、すぐに食事の見直しを開始。おかげで他の指への影響もなく、痛みや変形はすっかり落ち着いています。

その人によって、合わない食品は異なりますが、私は乳製品と市販のナッツ類が炎症の一因でした。一般的にナッツは、ω3系の油脂やビタミン・ミネラルを豊富に含む、体にいいと言われる食品です。でも私の場合、食べるとてきめんに指がシクシクと痛み出すのです。

まさに、痛みは体が受け付けないものを教えてくれる「アラーム」なのだと実感します。有機栽培の地元産のクルミなら大丈夫なので、市販の製品に添加されている防カビ剤などがダメなのかもしれません。

自らの経験から、有害なものをとり続けていると、体にいい食品やサプリメントをいくらとっても、症状は改善しません。「足し算」より「引き算」が重要です

たとえばω3系とω6系の油のバランスを改善するために、ω3系のDHAやEPAのサプリをとったとしても、そもそもω6系の油を減らさなければ、元の木阿弥になりがちです。

まずは引き算で「安いパンやマーガリン、サラダ油やドレッシング、揚げ物のお惣菜などをやめてみませんか?」と、患者さんにはよくお話します。

調理には米油やオリーブ油を控えめに使うか、ココナッツオイルやエゴマ油を利用するとよいでしょう。

痛みがひどいときは、シップを貼ったり、鎮痛薬を飲みたくなる人が多いのですが、これも極力、引き算したいもの。その場限りの対症療法は、徐々に骨粗鬆症を悪化させます。

体は正直で、食べたものの影響が明らかに出ます。自分にできる努力と症状の出方を比べて、上手に折り合いをつけることが大切ですね。

画像: この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。

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