本来、関節と関節の間には隙間があり、関節軟骨がすり減ることはありません。ところが、「腱の損傷」に修復が追いつかず、筋肉が固まり、腱が縮んで隙間がなくなってしまうと、軟骨がこすれ合って摩耗し、そのカスが関節膜にくっつき、神経に触れて痛みを感じるようになるのです。【解説】高林孝光(アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

高林孝光(たかばやし・たかみつ)

アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。1978年、東京都生まれ。東京柔道整復専門学校、中央医療学園専門学校卒業。2016年、車いすソフトボール日本代表チーフトレーナー。上肢のケガが最も多い球技スポーツであるバレーボールの同一大会で、異なるチームに帯同して全国2連覇した、日本初のスポーツトレーナー。

関節の間が狭くなると軟骨が削れてしまう

私たちの手は、短い骨がいくつも組み合わさってできています。それぞれの指の骨と骨、また骨と筋肉をつないでいるロープ状の組織が腱、その腱を支えているトンネルが腱鞘です。

腱鞘の中を腱がスムーズに行き来することで、私たちは細かく複雑で、精緻な指の動きを行えるようになっています。

へバーデン結節、ブシャール結節、手根管症候群、バネ指(手指の腱鞘炎)などの手指のが痛んだり動かしにくなったりする症状が起こる背景には、必ず「腱の損傷」が関係しています。

腱の損傷をきっかけに、腱鞘炎や関節に炎症が起こって腫れたり、痛みやしびれ、変形などの症状が起こるのです。

こうした手指の病気が、40代以上の女性に多く発症するのには理由があります。

腱の修復を促すのは、女性ホルモンのエストロゲンの働きです。しかし、閉経によってエストロゲンの分泌が急激に減ってしまうことで、腱の消耗に修復が追いつかなくなり、痛みや動きの悪さとして出てきてしまうのです。

では、腱が損傷を受けると、どうして痛みや変形につながるのでしょう。

へバーデン結節の場合、腱が切れたりすると、関節を支えられなくなって、指先がぐらぐらするという人が多いものです。また、何かに指がぶつかると強烈な痛みが起こったり、ものを強く握れなくなったりします。

このように傷めたり、弱ったりしている部分があると、脳はその周りの筋肉組織を固めて守り、安静を保つように指令を出します。

本来であれば、関節と関節の間には隙間があり、関節軟骨がすり減ることはありません。ところが、筋肉が固まり、腱が縮んで関節の隙間がなくなりくっついてしまうと、軟骨がこすれ合って摩耗していきます。

軟骨にはもともと神経がないので、こすれるだけでは痛みを感じることはありません。しかし、こすれることで、軟骨が削れてそのカスが関節膜にくっつき、神経に触れて痛みを感じるようになるのです。

画像: 腱が縮んで関節の隙間がなくなると軟骨が摩耗する。

腱が縮んで関節の隙間がなくなると軟骨が摩耗する。

指先を反らすことで関節が広がる

患部の周りの硬くなった筋肉と腱を伸ばし、狭くなった関節の間を広げるセルフケアとして、患者さんたちに指導しているのが「関節伸ばし」です。

まずは試しに、手首のラインをきっちり合わせて手のひらをくっつけ、左右の中指の長さを比べてみましょう。その後、右の中指で左の中指を押して、10秒間ほど思い切り反らせてみてください。

そして、もう一度、手首のラインをきっちり合わせて左右の中指の長さを比べてみましょう。すると、先ほどよりも反らした左中指が長くなっているのがわかるはずです。これは、関節の間が広がった証拠です。

これで指が伸びるようなら、あなたの関節はまだ癒着しておらず、関節伸ばしで痛みやこわばりが改善する余地があります。ただ、すでに完全に関節が変形して癒着してしまっている場合は、残念ながらこのセルフケアは効きません。

関節の隙間チェック

画像1: 関節の隙間チェック

手首のシワの位置を合わせて、手のひらをつけ、左右の指の長さを比較する。(ほぼ同じ長さ)

画像2: 関節の隙間チェック

痛む指を10秒間手の甲側に反らす。(写真は左中指をチェック)

画像3: 関節の隙間チェック

①と同様に手を合わせ、左右の指の長さを比較し、反らした指が長くなっていれば、関節を広げて痛みやこわばりを改善する余地がある。

関節伸ばしのやり方

特に朝はこわばりや痛みが出やすいため、起床後すぐに行うのがお勧めです。

やり方はシンプルで、痛みのある指を10秒ずつ反らしていきます。全ての指を合わせて、一気に反らしてもOKです。

その後、痛みのある指関節より上(指先側)の部分を、もう片方の手でつまんで引っ張り、関節を伸ばしましょう。これも10秒ほどゆっくりじんわりと引っ張るといいでしょう。

どちらも勢いをつけたり、強く引っ張り過ぎるのはNGです。

画像: 関節伸ばしのやり方

左右の手のひらを離してそれぞれの指を合わせ、指全体で押し合って同時に指を反らし10秒キープする。やりにくければ、チェック法の②のように1本ずつ反らしてもよい。

画像: ヘバーデン結節なら第一関節を伸ばす。

ヘバーデン結節なら第一関節を伸ばす。

画像: ブシャール結節なら第二関節を伸ばす。

ブシャール結節なら第二関節を伸ばす。

痛む関節(ヘバーデン結節なら第一関節、ブシャール結節なら第二関節)より指先側を反対の手で持ち、ゆっくりジワーッと10秒かけて引っ張る。
※つまむところは、指の側面でも上下でも持ちやすい方でよい。

温めて血流をよくすることも大切

指先が冷えて、血流が低下することも、痛みを増やす原因となります。

そもそも指先は体の末端にあり、血流が悪くなりやすい部位です。特に女性の場合には、水仕事も多いので、指先が冷えやすく、血流が悪くなりがちです。

そして、先ほど述べたように、腱が損傷してその周りの筋肉が硬くなると、血管が圧迫されて、ますます血流が悪くなります。

すると、酸素が神経に届きにくくなり、酸欠になって痛みやしびれが出てきます。また、血中を流れる疲労物質だけでなく痛みの原因物質も排出されにくくなってしまいます。

そこで、筋肉をほぐして圧迫状態をゆるめるだけでなく、温めて血流をよくすることも大切です。

ただし、あまりにも炎症が激しいときは、温めるのは禁物で、逆に冷やした方がいいケースもあります。温めた方がよいか、冷やした方がよいかをチェックするよい方法が入浴です。

お風呂に入ったときに痛みが増さなければ、温めたほうがよいでしょう。その逆に、ジンジンと痛みが増すようなら、炎症がひどくなっているので、冷やした方がよいのです。

関節を広げること、温めて血流をよくしておくことが、手指の症状の改善に何より有効です。

ぜひ実行してみてください。

画像: この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。

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