痛みが緩和されれば、生活の質も以前とは比べものにならないほど、向上します。炎症が進み、すでに変形した関節を元に戻すことはできませんが、痛みを取り、炎症を抑制できれば、それ以上関節の変形を進行させないことにもつながるからです。【解説】富永喜代(富永ペインクリニック院長)

解説者のプロフィール

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富永喜代(とみなが・きよ)

医学博士。日本麻酔科学会認定麻酔科専門医、産業医。1993年より、聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務し、延べ2万人を超える臨床麻酔実績を持つ。2008年、愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業、ヘバーデン結節外来を開設する。「中居正広の金曜日のスマたちへ」などテレビ出演多数。『指先の激痛・腫れ・しびれ ヘバーデン結節は自分で治せる!』(永岡書店)、『ドクター富永が15kgやせた!やせる食事の方程式』(マキノ出版)など著書多数。
▼富永ペインクリニック(公式サイト)

手指の痛みを諦められない人が全国から来院

中高年になると、ヘバーデン結節などの手指の痛みやしびれ、動かしにくさに悩む人が、特に女性に激増します。

一般に、手指が痛くなり、整形外科を受診すると、血液検査やレントゲンで、関節リウマチかどうかを調べられます。

そして、リウマチでなかった場合には「加齢のせい」「とりあえず痛み止めで様子を見ましょう」「そのうち変形してきますが、変形しきれば痛みは止まります」などと、慰めにもならない言葉でお茶を濁されて、申し訳程度に鎮痛薬やシップ薬が処方されます。

しかし、これらの薬をいくら使ってもいっこうに症状が改善しないので、何軒もの整形外科を受診する人が多いのです。

基本的に、整形外科の8cmくらいある分厚い教科書に、ヘバーデン結節などに関する記述はほんの1~2ページ。「原因不明で治療法はない」でおしまい。医師としてもなんともできないというのが正直なところなのでしょう。

この手指の病気を発症する人には、手を酷使する人や、女性ホルモンの分泌が急速に減った更年期以降の女性や、出産して間もない女性が多いという傾向があります。

かといって、手指を使う人や、更年期の女性全員が手指の病気に陥るかといえば、全く発症しない人もいます。個人差が大きく、複合的な要因が重なり合って起こることが、原因不明とされているゆえんです。

へバーデン結節が悪化すると、ものをつかんだり、ちょっと指になにかが当たったりしただけで、激痛が走ります。

しかし、手指を使った作業は、日常生活に欠かせません。家事に仕事にと忙しい、40~60代の女性ならなおさらです。また、変形した手指を他の人に見られるのが苦痛だと感じる女性も多数います。

諦めきれず、何軒もの病院をはしごして医療難民となっていた人たちが、全国から大勢、私のペインクリニックのヘバーデン結節外来を訪れます。

そうした患者さんに対し、当院では神経ブロック注射と薬物療法を行い、痛みを取り去る治療を行っています。

痛みがあると、交感神経が活性化し、血管が収縮します。すると、血流が悪くなって、組織に酸素や栄養が行き届かなくなります。

そして、骨や靭帯が栄養失調になって損傷しやすくなり、痛みの原因物質も排出しにくくなって、ますます痛みが増すという悪循環を引き起こします。

反対に、痛みを和らげることができれば、血管の収縮が解除され、血流がよくなって栄養や酸素が行き届くようになり、痛みの原因物質もスムーズに排出されていきます。つまり痛みを取ることで、負のループを断ち切ることができるのです。

痛みが緩和されれば、生活の質も以前とは比べものにならないほど、向上します。

炎症が進み、すでに変形した関節を元に戻すことはできませんが、痛みを取り、炎症を抑制できれば、それ以上関節の変形を進行させないことにもつながるからです。

バネ指や手根管症候群の痛みにも有効

とはいえ、遠方から私のクリニックまで訪れるのは大変でしょう。つらい思いをされている多くの患者さんたちがご自身でできる、痛みを取るための方法をと考案したのが「10秒神経マッサージ」です。

10秒神経マッサージは、手指の動きや感覚をつかさどっている神経が体の表面近くを走っている「神経のポイント」に、刺激を加えて、痛みを止める方法です。

炎症の刺激を末梢神経が脊髄を通して脳に伝え、脳が痛みとして知覚します。

この痛みの信号が長期間続くと、脊髄に「痛みの記憶」が残り、ちょっとした刺激にも過剰に反応して痛みの伝達物質を大量に出し、脳で強い痛みとして知覚されるようになります。

この痛みに関する「神経伝達の誤作動」を起こしている神経に別の刺激を与え、「痛みの記憶」をリセットするのが、10秒神経マッサージの目的です。

手指の痛みに関係する三つの神経(橈骨神経、尺骨神経、正中神経)が体表に近いところを通る「神経ポイント」を、爪の先でピンポイントで刺激することで、痛みを感じる脳にアプローチします。

画像: 首から出て鎖骨の下、ひじの真ん中、手首の手根管を通り、手のひら側の親指、人さし指、中指、薬指の半分(中指側)の痛みを伝える。

首から出て鎖骨の下、ひじの真ん中、手首の手根管を通り、手のひら側の親指、人さし指、中指、薬指の半分(中指側)の痛みを伝える。

画像: 首から出て鎖骨の下、腕の小指側を通り、小指と薬指の半分(小指側)の痛みを伝える。

首から出て鎖骨の下、腕の小指側を通り、小指と薬指の半分(小指側)の痛みを伝える。

画像: 首から出て鎖骨の下、腕の親指側を通り、親指の付け根、手の甲側の親指、人さし指、中指の痛みを伝える。

首から出て鎖骨の下、腕の親指側を通り、親指の付け根、手の甲側の親指、人さし指、中指の痛みを伝える。

神経ポイントを親指や人さし指の爪の先で押すと、グリッとした感触とともに、なんとなく周辺にジワッ、ピリッとした、他とは違う感覚が響くのを感じるはずです。

マッサージ後に軽く爪の跡が皮膚に残るぐらいの「痛気持ちよく感じる」強さで、皮膚を傷つけないように気をつけて行ってください。長くとがった爪で行うのは避けましょう。

10秒神経マッサージは、慢性的な痛みには朝・晩1日2回行うのが目安です。痛みが強いときにも都度行いましょう。

刺激する時間は1ヵ所につき10秒を守ってください。それ以上長く行うと、交感神経が過度に刺激され、かえって痛みを感じやすくなる恐れがあるので注意が必要です。

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