解説者のプロフィール

小野澤久輔(おのざわ・ひさすけ)
福岡大学医学部医学科卒業。福岡大学病院形成外科、神奈川県立こども医療センター形成外科、市立御前崎総合病院形成外科などを経て、2018年より四谷メディカルキューブ 手の外科・マイクロサージャリーセンターに勤務。手の外科、形成外科を専門とする。
▼四谷メディカルキューブ(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
女性ホルモン低下が引き金となる
40代以降、多くの女性が悩まされる手指の変形や痛みには、次のような症状があります。
〇指の第一関節(一番指先に近い関節)に痛みや変形が起こるヘバーデン結節
〇同様の症状が第二関節に起こるブシャール結節
〇親指の付け根が痛む母指CM関節症
〇指の腱鞘炎やそれが悪化して起こるバネ指(指を伸ばそうとすると跳ねるように動く)
〇手首の腱鞘炎の一種であるドケルバン病
〇指のしびれや痛みが起こる手根管症候群
症状が起こる場所でそれぞれに症状名がついていますが、実はこれらは「女性ホルモン低下が引き金となって起こる」更年期障害の一種と言えます。

発症した部位によって名称は変わるが原因はほぼ同じ
手指や手首にはたくさんの関節があり、前腕の筋肉からそれぞれの骨につながったロープのような腱を引っ張って、精細な曲げ伸ばしの動きを生み出しています。
それぞれの関節や、いくつかの腱を束ねるトンネルのような腱鞘の周囲には、潤滑液のような滑らかな動きをサポートしている「滑膜」と呼ばれる組織があります。
腱鞘の滑膜が厚くなると、腱鞘のトンネルが狭くなって中を通る腱との摩擦が大きくなり、炎症を起こします。
関節を包む滑膜が厚くなれば、関節の動きが阻害されてこわばりやしびれが起こり、炎症から痛みが起こります。
この滑膜の厚みを左右しているのが、女性ホルモンの変動です。そのため、更年期を迎える45歳ぐらいから手指の違和感がくり返し起こり、次第に痛みが強まっていきます。
継続的な炎症によって10年ほどかけてジワジワと関節の変形が進み、60歳以降になると、変形はあるが、何もしなければ痛くないという状態になります。
男性の体内でも女性ホルモンは作られているため、減少することで男性にも発症します。ただ、女性より10年ほど遅れて、60歳くらいから症状が出始める例が多く、頻度も少なめです。


ヘバーデン結節とそのレントゲン写真。人さし指、中指、小指の第一関節が変形している。
1日10mgのエクオール 摂取が目安
そこで私たちが行っているのが、女性ホルモンのエストロゲンに似た構造と作用を持つ「エクオール」という成分を補充する「エクオール療法」です。
エクオールは、大豆イソフラボン(ダイゼイン)が腸内細菌によって発酵されてできる物質で、女性ホルモン様作用の中心物質です。
エクオール産生菌が腸内にいる人(日本人の約半数)であれば、毎日木綿豆腐を3分の2丁か納豆1パック(50g)、もしくは豆乳200mlをとれば、十分な量のエクオール(1日10mg)が体内で産生できます。
しかし、エクオールが産生できる腸内細菌がいない人では、いくら大豆製品を食べてもエクオールは作られず、十分な女性ホルモン様作用が得られません。そのため、大豆製品ではなく、エクオールを直接摂取することが必要なのです。
エクオールの効き方には個人差がありますが、「朝の手のこわばりが気にならなくなった」、「痛みが緩和されてらくになった」という人が多くいます。こういう人は、エクオールの摂取を続けていれば、将来の変形予防にも有効と考えられます。
残念ながら、すでに起こってしまった変形を元に戻す効果はありませんが、別の関節への進行を阻止するためにも、エクオールの摂取をお勧めします。
エクオールは製剤(医薬品)がまだなく、サプリメント(栄養補助食品)として市販されています。表示を確認し、1日10mgのエクオール摂取ができる製品を選ぶとよいでしょう。

この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp