何かで怒ることは自然な感情だ。しかし高齢者の場合、その怒りの大きさは怒りの原因より、これまで蓄積されていた怒りの方がはるかに大きいということが問題なのである。過去のしがらみにとらわれず今を生きる!これができれば、どんなに心の安らかさを得られるかわからない。【解説】加藤諦三(作家、社会心理学者)

解説者のプロフィール

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加藤諦三(かとう・たいぞう)

作家、社会心理学者。東京大学教養学部教養学科を卒業後、同大学院社会学研究科修士課程修了。東京都青少年問題協議会副会長を10年にわたり務める。2009年東京都功労者表彰、2016年瑞宝中綬章を受章。現在は早稲田大学名誉教授の他、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員、日本精神衛生学会顧問、早稲田大学エクステンションセンター講師などを兼任。近著『他人に気をつかいすぎて疲れる人の心理学』(青春出版社)が好評発売中。

キレる老人の心理

近年、「キレる高齢者」という言葉を耳にすることが増えました。ちょっとした人の言動でイライラする、些細なことで過剰に怒る……。自分に当てはまると感じた人や、思い当たる人物が浮かんだ人がいるのではないでしょうか。今回は、そんな人の心理についてです。

怒りの原因が、今の怒りの対象である場合はわかりやすい。しかし、その原因が怒っている人の無意識の領域にある場合、非常にわかりにくくなる。

特に、不安感を持つ人は、相手を攻撃することで、自分の心理的安定を求める

ある人の何気ない言葉が、その人の「過去から蓄積された憎しみ」に火をつけてしまうことがある。これが原因で、少しでも人が失礼な振る舞いをしただけで、怒りが収まらなくなる場合があるのだ。

このように、その場に不釣り合いな怒りを表現するときは、その人の中に過去からの怒りの抑圧がある。小さい頃から、敵意を無意識に次々と抑圧していくと、敵意がその対象から解離して一般化する。そうなると、もう誰も彼もが憎らしくなる。

ちょっと失礼なことを言われただけで、心理的に不安定になり、怒りでなかなか眠れない。

それは、敵意が単にある人への隠された憎しみという段階から、別の人への隠された憎しみと複雑に融合することで変容し深刻化しているからである。

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このような怒りは、心の中に表現されないまま、次第に慢性化していく。

敵意が慢性化するということは、その人は「すぐ怒る性格」だということだ。特定のある人に怒っているのではなく、誰であっても怒りの対象になる。

怒りの導火線にたまたま火をつけた人に向かって、それまでたまっていた怒りが爆発する。些細な失礼で、隠された怒りに火がつく。こんな人は、怒りが慢性化しているために常に怒っていて、一度火がつくとちょっとやそっとでは収まらない。

つまり、体は今にあるが、心は過去にあるということ。人は過去から自由ではない。

心理的に健康な人は、こういう人を見ると「何であんなことで、あそこまで怒るのか」と不思議がる。「なんでいつまでも怒っているんだ」とも考える。

しかし、この感情、特に、高齢者の記憶に凍結された恐怖感や怒り(frozen in memory)はなかなか理解できない。

何かで怒ることは、自然な感情だ。しかし高齢者の場合、その怒りの大きさは、怒りの原因より、これまで蓄積されていた怒りの方が、はるかに大きいということが問題なのである。

何でもない日常会話に対する過剰反応は、その人が、想像を絶する蓄積された怒りを無意識に持っている証拠でもある。

もしかすると、相手の態度が、幼児期から受けてきた屈辱的な数々の感情的記憶をよみがえらせたのかもしれない。

ただ、本人にはその意識がなく、そのときの相手に向かって怒りを吐き出している。このような過去の再体験は、悩んでいる人の錯覚という極めて一般的な法則だ。

過去のしがらみにとらわれず今を生きる! これができればどんなに心の安らかさを得られるかわからない。

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また、高齢者で、小さい頃から怒りを無意識に隠している人は、周りの人皆を嫌いになっている。

その他にも、漠然とした敵意を世の中に持っている人や、敵意とまではいかないが、広範囲にわたって慢性的な不満を持っている人もいる。

今の自分が置かれた環境で、いい方に目を向けないで、悪い方に目を向ける。自分にあるものを数えないで、自分にないものを数える。

そのように考えてしまうのは、隠された怒りと隠された嫌悪感が無意識にあるからだ。

つまり、その人の物ごとの認識を、無意識にある隠された怒りと嫌悪感が決めている。隠された無意識の問題が、今目の前にあることで、こうした感情が表に出てきたということだ。

アメリカの偉大な精神医学者シーベリーは、「注意に注意せよ」と書いている。それは、自分の注意が「今どちらに向いているか?」を考えるべきと示している。

例えば、こんな場合がある。ある人は、小さい頃に親子関係で傷つき、不安感を持ちながらそれらをがまんして生きてきた。その後、無意識では彼らや周囲のことが嫌いなのに、自分たちは仲のよい家族だと認識していた。

こういう人こそ、不安や怒りを心の奥底にためてしまいがちになる。

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不安な人は、怒ることで優位に立ち、そのことで不安を解消しようとする。

怒りっぽい高齢者もまた、小さい頃に解決されなかった心理的な問題が、心の底に山積みになって不安を生み出している。

企業で例えるなら、粉飾決算が重なり、債務超過で倒産するところである。心の借金がたまり過ぎて、ヤミ金にまで借り出しているような状態だ。

この解決法は、正直に心の履歴書を書くこと。過去の自分の経験や、それに対する思いを、ノートに書き出してみるといいだろう。

加えて、新たな知識を得ることも重要。学ぶことに、年齢の制限はないのだ。

画像: イラスト:中島智子

イラスト:中島智子

画像: この記事は『安心』2021年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

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